Take-10:『SHE SAID/その名を暴け(2022)』は面白かったのか?──見世物としてのセクハラはもういらない──
【映画のキャッチコピー】
『世界中の #Me Too に火をつけた1つの記事』
【作品の舞台】
【原題】
『SHE SAID』
では本編をお楽しみくださいませ。
皆様、よき映画ライフをお過ごしでしょうか? N市の野良猫、ペイザンヌでございます。
さて、一片のユーモアもなくカチコチのこの映画、頭の悪いペイザンヌが理解できるのか?
序盤は少し心配であったものの展開と共にグイグイ食い入って観てましたね。
なんならちょっと泣けたというか……
「え、これって泣くような映画だっけ? 社会派映画じゃなかったっけ? こ、こいつぁいったい何の涙だ?」みたいな……
日本でも何というか変な事件やいたたまれない事件があると「いったい誰が弱い者を助けるのだらう……」など考えつつ、どこか「ま、どうせ自分に何ができるわけってわけでもないんだよな」みたいな諦めモードや冷めた気持ちになる人も多いのではなかろうか(自身も含め)。
この主人公も「これを記事にして何になるの?」からスタートするのよね。
個人的に最近はマーベルのヒーロー映画を観る機会が多かったのだけど「葛藤しつつも悪を叩くヒーロー」のようにデフォルメされた映画も、もちろん面白くはありますが、そういうもの”だけ“を観過ぎても現実逃避に毒されてしまうような……と少し頭をかすめていたところで。
「ああ……久々にガツンとストレートな映画を観せられたな」とかえって新鮮。
異能力のヒーロー不在の現実世界でも「なんだ、人間・大衆の力だって凄いじゃないか」と──まあそんな涙だったのかもしれませんね。
主演はキャリー・ミリガンとゾーイ・カザン。キャリー・ミリガンといえば『プロミシング・ヤングウーマン(2020)』で怪演を見せつけてくれたのが記憶に新しいですやね。ちなみにこの作品はボク自身その年のベスト1に選んだ作品でもあります。
『プロミシング・ヤングウーマン』ではやはり女性を物のように虐げる男たちに鉄槌を下す女性を演じておりましたが、今度はそれを「ペン」に変え、法のもとに制裁を下します。
そしてゾーイ・カザン。
カザン? はて?──とピンとくる方もいるでしょうが、そう、彼女はしれっとあの巨匠エリア・カザン(『素晴らしきかな、人生!』などの監督ですね)の孫娘だったりします。
思えば同じくセクハラ問題を描いた、シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、そしてマーゴット・ロビーの三大女優が共演した『スキャンダル(2020)』なんて映画も近年ありましたが、この『SHE SAID』は技巧的にも回想でセクハラ・シーンをあえて見せないところも良い。それはそれで観客のイマジネーションの力を信じてくれてる気がしましたね。
なにより「実際に同じようなことをされた人」が、もしこの映画を観た場合、フラッシュバックなど起こさないように配慮されてる可能性も高いと思われます。
前述した『スキャンダル』ではジョン・リスゴー演じるFOXニュースの創立者で元CEOのロジャー・エイルズに実際セクハラを受けるシーンが映像としてありましたが、やはり観ていてそういうことが頭をよぎったのも確か。
遡ればシャーリーズ・セロン主演、全米で初めてセクシャルハラスメント訴訟に勝った事件をもとに作られた『スタンド・アップ(2005)』という映画や、15分にも及ぶレイプシーンで話題……というよりも社会現象にすらなったジョディ・フォスター、ケリー・マクギリス主演の『告発の行方(1988)』なども有名ですよね。
実際にレイプやセクハラを受けるシーンを見せられれば「怒り」の感情は沸き、さらに最後に悪が裁かれればカタルシスも呼びます。映画的な盛り上がり的にはそれでいいのかもしれませんが、「で、現実問題どうするの?」と鑑賞後ぽっかり穴が空いてしまうような気分になるのも否めません。
そういった「見世物としてのセクハラ・シーン」よりも現実問題として、理路整然と、誰に相談を持ちかけ、法的にどう立ち向かって解決していけばよいのか?──と提示してくれるのはより映画として現代的になったといえるではないでしょうか。
逆に言えばセクハラ・パワハラ問題というものが決して遠いものではなくなり『告発の行方』公開当時には“隠されていたかもしれない許すまじ行為”も次第に露呈され、告発されていく時代になったとも言えるわけで。
「見せない」といえば、本作で悪の根源、黒幕である人物ハーヴェイ・ワインスタイン──こちらもあえて姿を出しません。
「映画に出てきたこいつだけではないんだよ。あなたのすぐ近くにだって、こんな人間はたくさんいるんだよ」──と、そんなことを思わせる演出を感じたのはボクだけではないはず。
パワハラやセクハラを無くすのは、実は比較的簡単だとも思っております。
絶対的権力者、そういう偏った者を作らないようにすればいいだけの話。相手を好きなように扱う権力、バレても自分の悪事を揉み消す大金、それを偏らせない。新人のペーペーが上司にセクハラ、もしくはパワハラする──とかあまり聞いたことありませんからね。
……が、残念ながら、まず現実問題としてそんなことは不可能に近いわけで。
権力、財力のある人はかならずといっていいほど「どこかで」その辺りが緩む気がしないではいられません。昔、そうではなかった人ですら変えてしまう魔力があるのでしょうね。
この作品の登場人物は実在の人物をそのままきちんと使っており、グウィネス・パルトロウの名前や本人役でアシュレイ・ジャッドも出演。
プロデューサーのワインスタインにグウィネスが実際セクハラを受けていたのは、年代的に見て『恋に落ちたシェイクスピア(1998)』、またアシュレイ・ジャッドであれば『スモーク(1995)』の撮影の頃あたりなのか……な?──などとフィルモグラフィーを見ながら……(あくまで推測です)
現実で実際に訴えられたハーヴェイ・ワインスタイン。姿や顔が登場しなかったので実際にはどんな顔やねん?──と思ったら、こんな顔でした。
悪そうやねw
そんなワインスタインでも、やはり若い頃はトリュフォーの『大人はわかってくれない(1959)』に感銘を受けたらしく、おそらく映画愛に溢れた人だったのが少し汲み取れるのよね……。
実際ウィキなどで参照して頂ければわかるように「え、あの映画も、この映画も手掛けてたのか!」と、超有名な作品がボロボロ出てきますからね。
金と権力は諸刃の剣なんだろうな、やっぱり……
ではまた次回に!
【本作からの枝分かれ映画、勝手に7選】