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【その②】歴史の教科書を変えるような大発見は、案外普通の家から出てくるもの【読書レポ】

その②のテーマは「すべてのモノは使いよう」

その①はこちらから☆

本記事をより楽しむため、ぜひお読みください。

史料整理の現場は普通の職場に似ている

古文書を読んでいる姿は想像できても、古文書を集めている姿は想像できない……そんな方も多いのではないでしょうか。

「古文書収集」とは何でしょう。遺跡の発掘みたいに、掘り起こして探すの?

本書では、あまり知られていない「古文書収集の手順」が、実際に現場で撮られた写真付きで丁寧に解説されています。

古文書収集と聞くと何か特別な世界のように思いますが、これを読んだ私は史料整理の現場は普通の職場に似ているなと感じました。

順を追ってご説明しましょう。

まず、気になる史料を持っていそうな方を見つけたら、所有者の自治体を通してコンタクトするそうです。そこから挨拶状をお送りしたり、可能ならお電話をしたり。何だか普通の会社の取引のようですね。

幸運にもお宅訪問が叶っても、すぐに古文書にありつけるわけではありません。自分たちがどういう物で、どのような目的で調査したいのか。それを先方に説明し、了承を取り付けてからスタートです。本書で紹介されている、一筋縄ではいかない保有者と調査団(著者のチーム)の攻防戦の様子は、会社の商談のような緊張感で溢れていました。

そして、調査開始。長々と居座るわけにはいかないので、まさに「時間との戦い」。目録を作るために素早く必要な情報(古文書の内容など)を掴まなくてはなりません。また、調査の途中で所有者がもっと史料を見せてくれることもあるし、古文書が傷んでいる場合、修復が必要になることもあります。まさに、臨機応変な対応が求められる現場なのです。

さて、こんなに臨場感あふれる調査の現場を本書で体験したら、実際にやってみたくてウズウズしてしまうはず!

そんなあなたのために、本書では古文書などの目録のとり方まで、写真付きで丁寧に解説されています。著者の豊富な経験をもとに誰でもできるよう嚙み砕いて説明されているため、本書を読むだけで簡単に目録がつくれてしまう優れもの!江戸時代の史料だけでなく、近世(明治以降)の史料を扱う例も紹介されているため、身近にあるモノで試してみることができます。あなたの実家に古文書はもちろん、おばあちゃんが使っていた古い道具、何十年も前の雑誌や本などはありませんか?「その①」でご紹介したように、歴史研究の手がかりとしてみた場合、史料に軽重はないのです。あなたが作った目録が、いつか誰かの研究の役に立つかもしれません。ぜひ、歴史研究家になったつもりで気軽にチャレンジしてみてくださいね。

他分野とのコラボレーションで広がる歴史学の可能性

目の前の、木々がうっそうと茂る森。長い間、その土地を見守ってきたかのように思われますよね。でも実は、江戸時代のこの場所に森はなく、草原状の山や丘が広がっている風景だった……。

このような発見は、他分野とのコラボレーションのなせる業です。

この例でコラボしたのは、林学。本書に登場する林学の研究者は森林の育成に力を入れている専門家で、いままで古文書とは無縁でした。しかし歴史を専門とする著者と出会ったことで、化学反応が起きたのです。その一部始終を追ってみましょう。

とある場所に、「この地域にはどんな木がどれくらい生えているか」が書かれた史料がありました。著者いわく「内容的には特に興味を惹かれない」史料です。ところがそれを活字に直したものを林学の研究者に見せたところ、「このような環境ならこの木が生えていないのは不思議だ」と専門家ならではの意見が出、さらなる調査の結果、思いがけず江戸時代の風景を復原することができたのです。

また同時に筆者は、「地域に人が愛着をもって住めるようにするにはその土地の歴史や文化を知ること」が大切と述べ、地域おこしに必要な専門家として歴史学者を挙げています。地域おこしを単なるイベントにせず長続きさせるため、「これから」の専門家(都市計画や産業復興など)と「これまで」の専門家(歴史や民俗など)が力を合わせることの必要性。「歴史は単なる過去のおとぎ話ではなく、未来に向けての足場を固める重要な役割をもっている」という言葉から、社会をより良くするために無駄な学問などなく、様々な分野がコラボレーションすることで思いもよらない問題解決法が編み出されるのだと実感しました。

本書では地域に密着した史料集め・調査の様子が綴られているため、地方創生に興味のある方にも非常にオススメです。

歴史をやる人こそ、外に出よう

「歩いた地域の古文書を読むと、意識の背後に現地の景観が立ち上がり、史料の理解を助けてくれるように感じられる。それはまったく現地を訪れたことのない者が、活字の古文書だけを読んで文字面だけで解釈するのとは異なる感覚とでも言おうか」

筆者は史学科の教育現場でさえフィールドワークが軽視されていることに疑問を抱き、現地調査の大切さを説いています。紙面だけでは、分からないことがある。その例として、古文書内に出てくる地名の発音についてが述べられていました。書き手の単なる書き間違いかと思っていたそれだが、地元のご高齢の方々の発音は、むしろそれに近い。それならば、書き手は間違えたのではなく、音を正確に聞き取って書き記したことになる、ということです。他にも、古い記録にはあるのに現代の地図にはない地名を地元の人に尋ねたら「そういえば昔聞いたことがある」との情報を得て場所の特定に繋がったなど、現地調査で見つけた思わぬ宝物の例がたくさん紹介されていました。研究に行き詰った歴史学者に必要なのは、外の空気を吸うことなのかもしれませんね。

まとめ

本書を読み、歴史とは頭のいい人たちの専売特許ではなく、たくさんの人たちの力で紡いでいくものだと感じました。古文書を読む歴史学者、そこで得た情報に肉付けしてくれる地元の方々、そして研究成果をよりよい社会に向けて活用してくれる、他分野の専門家たち。

歴史学は一人でやる地味な学問だと思われることもありますが、人と人との繋がりでより鮮やかに色づくのですね。歴史学は、大きな可能性を秘めているような気がしてなりません。様々な研究者の分野を超えた交流、また研究者と民間人の垣根を超えた交流がもっと増え、それぞれの得意分野を生かすことが、社会を豊かにしていくのだと感じました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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☆今回読んだ本
白水智『古文書はいかにして歴史を描くのか フィールドワークがつなぐ過去と未来』NHK出版、2015年

○この本はこんな人にオススメ
・自分の実家や親戚のお家が古く、何か代々伝わっているものがありそうな人
・史料保存、文化財保護に興味がある人
・地域創生に興味のある人
・博物館学芸員課程を履修している、またはしていた人
・日本近世史に興味のある人(著者は日本中世史の専門家だが、近世史料に多く焦点が当てられていたため)
・多分野の学問のコラボレーションに興味のある方
・史跡巡りなど「動」の歴史が好きな人

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