王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第3話
第3話 アンコントロール
ーー前回ーー
ーーーーーー
どこもかしこも一面に広がる真っ白な世界。
ここは太陽族領地北部のシャムス地方。
太陽族領地は年中太陽が空に昇り大地を照らしているため暖かく、雨は降れど寒い気候になることは無い。
しかし、そんな領地の特性とかけ離れた唯一の場所が、シャムス地方である。太陽族領地でありながらも、シャムス地方は基本寒い。
”太陽が姿を隠す土地”と言われ、代わりにどんよりとした曇り空から年中雪が降る。寒さに凍えながら暮らすしかないこの土地を太陽族の人々は苦手とし、この土地に進んで住もうとする者は滅多にいなかった。
そんなどんよりとした雪雲の空をもろともせず、はしゃぐ声が・・・
「おっしゃーーーー!!どこもかしこも雪やーーーー!!雪!雪!雪!こりゃ凄い!!」
一面真っ白な大地に降り立った幸十たち。
シャムス地方に入る寸前で全員防寒具を一枚着込み、全身もこもこだ。
洋一は中々見ることのできない雪を見てはしゃいでいるものの、その隣にはげっそりとした表情で膝に手を置く琥樹の姿があった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・死ぬかと思った・・・」
そんな琥樹を見て、無表情で謝る幸十。
「琥樹。ごめん。」
「だ・・・ダイジョ・・・おえぇえぇぇぇえええ・・・」
フォローも虚しく吐き出す琥樹。
「ちょっと琥樹。こんな所で吐くなよ。」
「なんや琥樹。汚いなぁ。せっかくの綺麗な景色が・・・」
ココロと洋一は、吐き出す琥樹に汚物を見るような視線を送った。
「ちょっと!酷いじゃないか!!というか!さっちゃんがあんだけ乗りこなせないなら、さっちゃんじゃなくて翼がおかしいんで・・・おえぇえぇぇぇえええ・・・」
吐きながら洋一とココロに訴えかけていると、幸十が表情一つ変えず琥樹の背中を優しく撫でた。
「いやぁ~。それにしてもほんま、今思い出してもおもろいわ~。あそこまでコウモリの翼を使いこなせないとは・・・。サチ、相当運動音痴か?」
洋一は何やら思い出しながら笑った。
========☀回想☀========
”キィ・・・”
「よっしゃ、陸地に到着~」
「ここからは翼使うんだよね?」
「うん。」
太陽城を囲う湖を船で渡り終えた4人は陸に上がると、飛行移動をするためコウモリの翼を広げた。
そんな3人をじっと見ていた幸十は、ふと疑問が湧いた。
「何で船乗り場から飛ばないの?」
幸十の言う通りだ。
普通に考えれば、一々時間のかかる船に乗るのではなく、船乗り場から翼で飛んでしまった方が早いはずだ。
「なんやサチ。あんさん、そんなことしたら死んでまうで?」
洋一が当たり前のように指摘した。
「死ぬ?なんで?」
頭を傾げる幸十にココロが近づき、幸十の翼を確認し始めた。
「あの湖は誰でも渡たれるわけじゃないよ。番人が見張ってるから。」
「番人・・・龍・・・?」
幸十は坂上と話した、太陽城を守る龍のことを思い出した。
「さっちゃん、番人のこと知ってるの?」
琥樹に聞かれ、幸十はコクリと頷いた。
「坂上に教えてもらった。太陽城を守っている番人がいるって。」
「そやで~。あの湖は、一見綺麗で誰でも渡れそうに見えるけどな、誰でも渡れるわけちゃうんや。あの𦪷はんが出してくれる船も、太陽城に入っていいと番人が許可した人しか船は出してもらえないんや。そもそも太陽城に入る資格がないやつは、船が出えへんからあの城には入れんっちゅうこと。」
「・・・といって、船以外であの湖を渡ろうとすれば番人に捕まって、湖の奥底まで沈められて一生陸に上がってこれないんだって。しかも、運よく渡れたとしても、また正門で番人のチェックが入るしね。ふぇ~、怖いね。味方じゃなかったら。」
琥樹は身震いしながら言った。
暫く幸十の翼を確認していたココロは、確認を終えたのか幸十から離れた。
「まぁ、一部脚色されているところもあるだろうけど。飛ぶのはここから。幸十。確認できたから、緑のボタン押して。」
幸十はココロに言われるがままに、右側取手の緑ボタンを押した。
すると、幸十の周りに風が起き始めた。
「うん。大丈夫そう。そうしたら、両手を思いっきり広げてジャンプするんだ。同時にうつ伏せに・・・身体の前面を地面に向けた状態に体制を持っていけば綺麗に飛べるよ。飛行の速さは、腕の広げ具合で決まる。大きく広げれば速くなるし、縮めればスピードは止まる。重心を行きたい方向へ傾ければ、方向転換もできるんだ。少し最初はコツがいるけど、かなり運動音痴なプライマルでも数分で慣れるように専用で設計してあるから。やってみて。」
ココロは分かりやすいように身体でポーズを取りながら説明すると、幸十はコクリと頷き思いっきりジャンプした。
”ピョン!”
