王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第2話
第2話 コウモリの翼
ーー前回ーー
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”タッタッタッタッタッ!!”
「さっちゃん!こっちこっち!」
太陽光を反射し、キラキラと輝く湖の船場。
太陽城の正門を抜け、雲の宮殿から船場まで緩やかな下り坂が続く。
そのまま歩いていくと、船乗り場管理人の𦪷がムスっとした表情で出迎える。
その下り坂を、思いっきり走る者たちがー。
「ひゃっほ~~!!!太陽の泉まで一直線や~!!!」
「おっ休み~♪おっ休み~♪太陽の泉で癒される~♪らんらんら~ん♪」
無抵抗の幸十を引っ張りながら、洋一と琥樹はぴょんぴょん元気よく下り坂をかける。
その様子を後方で呆れながら見ている者たちがー。
「なんだあいつら・・・。昨日の夜あんだけ騒ぎまわって・・・どうしてあんだけ元気でいられるんだ・・・。」
げっそりとした表情で、はしゃぐ琥樹たちを見るバン。
「歳ですよ。歳。バンくん。」
隣でウィンクする坂上。
「うるさいっす。」
更にその後方にいたココロは、琥樹たちのはしゃぐ様子を見ながらため息をついていた。
そんなココロに、坂上が近づいた。
「ココロくん。よろしくお願いしますね。」
「あ、はい。ちゃんとシャムス軍の軍隊長に渡しますね。」
ココロは肩にかけたバックの中から、坂上から受け取った手紙を再度確認した。
「ー手紙も勿論ですが・・・幸十くん、あまり外の世界に慣れてないようですので。」
「・・・・・。」
坂上がニコッと微笑むも、ココロは瞳を逸らし口をつぐんだ。暫く沈黙が続くと、ココロの様子をちらっと見て坂上が話題を変えた。
「そういえば、シャムス軍の軍隊長とお会いするのは・・・初めてですよね?」
「はい。戦場で戦えない俺たちプライマルは、中々セカンドと会う機会も少ないですから。ましてや軍隊長となると、そんな気軽に会えません。」
「そうですね。・・・まぁ、その、少し・・・ほんの少し・・・我が強い方ですが・・・。一報は入れてますので大丈夫だと思います。ココロくんもここ最近お忙しかったでしょうから。しっかり休んできてください。」
(坂上さんの少しは、少しじゃない時が多いんだよな・・・。)
「・・・ありがとうございます。」
ココロが坂上との会話に一抹の不安を感じていると、船乗り場がより騒がしくなった。
「ほら!サチ!!これが太陽族が誇る湖や!太陽城の宝石湖とも言われてるんやで?!キラキラしてるやろ!」
”ピチャッ”
「!」
そう言って、洋一が湖の水を少しすくって幸十にかけた。
特に避けなかった幸十は、もろに水がかかった。
「冷たい。」
「さっちゃん!避けなよ、びしょ濡れじゃん!!ちょっと洋一さん!せっかく新しい服なのに!!」
「大丈夫大丈夫!!服は濡らすもんや!まぁ、隊服が間に合わなくて残念やな。サチの隊服はよ見たいわ。」
「おい、まだうちに入ることを許可してないぞ。」
残念がる洋一に、バンがげっそりした表情で近づいた。
「なんや、まだ言ってるやんあの石頭。」
「本当に頭固い。融通利かないよね、あのおじさん。」
コソコソとバンを睨む洋一と琥樹。
「くぉらあ!!何が石頭だ!?!誰がおじさんだ!?お前ら!俺はまだ39だ!!ってか・・・」
そう言って、バンは幸十に指さす。
「うちの食堂の食材全部たいらげたあのパンパンな状態で、どうやって採寸すんだよ!!無理だわ!・・・そして幸十はいつの間に普通の体系に戻ってるんだよ!?!」
大量の食事をたいらげた幸十は、昨夜で驚くほどお腹が膨れていたが、不思議なことに、今朝方には来た時のようにガリガリの体系に戻っていた。
「ほんま、凄い代謝やな。サチ。」
「さっちゃん太らない体質なんだね。」
「体質で片付けるには無理があんだろ!!!異常だよ!異常過ぎだろ!!」
見事にへっこんでいる幸十のお腹をさする琥樹と洋一に、バンがすかさず反論した。
「でも翼は間に合ってよかったね。」
琥樹は、幸十が羽織っている黒いマントを見た。
何やら頑丈そうな素材ではあるものの軽く、胸元にはマントを止める太陽のブローチが付けられていた。
光によっては様々な色にキラキラ輝くブローチに幸十が見入っていると、坂上が近づいてきた。
「それは、太陽族本部や支部で働く方々の印です。綺麗でしょう?大切にしてくださいね。」
いつものように、にこやかに微笑む坂上。
「ちょっと!そのブローチ、誰でも付けていいもんじゃないだろう!!?」
バンが坂上に向かって指摘するも、坂上は無視して続けた。
「それに・・・そのコウモリの翼、性能が凄いのです。コウモリの部隊専用のマントですが、このマントはみんなを助ける役割を持っているんですよ。ね、ココロくん。」
坂上が自慢そうに言うと、隣にいたココロにふった。
「え、えぇ。まぁ。」
歯切れの悪いココロ。
「なんや、ココロ。歯切れ悪いなぁ。あんさんが開発したもんやろ?説明しないんなら、俺が説明してや・・・」
”ゴン!”
