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お金と時間の問題を、もう一度考えてみよう その1

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

〈お金〉 って何?

〈お金〉というモノが存在していなかった時代を想像してみよう。人間が洞窟などに棲んでいた頃です。動物の皮を身にまとい、食べるものは動物や魚や木の実をとって暮らしていた狩猟採取の時代です。この時代は衣食住に必要なすべてを「自らが自らの時間を使ってまかなっていた時代」でした。衣食住の生産者と消費者が一致している時代です。人口の増加も自然が生産する食料の量に合わせて調整され、自然が豊かなら人口は増え、自然が貧しくなれば人口が減っていく。自然から得たモノをあるがままに消費していた時代です。ある意味では、熊笹が何年かに一度花を咲かせ実をつけると、その実を食料にしてネズミが大発生するという現象と、ま、同じといえば、同じようなものです。

したがって余剰生産物は存在しない。このような時代には〈お金〉は存在しません。〈お金〉は余剰生産物を流通させる手段、媒体でしかないからです。媒体するモノがない、流通させる必要がない時代には〈お金〉は機能しないのです。不要なのです。

余剰生産物が生まれた

芽が吹き、花が咲き、やがて実が成り、そして枯れ、また芽が吹く。「時」の流れに気づいた人間たちが余剰生産物を手にしたのです。狩猟採取の時代から計画狩猟採取の時代への進化によって余剰生産物が生まれたのです。農業社会へ移行するひとつ手前の時代です。わが国の歴史で言えば縄文時代の頃です。事実、縄文時代を計画狩猟採取時代であるという、新しい歴史観で捉えようしている主張が増えています。種を植えれば実がなる木が育つ。住居の周りに、実がなる木を植えれば、収穫するために遠くまで行く必要が無くなる。縄文時代の遺跡から発見された栗の実をDNA解析したら、同じ栗の木の種類が大量に、それも同一地域に植えられていたことがわかったのでした。

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狩猟採取の時代から、計画狩猟採取の時代への進化は何をもたらしたか。時間の使い方の変化です。「実が成っている木を探して採って食べる」という刹那的な暮らしから、「種を植えて木を育てて収穫して食べる」という時間の経過を必要とする暮らしに変わったのでした。「やがてやってくる未来と、今までやってきた過去との接点に、現在やるべきことを見据える」。つまり「ビジョンを描く、語る、記述する、やり遂げる」という、人間が人間である一つの条件が備わったと言えます。

そして労働の種類が増えた。食べ物を獲得するまでに間接的に関与する労働が増えたのでした。「植物の世話をする労働」と言えます。この変化は、狩猟においても同じようなことが起こりました。「捕獲して飼って育てて増やして食べる」という変化です「動物の世話をする労働」です。「サービスする労働」の始まりとも言えます。

「知恵」を体系化すると、「知識」になる

知恵と知識の定義は難しいのですが、ここでは“「知恵」を体系化したものを「知識」”と定義します。「知恵」の体系化は「世話をする労働」で発生しました。植物や動物を上手に世話をした人間たちは収穫を増やし、しかも安定したのでした。植物や動物を上手に世話できなかった人間たちは収穫を増やすことができずに、しかも不安定でした。

 はじめの頃は、この差は「世話を上手にする知恵」が有る、無いの差でした。「知恵」の多くは偶然の発見と好奇心の多寡によって授かるものと言えます。例えば「火を使いこなす知恵」にしても、最初は、火山や山火事や落雷によってもたらされたはずです。偶然の発見です。木と木を強くこすり合わせると熱くなる。これも偶然の発見でしょう。

しかし、強くこすり続けるとどうなるか。火が起きる。これは好奇心のたまものです。「知恵」はこのようにして生まれるものです。「知ることに恵まれるもの」なのです。そして「知恵」は体系化されると「知識」に変わるのです。必然化します。こすり合わせる木はどの種類の木がいいか。強くこすり合わせるにはどうしたらいいか。火種は何がいいか。火を起こすまでの手順をいろいろと考えて継承できるようにする。再現できるようにする。それが体系化することです。例えば、過去を思い起こす糸をタテ糸にして、未来に思いをはせる糸をヨコ糸にして交互に「知ることを織りなす」ようなものです。織りなしている今が、現在なのです。

植物や動物を世話する労働は、それこそ発見と好奇心に満ちていたはずです。いろいろな知恵が生まれたはずです。季節の移り変わりを知る知恵、収穫のタイミングを計る知恵、収穫を上げる知恵、上手に保存する知恵などです。知恵は目に見えにくいノウハウとして特定の人たちの間で閉じたカタチで移動しがちです。知識は目に見えやすいノウハウとして不特定多数の人たちの間で開いたカタチで移動しやすくなります。体系化されていることがノウハウを見えやすくする条件なのです。但し、移動しやすいカタチになった「知識」が、はたして共有化されるカタチになるか、ならないかは、別問題です。

計画狩猟採取の時代において、知恵を知識にした人間と、知識にできなかった人間の間に余剰生産物の「量の差」が生まれたのでした。余剰生産物の量の差は人口の差となり労働力の差となり、繁栄する人間たちと繁栄できない人間たちを生み出しました。

現代社会でも、同じようなことがおきています。「知恵」は「発明」に置き換えることができます。「発明」によって、多くのベンチャー企業が創業されました。「好奇心」に酔っている姿は、外部から見れば活気に満ち溢れています。しかし、「発明」は「発明」のままではビジネスになりにくいのです。「発明」は体系化されて「製品」となり、市場に出荷され、〈お金〉と交換されてはじめて「商品」となるのです。商品化できなければ余剰生産物を生み出さないのです。ベンチャー企業における余剰生産物は、「量の差」、営業利益を意味します。(つづく)

その2につづく

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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お金について考える

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