「お!!遂に、サチの翼デビュー・・・」
洋一が嬉しそうに言おうとしてがー
”トン”
「・・・・・。」
「え」
飛ぶはずの幸十だが、そのまま地面に足がついた。
一瞬誰もが状況を飲み込めず、沈黙が流れる。
「ーた・・・たまたまだよ。さっちゃん。もう一度ジャンプしてみたら?もう少し高くジャンプした方が良かったのかも?」
琥樹に言われ、再度ジャンプするもー
”ピョン!!”
”トン”
「・・・・・。」
"ドテっ"
地面に足がつくと、そのまま体制を崩して思わず座り込む幸十。
「・・・・・。」
また沈黙が流れるも・・・
「アッハッハッハ!!アハ!アハハハハハ!なんやこれ!サチ!ハハ!飛べないんどころか・・・クク・・・座ってもうた・・・ハハ!」
「いやいやいや!!!え!?なんで?」
信じられず、頭をかかえるココロ。
洋一と琥樹はこらえきれず、座り込む幸十を見て思いっきり笑っていた。
ココロは幸十の翼を隅々まで再度確認する。
「・・・?どう見ても正常なんだけど・・・え・・・なんで・・・?」
「アハハ・・・グフフ・・・さっちゃん・・フフ・・・かなりの運動音痴・・ハハッ・・」
「フフ・・・いやでも、あの岳でさえ乗れるんやで・・・?あいつ以上の運動音痴、見たことないで。・・・フフっ。」
笑いを必死にこらえながら(堪えられてない)、洋一が聞く。
「・・・フフっ、いや、この翼は身体能力も関係ないようにプライマル用に設計してあるんでしょ・・・?バランス取れないなら分かるけど、そもそも飛べないなんて・・・くくっ・・・」
琥樹も笑いを必死にこらえながら(堪えられてない)言った。
ココロが必死に考えているとー
”ふよ~”
「え・・・」
「あれ・・・」
今度はジャンプしてもいないのに、幸十の身体が宙に浮かび始めた。
座った状態のまま、宙に浮かび始める幸十。その光景に、洋一と琥樹は耐え切れず更に笑い始めた。
ココロに至っては、わけが分からず幸十を凝視する。
そんなのお構いなしに、どんどんどこまでも昇っていく幸十。
「はは・・・ってサチ!?あんさんどこまでいくん!?」
「幸十!足を!足を地面に向けて!そうすれば降りてこれるはず!」
幸十は地面に足を向けるもー
”ふよ~”
「え」
関係なく、どんどん上っていく。
「ちょ!え!なんで?!」
「あ~、琥樹!!連れ戻して!!早く!」
「え、あ、うん!!」
「サチ~、もどってこーーーい!!」
その後、何とか琥樹に引っ張られて地上に戻された幸十だが、何回やっても上手く翼のコントロールができない。
そこで、力のコントロールがしやすいセカンドの琥樹が、幸十の翼とロープで繋げて飛ぶことになった。
しかし、ただロープで繋げて飛ぶのではない。
コントロールが聞かない翼を繋げて飛ぶのだ。
つまりは、いつ何が起きるか分からない状態で飛行するのだ。
飛行中、いきなり高く飛び上がったかと思えば、今度は急降下しようとする幸十の翼に振り回され、琥樹の顔はどんどん真っ青になっていく。
セカンドの翼はプライマルの翼とは作りが少し異なっており、都度左側の取手に自分たちの力を必要な分だけ入れコントロールする。そのため、幸十の急降下・急発進する翼に、いつもの何倍もの力を費やした。
========☀回想終了☀========
ーそして現在に至る。
「おぇぇぇぇぇぇぇえええ・・・はぁ・・はぁ・・俺・・・休息しに来たはずなんだけど・・・めちゃ寒いし・・・」
吐き気を催しながら凍える琥樹。
「とりあえず・・・あっちに村がありそうだから、そこで一旦休もう。幸十の翼も、そこで見るよ。」
ココロは少し先に見える光が灯った場所を指さして言った。
「宿屋探しや~!!」
洋一はどこかウキウキしながら、先に見える村を目指して一人はしゃいでいた。
ーー次回ーー
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