見出し画像

ユトリノヒトリ【07】 #眠りにつく頃

ユトリノヒトリ【06】こちら ▶︎▶︎


結局、電車も無いし、タクシーが停まった場所から、4人で少し歩きながらジョージさんの部屋へ向かう。

ジョージさんはこの前のドライブの時に、自分の家の場所を私に教えてくれていた。

彼は兵庫県民だった。そして、私が想像していたホストの家とは全く違ったのだ。普通のアパートだけど、たぶんジョージさん以外の住民は若い家族が多いのかな?という感じだった。

私が想像してたのは、繁華街の近くにあるマンションで、それも上の方。無駄にオシャレな部屋に住んでるんだろうなって思っていたら違った。

なんで、人ってこう……自分と少し住む世界が近いと感じたら好感度が上がるのだろうか?私は彼を別世界の人だと思っていたから余計にかもしれないのだが、本当に好感度は急上昇だった。


アパートに着く前にジョージさんはアツシさんと何やら話をしていて、私は必然とリカちゃんと喋るようになった。

「ジョージさん意外すぎる。庶民派アパートなんですね!ビックリやわ……」

リカちゃんは少し小さい声でビックリした顔を隠さず話した。そしてもっと小さい声で、なんか好感度上がるなぁと呟いて、私も……そうだねと小さく頷いた。


そして部屋に入る時、リカちゃんがジョージさんに意地悪っぽく尋ねた。

「ジョージさん、いいんですかぁ?客に住所バレて、しかも部屋まで公開しちゃってぇ」

「客やと思ってたら部屋まで教えんやろ!リカちゃんは真琴の友達やから特別やで」


私はちょっとした優越感のような感覚に包まれたのを必死に隠した。私が彼女みたいな口振りだったから。でも騙されたくない。

私はほぼ恋愛初心者だ。高1の時、1人だけお付き合いをした彼とは、手を繋いで帰ったりするような可愛いお付き合いだった。

だから、男の人の部屋に入るのも初めてで、こんな特別感を味わうのも初めてだったのだ。

ジョージさんが部屋の電気を付け、中へ入って行く。私が入る、リカちゃんが入って、最後にアツシさん。アツシさんはジョージさんと同い年らしくて、お店でもプライベートでも仲良しらしい。

リカちゃんがアツシさんを指名したのは、ジョージさんにとってはラッキーだったみたいだ。



・・・・・・・



「適当に座って!なんか飲む?あっちゃんお茶やろ?リカちゃんは?」

「うちもお茶が良い!緑茶あります?」

「あるで!じゃあ、あっちゃんも緑茶な」

そう言って冷蔵庫からペットボトルを数本持ってきてテーブルの上に置いた。すると何も言わずにジョージさんは私の前に、ある水のペットボトルを置いた。

思わず、えっ!?と声が出た。この前私がドライブの時にコンビニで選んでいた、好きな水だ。私はすぐにジョージさんの方に振り向いた。

ソファに寝そべりながらお茶を一口飲んでから、ちょっとふざけたドヤ顔で笑う。

「真琴 evian 好きやろ?

「なんで……?」

「俺そういうのできる子やねん、なぁ?あっちゃん!俺できる子やろ?教えたって!」

ジョージさんが照れ隠しのように、めちゃくちゃふざけて話を振るから、ちょっとお茶を吹き出しそうになってたアツシさん。リカちゃんもキャッキャと笑う。私もその雰囲気に溶け込んでいた。そして他愛もない話をした後、時刻は夜中の3時をとっくに過ぎていた。

ジョージさんがもう眠いとか言ってアツシさんと何やら少しだけ話した後、アツシさんがリカちゃんと私に改まって言う。

「もう皆で泊まってこ!」

「やったぁ!お泊りやぁ!もうホンマに眠い!」

「マコちゃんも泊まろうや?」

アツシさんが優しく聞いてくれた。実はアツシさんとは同郷で、方言が懐かしく、すぐに打ち解けた。それにEXILE系の厳つい風貌なのにサングラスを外すとつぶらな瞳なのがツボで、よくふざけながら話ができる人だった。

「じゃあ、明日始発で帰ります」

「えっ!?始発は早すぎるってマコちゃん!うち絶対に起きられへん自信しかない」

あ、そうか!もう4時が近い。すぐ始発だ。

リカちゃんと起きたら一緒に帰るという約束をして、泊まることに。だけど何故かリカちゃんはアツシさんと一緒に隣にあるジョージさんの寝室へ向かった。

そしてジョージさんはベッドにもなるソファを広げていた。手際良く枕とかをセッティングしてから、当たり前かのようにそこに座った。私は状況が掴めず、立ち尽くしていた。リカちゃんと2人で寝るもんだと思っていたからだ。

するとジョージさんは自分の横を手でポンポンと軽く叩き、こっちおいでと言う。私は足が鉛になったかのように動けないでいた。

するとジョージさんはちょっと笑って立ち上がり、私の方へ来て、躊躇なくお姫様抱っこをしてこう言った。

「姫、お迎えにあがりました」

そう言って私をソファベッドに座らせた。そしてDVDを付けて一緒に観ようと言う……私は心臓がどこかへ飛んでいきそうな勢いで、息まで詰まりそうだった。こんなつもりじゃない。違う!!!

