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【編集後記】『BIRTH いのちの始まりを考える講義』が生まれたいきさつ

こんにちは。はじめてnoteの記事を書かせていただきます、PEAK books編集部の早河と申します。

10月下旬に、レーベル第6弾となる『BIRTH いのちの始まりを考える講義』が発行となり、その編集を担当しました。
ゲノム編集、iPS細胞などのサイエンスから、倫理・当事者視点まで、“ヒトの誕生にまつわる物語”を2人の発生生物学者が語る内容です。
今回の記事では、なぜ本書を翻訳しようと思ったのか、編集の裏側を少しだけご紹介します。

私はかつて、薬学部に所属し、学部生の頃は有機化学や分子生物学など生命科学とその関連分野を学んでいました。その中の1つに「発生生物学」の講義がありましたが、そこで参考書に挙げられていたのが「ギルバート発生生物学」でした。精細なイラストが満載で眺めているだけでも楽しく、1つの受精卵から複雑な体がつくられる様子に魅了されるばかりでした。

それから10年以上経ち、PEAK booksを手掛ける羊土社に入ってから出会った本が、今回ご紹介する本の原書となる「Fear, Wonder, and Science in the New Age of Reproductive Biotechnology」でした。出会いのきっかけは、ドイツで行われたブックフェアで同僚が本書を目に留めてくれたことでした。「ギルバートって、あの発生生物学の教科書の?」という驚きから、本書を読んでみると、その冒頭、ギルバート博士はこう語っていました。

「きみたちに闇の魔術に対する防衛術を指導する……それが私の役割です」

闇の魔術というのは、ここでは遺伝子や受精に関する根拠のない話を指します。例えば“行動や個性はすべて遺伝子が決める”、“精子は卵子に積極的に穴を開けて受精する”…といったものです。かつて生物学を勉強していた私もこのような話に反論できるか、と問われるとうまくは説明できません。そんな「呪文」に対する「反対呪文」を学ばせてくれるような語り口に一気に引き込まれ、ぜひ本書を翻訳したいと決意するに至りました。

また本書はギルバート博士と、もう1人の著者であるクララ・ピント-コレイア博士が交互に、現代の発生生物学からわかることと、生殖補助医療にまつわる統計とエピソードを語る形式からなります。ピント-コレイア博士は、スティーブン・ジェイ・グールドに教わった発生学者で、ポルトガルで著述活動やメディア出演も行っています。

彼女は不妊治療の当事者でもあり、語られる体験・エピソードは胸に迫り、本当に考えさせられるものでした。そして文明史を紐解いてみると、宗教、民族、地域、時代を問わず、子どもがいないことのフラストレーションは、驚くほど普遍的です。そしてそこから生じる「生物学的な子ども」への想いは、生殖補助医療のテクノロジーによって緩和されるかというと、決してそんなことはないということに気付かされます。

折しも不妊治療の保険収載や緊急避妊薬の薬局販売の検討など、関連する報道も増えています。そんな中、少し立ち止まって“いのちの始まり”について考えることのできる1冊が本書です。

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嬉しいことに、本書をご覧いただいた方より、メッセージを続々といただいております。その一部をご紹介させてください。

