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diminuendo

とても怖かった、とても痛かった。顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだとしても、誰も助けになんて来てくれない気がした。手を伸ばしてもわたしは繋ぎ止められなかった。そしてひとつ残らず、ぜんぶ、大事なものを無くしてしまった。欲しかったものも分からなくなって、眩い光がわたしの視界を全部覆ってしまった。頭を震わし無意味に理解を拒んだ。
恥を捨てきれないから、わたしは綺麗なままの洋服ばかりを捨てたし、じゅくじゅくとした赤い苦い愛ばかりを集めて集めて集めて、ラミネートして穴を開けて紐を通して、いつでも見れるように、宝物に見えるようにさすった。昨日食べきれなかった分のスポンジと生クリームが、吐けよと言わんばかりに押し込まれて。叩いても殴っても刺しても肉も魂も無いままに、ねえ、いつまでわたしはまともにいればいいのかな。血を吐いて地を這ってまでしてそんな思い出欲しかったのかな、特別よりも価値がある普通が欲しかったかな。音楽も文学もいらないよ、カッターに負けていつも殺せないままに、接合部の脚を切られてどこにも行けない心臓が、いつもよりずっと大きな音を立てて破裂した潮騒が、迫るようにわたしを急かしているから、森が泣くように首を絞める。銀色の硬貨、段ボールでできた家、筋肉がぽろぽろと剥がれてしまうまでガリガリガリガリガリガリガリって引っ掻いたのが間違いで衝動でおかしくて、もう世界は膿のような黄色になってしまった。
学校は行けないけど、全部教えてくれたらよかった。吸わなくていいタバコも、窓から差し込む朝の光もずっとずっとわたしは愛せない嫌い。朝が嫌い昼が嫌い夜ガきらい、でも全部愛してもいい。雨粒を口に貯めてごくりと飲み干したけど全部夢じゃなかったよねえ、星が続くように、空が溶けないように、果てしないものを怖がって意味の無い交わりばかりを繰り返して腐った関係を増やして、それで救われようってんだ殺したい。編んだ髪が縮れて千切れて400円で美化できなかったわたしの亡骸がある、なんで結局そんなにつまらないの、もっと欲しかった。深くて悲しくて真っ黒で唯一なものだって信じてるよ今も。惑わされるようなもの捨ててくれれば、あなたを神様にしてあげられたのに。毛玉だらけの下着がいつだってちくちくして真っ赤になっちゃうから、入浴剤を溶かしてまろやかに、浸かりたい。疲れたい。

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