王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第1話
第1話 3番の検体
ーー前回ーー
ーーーーーー
鬱蒼とした森が生い茂り、空からの太陽光が遮断されている場所。
一帯は薄暗く、中央にそびえたつ苗とヒナギクの花が絡まった大きな塔で、うめき声が響いていた。
「うぅ~~~あぁぁぁああああ!!もう!」
そこにいたのは、煌びやかな月のブローチを肩に着けたオルカだった。
ヒナギクの塔の最上階で、何やら石盤を片手に、大きな椅子の上でもどかしそうに身体をひねらせていた。
「オルカさマ。ドウチまチた?」
オルカのいる椅子の下には、様々な動物の形をした不気味な人形がうじゃうじゃいた。
二頭身のフォルムはそこそこ可愛いものの、焦点のあってない瞳や、所々布が破れボロボロな身体をうねうねと動かしているところを見ると、何とも不気味だ。
その中のクマの人形が、カタコトな喋り方で悶えるオルカに話しかけた。
オルカはイライラしながら石盤を叩きつけると、椅子にふんぞり返った。
”バンッ!!”
「あーーーー!もう!本当!あの3番の検体、まじなんなの~?!」
オルカは、座っている椅子に足をガンガンと蹴り入れる。
周りにいた人形たちは困った様子で、ちらちらオルカを見る。
「オルカさマ。ションナに足ブツケまツト、イタメテちマイまツヨ。」
クマの不気味な人形は、ぎこちなくオルカをなだめる。
そんなクマの人形を見て、オルカは首根っこを掴んだ。
”グイっ”
「エ」
”ブンブンブンブンブンブーーーン”
そして、椅子の上に立ち上がったかと思うと、思いっきりクマの人形を振り回し始めた。
「もーーー!!どこ行ったのーーー?!あの時は、蕘に急かされちゃったけど!!もっともっと解剖とかしておけばよかったぁ~~~!!」
悔しそうにするオルカ。振り回されるクマの人形は、人形なのに頭の部分が真っ青になっていく。
「オ・・・オルカさマ・・・チョット酔いガ・・・」
振り回されながら必死で口を覆うクマの人形。
すると、オルカの背後で何やら黒い霧のようなものが漂い始め、暫くして人間の形になっていく。
くっきりと輪郭が表した時、そこから声が発せられた。
「オルカ様。」
オルカは涙を浮かべる瞳をその声がする方へ向けると、黒いマントを被った人間が跪いていた。
ただでさえ暗い部屋だったが、黒いマントに身を包んでいたため、その人物の姿形が全く見えない。
声色は、比較的高い女性のようだ。
「あ、朱里。」
振り回していたクマの人形を今度はぎゅっと抱きしめ、朱里と呼ぶ人物に身体を向けた。
「どうしたの~?検体集めは順調?」
ぐったりとするクマのぬいぐるみをよそに、オルカは朱里に聞いた。
「”おおぅよ!!ばっちりだ!馬鹿な仲間も手に入れたからな!”」
先程同様、朱里と呼ばれる人物から声が発せられたが、先ほどの声色とは全く違う太い声だ。
「”あれを仲間にしないでよ!気持ち悪い。あんなやつら、惨めなただの奴隷でしかないわ。”」
と同時に、朱里からまた別の声色が発せられた。一人で言い合いをしている様だ。
「おお、凄いねぇ。」
しかし声色など気にせずオルカは嬉しそうにするものの、どこか反応が鈍い。その様子に、朱里が少し異変を感じ下げていた頭を少し上げた。
「”どうかしちゃったの?”」
また違う、今度はかすれた声色。
「聞いてよ~、朱里ぃ~」
待ってましたと言わんばかりに身を乗り出すオルカ。
「”あの爛が何か、無礼でもしたんじゃね?”」
またまた声色が変わりながらも、身体中から再び黒い霧を発する朱里。
その時ー
「おい、俺がなんだよ。」
背後から挑発的な言葉と共に、オルカや朱里のいる方に足音が近づいてきた。
銀髪の柔らかい髪と、金色の瞳を光らせ現れたのは爛だった。周りには、銀毛を纏った狼達を数匹連れている。
爛の姿を見て、朱里はため息をついた。
「おい、お前がなんでここいんだよ。大人しく検体探しでもしてろよ!!」
爛は朱里を指差し、牙を見せ挑発した。
「”っふ。その挑発の仕方。本当に獣だ。”」
「おい!!てめぇなんだと?」
爛と朱里に、火花が飛び散る。
オルカは、そんな2人にお構いなしに、青ざめるクマの人形の目玉をいじっていた。
「”その頭についている大きな耳は飾りか?これだから獣人は厄介・・・”」
"ビュン!!"
