見出し画像

王神愁位伝 プロローグ 第11話

第11話 夢裏のナマエ

ー 前回 ー

ーーーーー


何かに強く引き付けられ、西塔に足を運ぶオレンジ髪の少年。目の前の扉を見て、思わず唾を飲み込んだ。
この渇き・・が何なのか、分からず目の前の扉を開けようとした時 ー

”ガチャ”
”ドン!!”
「うっ・・・」

少年が開ける前に、中から扉が開かれた。
と同時に、扉の目の前にいた少年にドアが直撃し、頭を抱えて座り込んだ。

「・・・あ!やっぱり・・・って、ぎゃ!!だ、だ、大丈夫?!?!」

聞き覚えのある高い柔らかい声。
扉から出てきたのは、座り込む少年を心配した黄金髪の少女、志都しづであった。
ジンジンと響くおでこを押さえながらむくりと少年は起き、焦る志都を見た。
「大丈夫。」

少年の返答に安堵したところで、志都は周囲をキョロキョロ見渡し、少年の腕を掴んで部屋にいれた。
”グイッ”

静かに扉を閉める志都。
オレンジ髪の少年は部屋に入ると、数か月前に入った時と変わらず綺麗な部屋に、どこか既視感・・・を覚えていた。

"カチャ"
少年が部屋の中をじっと見ていると、志都は部屋の奥から何やら食器や箱などを棚から取り出し、渦巻き状の足をしている洒落た机に置いた。
「それはなに?」

オレンジ髪の少年が聞くと、志都は黄金の髪からかすかに見える小さな口の口角を上げた。
「ふふ。前に会った時、美味しいものあげるって言ったでしょ?用意していたの。」

オレンジ髪の少年が机に向かうと、特徴的なコップと、少年がいつも使っている”じょうろ”のような形をした食器が並べられていた。
白を基調として、所々淡いピンクの色が混ざっており綺麗であった。
じっと見ていると、そんな少年に志都が気づいた。
「これはね。ポットとカップよ。」
「ぽっと?」
「ええ。ここにね、茶葉をいれて…」

手元にある淡い青色の筒状の箱から、こげ茶色の葉っぱをポットにいれた。
そして、湯気が立っているお湯を中にいれ、蓋を閉めた。
全ての行為が、オレンジ髪の少年にとって初めて見るものだった。
何せ飲み物はいつも井戸水だ。コップなどなく、バケツですくって飲むのが少年の常である。
じっと見つめるオレンジ髪の少年に、志都はクスっと笑い、机の上に置いてあった色鮮やかな四角い缶の蓋を開けた。
「!!」

そこには、数種類の美味しそうなクッキーが敷き詰められていた。
「これはなに?いい匂いがする。」
「ふふ。これはね。クッキーっていうの。ほら。」

箱から一つ持つと、少年の口にクッキーを持っていく志都。
少年は、目の前に来たクッキーを暫く見つめ、不意に口の中にいれた。

”っぽ”
「!!・・・うまい。」
少年が微かに喜んでいる表情をすると、志都は嬉しそうにした。
そしてふと、ボロボロの服から見える傷だらけの少年の肌を見て、志都は顔を歪ませた。
「これは・・・」

少年の傷だらけの腕を、志都が触る。
「・・・?腕だよ。」
「・・・違うわ。傷よ。痛そう。」

志都がどこか苦しそうに言うのを見て、少年は頭を傾げた。
「何で君が苦しそうにしているの?君もどこか痛いの?」

少年が疑問を持つと、志都は少年の手をぎゅっと握り、自身の胸まで近づけた。
「私は痛くない・・・けど、これだけの傷をつけている貴方をみると、心が苦しくなるわ。」

志都の言葉・行動がいまいち理解できずにいる少年の様子を見て、志都は話題を変えた。
「私は志都よ。君じゃなくて、志都・・。」
「・・・志都。そう呼べばいい?」
「うん。貴方は・・・、ないのよね。」
「最近サンバン以外に、アニキと呼ぶやつもいる。」
「それもちょっと・・・名前とは違うような・・・。」

何やら志都が考えていると、暫くしていいことを思いついたかのように、伸ばしっぱなしの黄金の髪に隠れた顔を上げた。
「ねぇ!私が付けてあげる!!」
「?何をつけるの?」
「名前よ!絶対これから必要になるわ。そうね・・・うーーーん。何がいいかしら。」

志都はジロジロと少年を見る。少年が少し居心地の悪さを感じ始めてきた時、志都は何かを思い出した。

「ーチト・・サチ・・・幸十サチト!!」
「サチト?」
「そう!幸十サチト!貴方の名前!」
「俺のナマエ?」

志都は少し顔を伏せ、指を触った。
「実はね・・・。今日、貴方が来るを見たの。」
「夢?」
「うん。ここに来てくれる夢・・・・・・・・・。丁度これくらい暗い時間。夢は来てくれる所で起きちゃったんだけどね。でも本当に来てくれた!」

志都が顔を上げると、黄金の流しっぱなしの髪から瞳が見え、笑顔を見せた。その表情に少年はおもむろに志都に近寄ると、志都の顔にかかっている髪を優しく左右にかき分けた。
髪の毛で隠れていた時にはわかりもしない、端正な顔立ちが現れる。
色白の肌と、深い水色の大きな瞳はなんとも人を惹きつける力がある。驚いているのか、白い頬はほんのり紅くなっているところが、また美しさを引き立たせた。

「ー きれい・・・。」
そんな志都を見て、少年は無意識に言葉を発していた。

"ザザザザザザザっ!!"
思っていなかった言葉に、志都は驚いてしりもちをつき、そのまま勢いよく少年から離れた。

「な・・・ななななななな・・な何を・・・!!」
どんどん赤くなっていく志都に、少年は志都の視線に合わせて更に近づいた。

「なんで遠くに行くの?」
「あ・・・いや・・・その・・・」
追い込まれていく志都。
ドっ直球な褒め言葉に慣れていない志都はたじたじになっているも、少年は容赦なく近づいていく。
少年は表情を変えず、冗談まじりでもなく、率直に言っていることが伺えるが、またそれが志都を恥ずかしめた。どんどん近づかれる少年に、志都は何か話題を変えようと必死に頭を働かせた。
ーが、パニックで頭が働かない。

「ー さ・・幸十の名前は!その・・・夢で誰かが・・・・・貴方をそう呼んでいたの・・・・・・・・・・!その・・・誰かは分からないけど・・・。そ・・・それにね、幸せって良い言葉よ!名前にそんな意味が入っているって良いと・・・お・・・思うの!!私だったら、喜ぶわ!」

やっとのことで絞り出した志都の言葉に、少年は志都に近づく身体を止め何か考えた。

「志都は・・・喜ぶ・・・・・?」
「うん!」

少年は目を閉じ、志都に名付けてもらった名前をひたすら呼んだ。

「幸十。幸十。幸十。・・・うん。いいナマエ。」

その瞬間、志都は思わず目を見張った。なにせ、いつも無表情な少年の顔が少しほころび優しい表情・・・・・になっていたからだ。
笑顔とまではまだ言えないが、表情筋が死んでいそうな少年が、ここまで柔らかい表情になっているのは驚きであった。

「志都。」
少年に呼ばれふと意識を戻し、少年の特徴的な瞳に目を移す。

「ありがとう。」
「ー!どういたしまして!」
少年の言葉に、志都も自然と笑顔になっていた。


ーー次回ーー

ーーーーーー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?