星保論輔

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星保論輔

エブリスタでも小説書いています。 お暇ならどうぞ。 https://estar.jp/users/153502032

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夏祭りの夜に

 悠平 ① 「何時集合だっけ?」となりを歩く孝介が訊ねてきた。 「十九時だよ。遅れんなよ。頼むぞ」 「任せろ。俺は時間だけは守る男なんだ」 「本当かよ」 「それより、遥香ちゃん、浴衣着てくるかな?」 「どっちでもいいよ、別に」 「でも、どちらかと言えば?」 「そりゃ着てきてほしいよ」 「なんだよ、この野郎。最初から正直に言えよ」  孝介が抱きついてきた。「やめろよ」と振り払おうとしてもなかなか離れようとしない。「祭りだ、祭りだ」とはしゃいでいる。  額か

    • 明日のタバコ

       自宅のベランダでタバコを燻らせる。鉛色のため息がこぼれた。もう、わざわざ外に出てタバコを吸う必要などないのにここでタバコを吸っている。部屋の方を振り返る。当然ミナキの姿はない。  ミナキが荷物をまとめて実家へ帰った。手伝おうかと声を掛けたら無視された。勝手に手伝ったら、「大丈夫だから」と目も合わせずに言われた。  溶けたバームクーヘンみたいな月が浮かんでいる。生ぬるい夜風が頬を撫でた。 「金が無い、金が無いって言ってるくせに、何でタバコ吸うの?」  まだ会話があった頃、僕が

      •  あいつ、未来から来たんだってさ。

         さっきすれ違った老人を未来から来た自分だと仮定してみる。  どうして自分に気が付かなかったのだろうと考えてみる。  気づかなかったのではなく、見て見ぬふりをしたのだと思いつく。  なぜ、見て見ぬ振りをしたのか? 理由を考えてみる。  もしかしたら、言えない事情があったのではないか? と結論づける。  未来が不安になる。オロオロしてしまう。思わず頭を抱える。  誰かが声をかけてくれる。顔を上げる。人がいる。  悲惨な自分の未来を変えるために未来からやってきた自分

        • 透明の流れ星

           自宅近くの小高い山の上にある小さな公園に佇み、夜空を眺める。星がまばらに散らばっている。透き通った冬の匂いがした。 「寒いね」匙子が言った。 「うん。寒い」  吐き出された息が白かった。 「冬だね」 「冬だね」 「吐く息が白かったら、なんかタバコ吸ってるみたいだね」 「そうでもないだろ」 「そうかな?」  匙子はタバコを吸うしぐさをしながら、息を吐き出し、 「ほら、なんかそれっぽくない?」 「別に」 「冷たいな」 「冬だからな」 「いつもじゃん」  匙子が笑った。僕も笑った

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        夏祭りの夜に

          エピローグだけの物語

           記憶の中にしか存在しない人がいる。名前もわからない。見た目もぼやけている。だが、性別は異性だった。  その人と海に行ったとき、かき氷を買ってもらった。私はイチゴをその人はレモンを食べていた。 「なんでレモンにしたの?」私は訊ねた。特に意味のない質問だ。本音はそっちも美味しそうだね、ちょっとちょうだい、だった。 「なんでだろうね? わかんないや」 「わかんないのに、レモンにしたの?」 「うん。別になんでもよかったんだよ」 「変なの」 「○○ちゃんはなんでイチゴにしたの?」

          エピローグだけの物語

          寝言

           フランスパンに悲しみを挟んだらふやけて柔らかくなるのでしょうか? バターを塗ったみたいにコクが出るのでしょうか? わからないですね。  喜びならどうでしょう? 旨味が増すのでしょうか? 食べ過ぎたら食傷気味になりそうです。贅沢ですね。この野郎。  そもそもなぜ、パンに挟もうとしているのでしょう? 細かくすりつぶしてふりかけにしてご飯にかけてもいいはずです。悲しみも喜びも粉々にしてご飯にかけて食べてやりましょう。おかわり自由です。やったね。  そう言えば、明日は晴れるみたいで

          雨と血と涙とビール

           安いシャンプーの匂いがする雨上がりの街角でギターを弾いている女がいた。  あと数時間で夜が明けて騒がしい日常が始まるころ、あちらこちらで誰かしらがゲロを路上にまき散らし、小便を放ち、路上を転がり回り、断末魔の鳥みたいな嬌声を上げていた。 空は湿った紙を敷き詰めたみたいな灰色をしている。それと対比するように吐き気がするほど街灯りは眩しかった。 「涙で喉が潤せるなら雨なんて降らなければいいのにね」  最初は歌詞だと思った。だが、女は僕の顔を見ながらもう一度同じことを言った。僕が

          雨と血と涙とビール

          一瞬馬鹿にされて、一生忘れられる

           趣味は人間観察という人がいます。 目についた人々を採点して楽しむとても高貴な方のみがやることを許される楽しみです。  ぼくはとても出来そうにありません。  きっと顔面偏差値も採点できるのでしょう。特殊能力です。生きる上で必要のない能力です。  ぼくは別にいりません。  聞こえていないだろうと思い、声に出して小馬鹿にしているのでしょう。ですが、声量のリミッターが馬鹿になっているのか、頭がそうなっているのか知りませんが、ちゃんと聞こえています。  どっかしらに飛んでいけばいいの

