いい事業アイデアは、いつも「現場」に隠れている
新規事業開発の話をしていると、よくこのような質問をされます。
「そもそもこういう事業アイデアって、どうやったら思いつくんですか?」
たしかに、事業開発をするうえでいちばん難しいのがこの「事業アイデア策定」のフェーズです。
僕は2017年にAI教育事業で起業し、いまは「スタートアップを量産する会社」を経営しています。この半年で10ほどの事業を立ち上げ、そのうちいくつかを法人化しました。
その経験からこの問いにひとつの答えを出すならば、
アイデアは、ゼロから生み出すのではなく、過去の「経験」を振り返るべし
……ということです。
新規事業をつくるとなると、つい「ゼロから新しいものを生み出そう」としがちです。そうではなく、まずは「自分のこれまでの経験」を振り返るのが大切。
「この作業、もっと効率よくならないのかな……」
「この仕事、工数がかかるわりにぜんぜん利益出てないんだよな……」
仕事をしていて、そんなふうに感じたことはありませんか?
そういう「現場のリアルな課題」が、事業アイデアの種になるのです。
元営業先の町工場をどうにかしたい
たとえば、うちの会社に元キーエンスのメンバーがいます。
彼は前職のとき、営業先の町工場の人たちが「大量の紙の図面データ」を使って仕事をしているのを見ていました。とても効率が悪く、現場の人も困っているのを見て「どうにかしてあげたい」と思っていたそうです。
僕らは最近、彼の思いをもとに、製造業向けのSaaS事業を立ち上げました。
紙の図面データをデジタル化して一括管理し、必要なときにかんたんに検索できるサービスをつくったんです。
現場のリアルな課題をもとにつくった事業は、ちゃんと売れます。「お金を払ってでもこの課題を解決したい!」と思っている人がいるからです。
この「ZUMEN」もすでに100社以上から、欲しい! という反応をいただいています。
「現場の課題」をもとに事業をつくるには、やっぱりその業界についてあるていど詳しい必要があります。まったくコネがない業界で、1人でゼロから事業をはじめるのはちょっと厳しいかもしれません。
自分がその業界にいたとして「こんな商品ならぜひ買いたい!」と思えるかどうか? という視点で、サービスを考えないといけないから。
現時点でその感覚がない業界を攻めるのであれば、もはや実際に働きにいってみるのもアリだと思います。
アイデアの種を持っている人にヒアリングする
ただ僕らも、すべての事業アイデアを自分たちの中だけで生み出しているわけではありません。
僕自身は「ものすごいアイデアマン」というわけではないんです。どちらかというと、得意なのは「アイデアの種を引き出して、出てきたものをブラッシュアップしていく」こと。
アイデアの種は、外の人から持ってきてもらうことも多いです。
以前は「子会社社長候補募集!」みたいに募集を出していました。外部の人に事業アイディアを考えてきてもらって、レビューしながら一緒につくっていく感じです。
あとは、とにかくいろんな人にヒアリングをして「課題(=アイデアの種)」を見つけています。
既存事業のお客さんに会いに行って、いろいろと話を聞くんです。「どういうことに困ってますか?」「こういう商品あったらどうですか?」と、ヒアリングしながらアイデア出しをやっていきます。
実際に、現場に行ってみたりもします。
現場では「誰がどんなふうに困っているのか?」「現場の人はどう感じていて、どんな行動をしているのか?」などを聞いていきます。そうやって「一次情報」を集めるのが大切です。
課題を聞いて、その解決策を考えれば、それが「事業アイデア」になるわけです。
「現場の人」にヒアリングせよ
ヒアリングの相手としては「現場の人」がいいです。
やっぱりリアルな課題感を聞けたほうがいいので、その課題の当事者である、現場の人に聞くのがベストです。
「ビザスク」というツールでアポをとると、たまに5〜60歳ぐらいの、長いこと現場を離れている人が来ることがあります。そういう人の持っている情報は、正直あまりあてになりません。
だからヒアリング相手は、下手に「お偉いさん」ではないほうがいいかもしれません。現場の事情にも精通している方ならもちろんいいのですが。基本的には、現場でプレーヤーとしてバリバリやっている人のほうが、事業につながるいい課題を聞き出せる可能性が高いです。
営業・マーケに近いとよりいい
職種としては「営業」や「マーケ」に近い人だとよりいいです。
もちろんヒアリングすべき相手は「このサービスで誰の課題を解決したいか?」によって変わってきます。ただ、営業やマーケは「会社の売上」に直結する部署なので、課題の重要度も高いことが多いのです。
ただ、いきなり「課題はありますか?」と聞かれても、普通はあまり浮かばないですよね。「もっとお客さんほしいな」ぐらいの解像度になってしまう。だから、もう少し具体的な仮説を立ててぶつけにいくことが多いです。
ヒアリングでの質問のコツは、よかったら以前まとめたnoteを参考にしてくださいね。
人数としては、ひとつの業界あたり5〜10人ぐらいは聞いたほうがいいでしょう。個人的な意見ではなく、本当に業界としてクリティカルな課題かどうか見極めるためです。
この人数をビザスクだけでまかなうのは難しいので、やはり既存事業や前職でつながりのある業界で、紹介でつないでもらうのがいいと思います。
最初から「正しいアイデア」なんてない
事業アイデアフェーズにおいて、もっとも重要な指標。
それは「どれだけ改善サイクルの数をまわせたか?」です。
お客さんにアイデアをぶつけて、ブラッシュアップして、またぶつけて……。このサイクルの数をあげられないチームは、うまくいきません。
ブラッシュアップのサイクルを図にまとめたので、載せておきます。
課題を発見し、解決策の仮説を立て、営業資料をつくり、想定するお客さんに会ってヒアリングする。
最終的に「お金を払ってでも買う」という反応にたどり着くまで、このサイクルをとにかく高速で回していきます。
どのアイデアならうまくいくかなんて、正直だれにもわかりません。
事業には「コントロールできるところ」と「コントロールできないところ」があります。究極のところ、その事業がうまくいくかどうか? というのは、コントロールできない可能性が高いです。
ただ「お客さんに会いに行く」「ヒアリングの質を高めていく」「改善スピードを上げていく」ということは、コントロール可能です。動くか動かないかだけですから。
アイデアがいいかどうかなんてわからない。でも、アイデアをよくしていくアクションを取りつづけることはできる。
それが、いい事業アイデアを生み出すいちばんの方法だと思っています。
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