その言葉に堪忍袋の緒が切れたのか、爛はいつのまにか手にした緑色のツルを、勢いよく朱里に向かって振りかざそうとした。
しかしー
「はーい。そこまでーー。」
"ズン・・・!"
クマの人形をいじりながらオルカがポロッとこぼすと、何やら部屋の空気が一気に重くなった。
2人はその圧に立ってられず、そのまま床に叩きつけられた。
「も~。いっつも喧嘩ばっかりだなぁ。まぁいいけどさ。僕、今むしゃくしゃしてるからさ。やめてくれない?」
淡々と話すオルカだったが、一言一言の圧が強く、2人の口を塞ぐだけではなく、身体の自由さえ奪っていた。冷や汗を大量に流す2人。見た目は子供なオルカとの力の差を感じさせられる。
重圧に耐えながら、朱里がなんとか顔を上げた。
「し・・・失礼・・いたしました・・・」
次々に声色が変わる朱里など気にせず、暫くしてオルカは空気にかけていた圧を止めた。
「はっ・・・はっ・・・はぁっ・・・」
2人とも息さえもままならなかったため、必死に酸素を肺に送る。そんな2人に関係なく、オルカは話をすすめた。
「それがさ~、検体が一体逃げちゃったんだよね~。」
オルカのぼやきに、朱里は驚いたのかピタッと身体を止めた。
「”・・・逃げ出しただと?ここから?”」
今度はどこか勇ましい声色。
「うん。そう。」
ぐったりするクマのぬいぐるみに顎を乗せ、ブスッとした表情で言うオルカ。朱里は信じられないのか、顔に手を当て考え始めた。隣にいた爛は苦虫でも噛んだように、表情を歪ませる。
「”まさか・・・。百歩譲って逃げ出したとしても、外の森は狼たちの住処よ。勿体けど、食われて死んじゃってるわね。”」
相変わらず声色が変わりながら話す朱里の言葉に、オルカは頭を振った。
「それだったら、別に良いさ。また新たな検体を連れてくればいいだけだから。」
「”なら・・・どうしてそんな・・・”」
「消えたの。」
「え?」
聞き返す朱里。
オルカは思い出し、クマのぬいぐるみを今度は上下に揺らし始めた。
「だからーーー!!消えたんだよ――――!!いきなりおっきい光をぶあーっと発光させて!もーーー!!あんな検体本当に初めて見たよ!!あんな大きな光・・・しかも、マダム達を灰にかすような光・・・っ!!!」
ブツブツ言うオルカに、朱里は終始信じられないという雰囲気を出していた。爛はというと、その会話を聞いて拳をぎゅっと強く握り口を開いた。
「ー俺が!俺が見つけに行く!!あんな下級のやつ・・・弱くて何も出来ねぇクソは、俺が見つけて懲らしめます!!!」
オルカはぬいぐるみを振り回していたが、爛の言葉にピタっと止めた。そして暫く何かを考えると、ニヤッと不気味に笑い始めた。
「・・・そうか。消えたなら、探せばいい。キャハっ!当たり前じゃないか!!」
オルカの次の言葉を待つ2人を見て、ぐったりしたクマのぬいぐるみを朱里に向けて指した。
「朱里!検体集めと一緒に、3番の検体を探して!!」
「オルカ様!!俺が!!」
爛がすかさず立ち上がるも、クマの人形を今度は爛に向ける。
「爛は検体の育成があるでしょ!だーめっ!」
「でも!!」
「だめ。」
再度止められ、悔しそうに口をつぐむ爛。
朱里は何やら考えながら口を開いた。
「”3番の検体・・・ですか・・・。かなり古い検体ですね。それが逃げ出した検体番号なのでしょうか?”」
「うん。マダム何体でもあげるから!探してきて!検体集めと一緒に!」
「”あいよっ!右肩に3の刻印があると思うが、それ以外に特徴あるか?いく分古くて・・・覚えてねぇっすわ。”」
その言葉に、オルカは少し考えこむと口を開いた。
「ーあぁ、オレンジの髪色だったかな?」
ーー次回ーー
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