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詩「ああ、私の骸は沢山のヨーロッパエゾバイ貝に貪られ・・」

「ああ、私の骸は
沢山のヨーロッパエゾバイ貝に貪られ・・」
黒実 音子


私は海で死んだ。
灰の様な暗い北極海(オケアヌス・アルクティクス)で、
命の無い荒波の咆哮に飲まれ、
仲間の漁師達と共に
海底に沈んだ。

ああ、ここでは時々
凍える屍衣を羽織った
死者達が歌っている。
邪悪で醜悪な笑みを浮かべながら、
凍った己の魂を抱えて。

ああ、アイスランドの漁師達は、
暖を取る事も叶わぬ。
故郷の灯を見る事も叶わぬ。

かつて私の腐肉には
沢山の西洋海蠃貝(ビュロット)達が集り、
さらに北方の方では、
その内臓(はらわた)には、
色の無いヒモムシやヒトデ達が招待され、
決して祝福されない
音を立てぬ饗宴が開かれたものだ。

それは神の慈悲無き、
色の無い葬送であった。

ああ、寂しい我らの骸は、
海流に流され、
青緑色の冷たい海底を旅をする。

かつて私が生きていた頃、
陸の上で友人が言っていた。
「北の海の底には
収税吏が訪ねて来ない」
と。

陸では信仰よりも
軽佻な諧謔が優勢故に、
私達は大笑いしたものだ。

だが、友よ。
私は思う。
それは間違いだと。

人はいずれにせよ、
何処まで逃げたとしても
徴収されるのだ。
キリストに借りを返す事になるのだ。
あるいは自分自身に
負債を払う事になる。
自分という収税吏からは
逃げられないのだから。

私は海で死んだ。
それでも私は
海に囚われている。

ああ、ポリニヤの狭間から楽園を仰ぎ、
頭上より降り注ぐ、
凍った死の指(レ・ドゥワ・グラシ・ド・レ・モルト)に
無慈悲に殺されていく
冷たい海底の棘皮類達と共に、
楽園の事を考えている。




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