「本書は、生物学を授業で習ったことはあってもほとんど忘れてしまい、体外受精や幹細胞治療などの新技術に不安を感じたり懐疑的な人に向けて書かれている。研究や教育に携わるフェローも、自分たちが考えもしなかったことを学べるだろう。(中略)「神のごとき振る舞い」は善か悪か—それは読者の手に委ねられている」
柳町隆造先生(ハワイ大学名誉教授 世界初のクローンマウスを作製)
「非常に考えさせられる本で、途中何度も後戻りして読んだりしました。医療従事者として不妊の男女や妊娠中のトラブルを持った方々などとも関わっていますが、医学書を読むのとまた別の方向からの読み物で、目からうろこでした。宗教や種族を超えた広い視点で地球人全体のヒト、ホモサピエンスとして捉える、愛情に包まれた一冊だと思います。」
「クララ博士の体験を通じた不妊治療に関する想いや統計を挙げた実態には本当に考えさせられるものが多くありました。自身の遺伝子を引き継ぐ子どもはどの国においても親の強い願望なのですね。博士がおっしゃるように本当は様々な道があるはずなのでしょう。(中略)いろんな家族の形が、いのちの育み方をも変えていけるのではないかと本書を読みながら、あらためて感じさせられました。」
「『科学を読み解く力』、『科学を伝える力』について科学の領域を超えて大事な考え方をスコットは『呪文』として与え、一方で不妊治療を受け続けた者としてのクララによる訴えかけは切実に胸に届き現実界に引き戻される。」
阿久津英憲(国立成育医療研究センター 生殖医療研究部部長)
※本書掲載解説文より引用

ぜひご覧いただき、気に入っていただけましたら周りの方にもご紹介いただけますと幸いです。私も編集の過程で何度も読みましたが、本の形であらためてギルバート博士・ピント-コレイア博士のメッセージを噛み締めたいと思います。

『BIRTH いのちの始まりを考える講義 〜発生生物学者ギルバート博士が生殖補助医療と人間を語る』

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スコット・ギルバート、クララ・ピント-コレイア/著
阿久津英憲/監訳、王子玲子/翻訳

●著者プロフィール
スコット・ギルバート(Scott Gilbert)
スワースモア大学名誉教授・ヘルシンキ大学Distinguished Professor。著名な進化発生生物学の研究者であると同時に、教育者としても、世界中で使用される「ギルバート発生生物学」をはじめ発生生物学・進化生物学・生命倫理に関する数々の教科書を執筆。

クララ・ピント-コレイア(Clara Pinto-Correia)
発生生物学研究者、小説家、科学史家、教育者。マサチューセッツ大学のポスドクとして動物の受精とクローニングを研究。研究と並行しジャーナリスト活動も行い、ポルトガルのラジオ局にて生物学の番組を長年担当。著書に「The Ovary of Eve: Egg and Sperm and Preformation」「The Marvelous Adventure of Life」がある。

●監訳者プロフィール
阿久津英憲(あくつ ひでのり)
国立成育医療研究センター研究所再生医療センター 生殖医療研究部部長。1995年弘前大学医学部卒業後、福島県立医科大学産婦人科へ入局。99年から2年間半、ハワイ大学医学部柳町隆造研究室研究員。2002年福島県立医科大学で博士号を取得しその後、米国国立老化研究所遺伝学研究室およびハーバード大学分子細胞生物学部研究員。05年国立成育医療研究センター研究所室長、14年より現職。内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)生命倫理専門調査会の専門委員や受精卵ゲノム編集に関する国際委員会、The International Commission on the Clinical Use of Human Germline Genome Editingの委員などを務めた。

●目次
はしがき
謝辞

第1部 物語の重要性
 第1章 概念のデトックス【スコット・ギルバート】
 第2章 不妊とその克服の物語【クララ・ピント-コレイア】

第2部 受精とその不満
 第3章 受精【スコット・ギルバート】
 第4章 受精の儀式【クララ・ピント-コレイア】

第3部 母親と胎児
 第5章 ヒトの正常な発生と生命の始まり【スコット・ギルバート】
 第6章 テクノロジカル・マザー【クララ・ピント-コレイア】

第4部 生物学を介して人の在り方を改善する
 第7章 動物、細胞、遺伝子のクローニング【スコット・ギルバート】
 第8章 黄金時代【クララ・ピント-コレイア】

第5部 エピローグ
 第9章 不妊戦争【クララ・ピント-コレイア】
 第10章 人は恐れ、人は驚異する【スコット・ギルバート】

付録:生殖補助医療のためのフィールドガイド【スコット・ギルバート】
用語
監訳者解説【阿久津英憲】
子を成すこと、家族を成すこと【ダナ・ハラウェイ】
原注
索引

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