          一瞬馬鹿にされて、一生忘れられる

          ウギらダァ

          生ぬるいイタリアン風うどんが裏路地に捨ててあった。昨日はおそらく今日の残骸。 私は私、あなたはあなた。そして世界は宙ぶらりん。 腕時計のかけらが6時になると光る輝きます。嘘です。それも嘘です。明日は雨みたいですね。 噂話の匂いがする。眠たい午後に聞こえる声。後ろ姿があの子に似ている。泡沫遥かな耳寄り情報。

          ウギらダァ

          声に出して読んだところで? な日本語

           手前味噌、奥醤油、左砂糖で右お塩。はす向かいにお酢。ドンつきソース。  ひらけたところにお好み焼き。一方通行のレモンジュース。朽ち果てたオレンジジュース。  大きな豚がぷらりぷらりらら。昨日のおにぎりは一昨日の幻。  風に揺られるお気に入りのワンピース。ぴのりぴのりらぴらりらら。  やましい肉団子。懐かしい朧月。壊れたリフトに飛び乗るウサギ。  やっぱりこの世はチャンジラチース。見たことない夜が終わる。  新しい朝が溶ける。知っている太陽が昇る。全部昨日のこと。

          声に出して読んだところで? な日本語

          どこかのドア

           目の前にドアがある。僕はそれを開けた。どこかで会ったような気がする人がいた。 「久しぶり」その人が声をかけてきた。 「お久しぶりです」 「元気そうだな」 「そうなんですかね? どうなんでしょう? そんな気がしないでもないですけど」 「それは何よりだ。元気が一番、根性二番、三四が気合で五に笑顔ってな」 「本当にそうですね」僕は愛想笑いをした。 「じゃあ。元気でな」 「はい。ぜひ、お願いします」 「じゃあな、ありがとうな」  その人は去っていった。振り返ると、もういなかった。僕

          どこかのドア

          声にならない声の行くあて

           誰かの叫んだ声にならない声を見つけたので僕は声をかけた。 「そんなところで何をしているの?」  暑くも寒くもない日の昼でも夜でもない時間帯だった。  誰かの声にならない声がしゃべる言葉は聞き取りづらかった。まるで壊れたラジオから聞こえてくる異国の言葉のようだった。 「僕はね、特に何もしていないよ」  そう言うと、反応があった。やはり聞き取れない。僕は一方的に話すことにした。  今朝の占いで最下位だったこと。たまにくる友人からの連絡が結婚ばかりなこと。やらなければいけないこと

          声にならない声の行くあて

          ハッピーエンドを期待して

           汗と香水と制汗剤が入り混じった甘ったるい匂いがする。焦げたみたいな真っ黒な夜空に星がチラホラ見える。  あちらこちらから声が聞こえる。断片的にしか聞き取れないが、皆、楽しそうだった。  アナウンスが花火の始まりを告げる。 「やっとか」  となりにいる、由香里が呟いた。 「時間通りだろ」僕は言った。きっと僕にしか聞こえていない。  夜空を見上げる。「待ってました」「始まるね」「足痛い」「何か食べ物買っておけばよかった」「花火見るの久々だよ」「てか、暑くない?」「タオル持ってな

          ハッピーエンドを期待して

          青春オバケ

           テレビ画面に見覚えのある景色が映る。高校生のころ利用していた駅周辺だった。  知り合いが映る。知っている顔だった。画面の下に、『あなたにとって青春とは?』と、テロップが出ている。 「振り返れば、みっともないけど、やたらと眩しく見える時期ですね」  彼は高校の時、同じクラスだった。授業をまともに聞かず、ノートに四コマ漫画を描いて、近くの席に座っている者に見せていた。だが、おもしろくなかった。見せられる者は皆、愛想笑いをしていた。僕も見せられたことがあったが、授業を聞いている方

          青春オバケ

          3分以上5分未満の会話

          「だからお願い。考え直して」 「なにゆえ?」 「ゆえが私にとって耐えられない事実だから」 「何故? なにゆえ?」 「煮え湯を飲まされるのは決まり切っているじゃない」 「カップ麺の材料にしてやるから大丈夫さ」 「インスタント食品ばかりじゃ、体に良くないよ」 「残り3分の人生だ。好きにさせてくれ」 「3分あれば、怪獣だって倒せるよ」 「僕が倒さなくてはならない怪獣は3分じゃ倒せない。事実、もう5分以上こうして説得されているんだから」 「でも、あなたは今、生きている。こうして私と話

          3分以上5分未満の会話

          雨の日の会話

          「冷蔵庫のオムライス食べた?」 「食べた」 「何で」 「スプーンで」 「そうじゃない」 「と言うと」 「あれ、カレーライスだよ」 「どういうこと?」 「オムライスは昨日食べたでしょ?」 「昨日は焼肉だったじゃないか」 「それは去年の昨日でしょ」 「そう言えば、傘は持ってるの? 外は雨だよ」 「今日はずっと家にいるから大丈夫」 「屋根がないこと忘れてない?」 「そうだった。床がないから意識してなかった」 「ここはどこ?」 「私は誰?」 「てか、なんで」 「私は一人で喋っているの

          雨の日の会話