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掌編小説集

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長編、短編など、小説を文字数で分類する正式な定義はないそうです。ただ、一般的には、4,000〜5,000文字以内の短い物語を、掌編小説(ショートショート)と呼んでいます。 ここで… もっと読む
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ひとしずく

ひとしずく

もしも、一滴一滴の雨に生命が宿っていたら……
私は、そんな空想をします。



一滴の雨が、空から舞い降りています。
彼は考えます。

「僕は、まだ生まれたばかりなのに、落下するしか出来ることがないんだ……この先、一体どうなるのだろう?」
「何故、僕は生まれたの? どうして、生きないといけないの? 死ぬことは出来ないの?」
「生きるってどういうこと? 死ぬってことは?」

一滴の雨に

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つ・の・が・あ・る・ひ・が・し・か・ん(#毎週ショートショートnote)

つ・の・が・あ・る・ひ・が・し・か・ん(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

ツノガエル冷やし缶?

なにそれ。
「毎週ショートショートnote」の裏お題みたい。
変なこと言わないで。

はい? ツノガール?
冷やし缶じゃないって?

やだ、ツノガール乱し姦?
ハード系の下ネタなの?
無理無理無理!

そもそも、ツノガールって何よ?
山ガール、森ガール……みたいな、角好きな女?

違うの?
なに、「ツノがある」なの?
乱し姦は?
あ、乱し姦も違うのね?

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Boy Meets Girl(#毎週ショートショートnote)

Boy Meets Girl(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

「ナースオフィスはどこよ?」

 少年は唐突に話し掛けられた。振り向くと、金髪の美少女がガムを噛みながら腰に手を当て睨み付けていた。
 外国人、いや、アメリカ人と断定してもいい感じの自己主張の強そうな少女だ。

「あんた、耳と口あるの?」

 攻撃的な性格も、如何にもアメリカ人だ。大和撫子なら、もっとお淑やかなのに。

「頭が痛いの! 案内してくれる?」
「ナースオフィスって

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ドローンの課長

ドローンの課長

(本文410文字)

 課長は、死語の世界に生きている。
 彼は、何でも十代の頃に親の都合で海外に移住し、そのまま日本の文化に触れないまま四十年経過し、最近帰国したばかりだ。縁故採用で管理職に抜擢されたが、常識が少しズレていた。
 特に、言葉遣いが不自然だ。幸い、日本語の読み書きは問題ないのだが、使う言葉が古めかしいのだ。

「チミのファッションは、いつもナウイな」
「これ、Bダッシュで仕上げてく

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窓外の雪に想いを馳せて(#シロクマ文芸部)

窓外の雪に想いを馳せて(#シロクマ文芸部)

(本作は1,610文字、読了におよそ3〜4分ほどいただきます)

 冬の色は白。そうイメージする人が多いらしい。雪からの連想だろうか。
 冬の空も雲が薄く広がり、白っぽくなることがある。動物たちの体毛も、白く生え変わるものもある。だから、冬の色は白……。
 でも、僕には関係のない話だ。

 空調管理が徹底されている個室のベッドで、僕は今日も静かに一日を迎える。いや、一年を迎えると言うべきだろう。そ

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黒い影(#シロクマ文芸部)

黒い影(#シロクマ文芸部)

(本作は3,125文字、読了におよそ5〜8分ほどいただきます)

 逃げる夢——いや、ひたすら逃げ続ける夢を見るようになったのは、いつからなのだろう? 多分、自分では分かっている。でも、そこに因果関係を認めたくないだけだ。
 黒い何かに追われている。影のようでもあり、煙のようでもある何か。単なる気配だけなのか、不吉な陽炎なのか、幻覚なのか、本当に夢なのか……いや、もう夢の中だけではない。いつも、黒

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あとがき

あとがき

(本作は2,442文字、読了におよそ4〜6分ほどいただきます)

「衝撃のtableau(タブロー)」というタイトルに惹かれて本書を手に取り、果たして本当に読む価値があるのかどうか探りを入れるべく、まさに今、このあとがきを立ち読みしているあなた! そうです、そこのあなたです! 既に読み終えた私から言えることはただ一つ、絶対に読むべきです!

