疲労困憊

届きたい場所

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くだる

絶望し切った朝に見る夢はいつもきらきらとしている。 手触りすらないのに、満たされたという感覚だけが残り、目を覚ますと跡形もなく消えてしまう。ただの「夢」に重きを置いてしまうたちなので、そんな言葉通り瞬く間の甘い幻想は、救いというよりも「嵌められた」という思いだ。 綺麗な名前の女の子に、全てを横取られる人生だったなと振り返ってみて思う。耳障りのいい発音句 どれも許せないし心の底から欲しい。自分の名前を呼ばれることは何も嬉しくない。 居場所が分からない。適した居所が何処にも無

    • ない

      全部嘘だったよって、ここ数ヶ月の、私が本気で幸福だと信じていた数多の瞬間のネタばらしをされて、ああやっぱりそんな気がしてたんだ、元から夢みたいだったんだって、そういう伝えないでよかったはずの言葉を放出するわたしの口に垂れる、さらりとした涙が動かない口角に固まっているのはまだ夏のことで、また夏のことだった。 一人きりで寝転がっていたベッドに私を象った汗がこびりついて眠っている。このままここで死んだならば、きっと私の形をした真っ黒な影が私の代わりに遺る。 季節に執着が無くなった

      • 4/3

        ごく稀にだけれど、自分はやっぱり人を救いたい側の人間なのかなと半ば諦めながら考えている。 見たかったあの景色、は見たいままがいい。わざわざ旅人の装いで訪ねることはしたくない。そして、いつの間にか眼前に広がっていることに私は気付きたくない。いつまでも、盲目な振りをして、眩しさには不幸の暗いヴェールで蓋をしていたい。あの時代あの場所で確かに感じたかもしれない幸福感充足感を全て忘却し、多分これまでもそしてこれからも永遠に自分こそが不幸の最中で藻掻く力ない小人、社会や文化、虚構までに

        • stencher

          起立を乱す不適合なわたしが立ったまま、地面に揺られ続けている。当たり前のように適当に散りばめた秘密を時間を空けて裏返してみたら、そこにあったのは真実でも嘘でもなかった。ただ、そんなことよりもわたしは、ずうっと笑っている影が付いてくる大禍時、揺らぐ声に乗せて弾むおばけみたいなそれを確かめていた。波間に溶けるきみの肉片に一つ一つ名前を付けて、他のどんなものを呼ぶ時より痛く愛おしい声で、花占いをする時みたいに俯いて座ったままたくさんたくさん呼んでいる。自らが発する苦しそうな息遣いを

          無数のピントの合わないキラキラした光たちのうちのひとつも私を照らしてくれることは無くて、やっぱり孤独な人のためのものなんてないんだって少し安心して、摩擦を起こすようにお祈りをしている。誰も何も願わない国の、生まれることのなかったサンタクロースの事を考えながら崩れかけたケーキとシャンメリーを開け、静まり返った部屋に座り込む。 喧騒をわざわざ引き剥がしてきたつもりなのに、どうにも外にいた方が気持ちがいい気がする。結局、どっちつかずに世間と馴れ合って浮かれている方が楽なのだ。聴こえ

          diminuendo

          とても怖かった、とても痛かった。顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだとしても、誰も助けになんて来てくれない気がした。手を伸ばしてもわたしは繋ぎ止められなかった。そしてひとつ残らず、ぜんぶ、大事なものを無くしてしまった。欲しかったものも分からなくなって、眩い光がわたしの視界を全部覆ってしまった。頭を震わし無意味に理解を拒んだ。 恥を捨てきれないから、わたしは綺麗なままの洋服ばかりを捨てたし、じゅくじゅくとした赤い苦い愛ばかりを集めて集めて集めて、ラミネートして穴を開けて紐を通して、

          葬式

          無力な私がここにいます。居続けてしまいます。 何も出来ないまま、何も残さないまま終わる事の方が圧倒的に多いんでしょう。求める素振りを見せない方がかっこいいのだと未だに思ってしまいます。 期待してなかった、って言い聞かせないと涙が溢れてきて、もう二度と会うことの出来ない人たちのことばかり考え続けてしまいます。 本当は何かを得られると思って追いかけていたんです、でも気付いたら全部奪われて空っぽになった私だけが残ってしまいました。何だか元より深い場所に穴が空いたみたいです。 汚れて

          甘ったるいシロップの中に溶けた、作為的に入れられた毒みたいなそういう悪い夢の1番クライマックスの部分だけ抽出して、落としたらすぐ割れちゃうくらい脆い瓶の中に詰めて、「お守りだよ」って渡してくれた君がずっと忘れられない。好きだと繰り返す割には私の表面と温かい場所しか求めてくれなくて、前日に時間をかけて選んだ小花柄のワンピースもすぐに脱がされてしまうし、早起きして丁寧に色を置いた顔なんて直視してくれないうちに君は君だけでデートを終えてしまうのが定例だったね。共に地獄を這った関係な

          蚯蚓脹

          異様にどろどろとした罪悪感、妙にベタつきが残った右手の感覚。大嫌いなあの人を殺める前に、僕は自分を捨ててしまったみたいだ。足元に脱ぎ捨てた制服の滲んだ染みを落とせないことを悟って鋏で切り刻んでゴミ箱に放り投げた。時計の針が動いていない。伸し掛る憂鬱と格闘しながら、猫を撫でた。冷たかった。鳴らなくなった目覚まし時計を何度叩いてみても、朝が来ないことをそこで知った。透明な思考の隙、濁った空白の部分を透かして要にしてみる。暗がりを凝視してようやく見えた、角の生えた小さな悪魔。解けた

          輪郭

          横断歩道の向こう側、待ち人の来ない賑わった駅前、捨てられたアダルトビデオの色褪せたパッケージ、横たわって動かなくなった猫。贖いとして供えた20枚の爪は、僕ではない誰かの血に染まって音を立てずに床に落ちた。また最初からだ。溜息に乗せて魂の欠片を飛ばす。際限の無い贖罪の継続は僕にとって何か意味を成しているのだろうか。この儀式をこれ程までにも無下に扱っている時点で僕は一生救われることなんてないのではなかろうか。救済があるとするならば、僕にとってそれは間違いなく死を指すのであろう。天

          地図

          あんなに捜し求めていた人生の意味がそこにあった。適当に引き抜いた本の内側。納得させられるような人生の意味らしきものを、先人たちに説かれていた。清々しい筈なのになんだか私のちっぽけさが露呈されてしまったようで、そこで読むのを放棄してしまった。哲学なんか大嫌い。だって、私は大きすぎる規模の話を飽きるまで腐るまで膿むほど擦って、自己完結して気持ちよくなることで自分の価値を見出していた、悲観的で空っぽな優しくない人間だから。何もかもが妬みから生じた反発なのは分かっているし、私は何者に