「いてっ!!」
「お前が説明すると、ろくな使い方を教えないだろ?!」
黒いマントの使用方法を説明しようとした洋一に、ココロが思いっきり叩いた。そして、ブローチを掴む幸十の方にココロが近づいた。
「・・・コウモリの翼は、俺たちコウモリ部隊の翼だよ。」
「翼・・・?」
ココロは幸十のブローチを掴む手を離し、ブローチの下部についている細長い金具に手を当てた。
「このブローチについてる金具を引っ張って・・・」
”バサっ!”
引っ張った瞬間幸十のマントが横に広がると、何やら鋭い翼のような形になった。
同時に、翼の左右両先に取手のような丸い持ち手が現れた。
このマントのどこにそのような仕掛けがあるのだろうか。
少し驚き、目を見開く幸十。
「幸十。両先にある取手部分を握ってみて。握ると、右手に3つのボタンがあるだろう?」
幸十は右手の取手についた赤・緑・青の3つのボタンを見つけ、コクリと頷く。
「真ん中のボタン、緑のボタンを押してみて。」
そう言われて、緑のボタンを押すとー
”ブオオオォォォォォォォオオン!”
何やら幸十の周りで風が舞い始めた。
「よし。これは、飛べるように設計したマントでもあるんだ。少しコツが必要だけど、誰でも簡単に空を飛ぶことができるよ。」
するとココロは、今度は幸十の掴む左側の取手を指した。左側には何やらメーターが表示されている。
「左側にセカンドの力を溜め込んで、翼全体に送られるようになっているんだ。取手の素材に、セカンドたちの力を一定時間、溜め込めるように設計されてるから。セカンドたちであれば、ここに適宜力を入れてくれれば、力がなくならない限り飛べるよ。でも、俺たちプライマルは力はないから、この取手に溜めておくんだ。満タンにしておけば、ギリ1日は連続して飛べるかな。ただし、セカンドの力がなくなると飛べなくなるから、適宜セカンドに頼んで入れてもらうようにしておくこと。いいね?」
幸十はコクリと再び頷いた。
一連を話し終えたココロを見て、洋一は幸十の肩に腕を回すとニヤッと笑った。
「へっへっへ!サチ、翼は飛べるだけじゃないんやで?ほかにも・・・」
洋一が何やら含みを持たせて話そうとした時ー
”ゴン!!”
「・・・っい!!」
ココロが投げた石が見事に洋一の頭に当たり、その場で倒れこむ。
「他のはいいよ。・・・まだ正式に入ったわけでもないし。部外者に全部話すつもりはないよ。」
ココロの言葉に、その場がシーンと静まり返る。
その隙を狙ってか、奥にいた𦪷が幸十たちへ呼びかけた。
「おい、準備できたぞ。」
その掛け声に、ココロは目の前の幸十をちらっと見ると、𦪷の方へ向かって歩き始めた。
その後を追うように、琥樹と洋一も向かう。
幸十も行こうとした時、坂上が幸十の手を掴んだ。
「幸十くん。お気をつけて。とりあえず、今回の目的は休息です。ボロボロの身体を治して、帰ってきてください。元気になりましたら、これからのことを考えましょう。一緒にね。」
いつものように坂上はニコリとほほ笑み、幸十に優しく言った。
幸十は、じっと坂上を見てコクリと頷き、船の方へ向かっていった。
ーー次回ーー
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