モヤモヤしていたら、ジョージさんは後ろから抱きついてきて耳元でこう囁いた。

「何かされるとか思っとるやろ?せーへんから安心して、シンデレラ一緒に観るで」

するとテレビ画面にはディズニーのシンデレラが始まっていた。なんで今、シンデレラなのか?そういう突拍子もない所がジョージさんにはある。

なんかゴニョゴニョと、ディズニーが好きみたいな話を前回のドライブでしていた記憶が一瞬で蘇ってきた。女子ウケを狙ったデタラメじゃなかったことに、不覚にも少しときめいていた。


彼は私の肩に顎を乗せるような感じで後ろからふんわりと包み込んでいた。でも、当時の私は手を繋いだことがあるのと、辛うじてファーストキスはその高1の時の初カレだったくらいで。後ろからハグされるなんて、小さい頃の母親以外には生まれて初めてと言う事になる。

無理だ。息ができない。近い。しんどい。

私は映画の内容も全く入って来ず、背中や肩、それにジョージさんがギュッと握っている自分の両手に全神経を集中させていた。動けない。

1時間くらいしてからジョージさんも疲れたのか横になって右手で枕みたいに頬杖をついた。そうしたら必然的に私が邪魔になる。

「見えへんから、ここおいで」

私はできるだけ離れて寝転んだ。今にも落ちそうになるギリギリの所をバランスをとりながら息を潜めていた。もう、帰りたい。そう思った。

するとジョージさんはいきなり起き上がって、私をソファベッドの真ん中に寝かせて、布団をかけてこう言った。

「俺約束は守るからさ、そんなビビらんでええよ!俺のこと怖いか?」

私は正直なところ、全く信じていなかったので、本当に好きかどうかもわからない人の部屋に入って2人っきりになってしまうなんて!と、ガッツリ後悔をしていた。泣きそうだった。でも……ジョージさんは見た目とのギャップがあり過ぎる。私はこの時、初めて彼と目を合わせた。そして小さく首を横に振ってからちょっと震えた声で言う。

「怖くない」

するとニコッと笑って、ジョージさんは私のおでこにキスをした。私がビックリすると、

「あ、あかん!今のはノーカンや!なんもせーへんぞ!俺は!」

そう言って照れくさそうに背を向けて、ソファベッドの下に大きなクッションを置いて、その上に寝そべって薄いブランケットをかぶって寝た。


なんだ……あれ……ジョージさんじゃないみたい。なんであんな耳まで赤くなるの?なんて考えていたら、スッとジョージさんの腕が伸びてきた。

「手繋いで寝よう」

女子か!?って言いたくなる程、私より可愛いことを言う24歳だなって思った。私とジョージさんは5歳差で、私が19歳。何でこんな子どもを相手にしてるのか疑問だった。


仮にも彼は大阪のホストクラブで大箱では無いにしても、毎月No. 1になるほどの男だ。遊びにしては面倒くさい女を選んでいる。何故、私なの?その疑問をずーっと抱いたまま、私は彼との時間を過ごすことになる。


因みに、なんかジョージさんの背中が丸くなって可愛かったので、手じゃなくて、指を繋いで寝た。最も、壁側を向いて寝たかった私はすぐにその指も離した。


やっと眠りにつくかつかないかの狭間の時、外はもう朝日が顔を出していた。それを確認しながら頭がボーッとしていた時……どさくさに紛れて、壁側に向いていた私の横にジョージさんが来て、布団の上から私を抱き枕にした。

さみしんぼ過ぎる大人だなって思ったのを最後に、私は深い眠りについた。




ーーーーー



ユトリノヒトリ【01】から読みたい方はこちらのマガジンからどうぞ!▶︎▶︎

主人公はゆとり第一世代のマコ(一ノ瀬真琴)アラサーになったゆとり世代が歩んだデコボコ道をほぼノンフィクションで小説にしました!



ーーーーー


このお話は、私の昔の体験を元に書いていたノンフィクションエッセイを……登場人物の名前や団体名、場所などを一部フィクションにして小説にしています。

主人公、マコの挫折や恋愛、仲間の裏切り、夜の世界で飲み込まれそうになりながらも、それでも前を向いて生きていく、少し長めのお話です。


今回も最後までお付き合い頂きありがとうございます。また更新しますね!




peco





この記事が参加している募集

サポートして頂く方へ♡ありがとうございます。あなたのサポートがとても大きなチカラになります☺︎