 鬼才、岩田正道による本書「衝撃のtableau(タブ

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数学ダージリン(毎週ショートショートnote)

数学ダージリン(毎週ショートショートnote)

(本文726文字)

 高級なファーストフラッシュをいただいた。

 どうせなら、美味しく淹れたい。調べてみると、茶葉1gに対し、熱湯は150mlが良いらしい。早速、1g用のティースプーンを購入し、本当にこのスプーン一杯の茶葉が1gなのか測定してみることに。
 しかし、高精度のデジタルはかりで測定すると、何と1.05gもあった。もう一度測ってみると、1.02g……五十回測定した平均値は1.0321

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スベり高等学校

スベり高等学校

(本文410文字)

 朝の全校集会で、私は壇上に上がろうとして躓いた。マイクにオデコをぶつけたが、いつものお約束、生徒は冷ややかにスルーする。

「パァー、うわっ、出たっ!」
 いつもの光景に、ここでも生徒達は無反応。
「皆の衆、おはようでござる」
 すべった。順調な出だしだ。

「今日の運動会、皆んなに守って欲しいことが一つだけある。一度しか言わないぞ。怪我のないように、水分をしっかり摂り、全

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鬱屈オーケストラ(#シロクマ文芸部)

鬱屈オーケストラ(#シロクマ文芸部)

(本作は4,917文字、読了におよそ8〜12分ほどいただきます)

「走らない! 特にファースト! 何度言えば分かるんだ! 勝手にテンポを変えるな!」

 静まりかえった練習場に指揮者の野太い怒声が響き渡り、微かにティンパニに共鳴する。数日前より、エアコンの調子が芳しくなく、高温多湿になりがちな練習室は、オケメンバーの苛立ちが充満している。
 しかも、今回の客演指揮者は、河内というパワハラ気質の短

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薔薇化

薔薇化

(本文410文字)

 俺は、腋に少しでも刺激を受けると、薔薇時計にスイッチが入る体質だ。そして、一度薔薇時計が起動すると、その瞬間から俺は薔薇族になってしまう。なので、常に腋をガードした生活に徹しないといけない。

 今のご時世は、社会的に薔薇族も受け入れてもらえるかもしれない。いっそのこと、解放しても……と考えたこともあるが、普段はいたってノーマルなのだ。
 なのに、ちょっと腋をくすぐられただ

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13月(#シロクマ文芸部)

13月(#シロクマ文芸部)

(本作は1,950文字、読了におよそ3〜5分ほどいただきます)

 月めくりのカレンダーを自作しようと思い立ったのは、確か八月下旬頃だった。本音を言うと、カレンダーじゃなく趣味の水彩画を飾りたい、というのが動機だ。
 でも、自作の絵だけを飾ると、知人が遊びに来た時に、単なるナルシストと思われそうなので、「これはカレンダーなのだ!」という既成事実を前面に押し出すことで、ナルシズムを少しでもカモフラー

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成仏の宴(#毎週ショートショートnote)

成仏の宴(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

 死んだら土に還る……それこそ、生命の本質のはずだ。魂がどうのこうのって話は、人間が死への恐怖を和らげる為に創った寓話で、本当は動物の死体は自然に分解され、土に還り、植物を育み……と、生命の循環に取り込まれるべきだ。
 成仏なんてものも、人間が描いた空想を具現化しようとする愚かな概念だ。もしそんな理想が実現するのなら、死んだ肉体は自然界の養分になってこそ、成仏と呼ぶべきではな

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ボスが言ったから(#毎週ショートショートnote)

ボスが言ったから(#毎週ショートショートnote)

(本文410文字)

「いいか、なるべく動物園に見せ掛けるんだぞ」
 ボスは、そう言い残して立ち去った。

 なるべく動物園に見せ掛けろ……いつもは、自殺に見せ掛けろと指示されるのに、ちょっと意味が分からない。考えろ、考えるんだ!

「動物園で殺れ」ということか、いや、動物園での事故を装えという意味か……違う、動物園に見せ掛けろ、と言ったのだ。ボスが間違えるはずがない。よく分からないが、言われた通

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