王神愁位伝 プロローグ 第10話
第10話 謎の渇望
ー 前回 ー
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乖理がここに来てから既に3か月が経っていた。
この敷地の中が全てだったオレンジ髪の少年にとって、毎日乖理から聞く話は新鮮であった。
特に乖理の家族である母親の話は、耳にタコができるほど聞かされた。家族全員太陽族の人間であり、特殊な力を持つセカンド一家であることや、乖理はまだ能力が発現できていないものの、母親のようになると意気込んでいること。
また、乖理の一家は武器として弓矢を使うことが特徴らしく、力はまだ発現できていないものの弓矢の腕は乖理もピカイチとのことだった。
話し過ぎて、爛に執拗に鞭で打たれる時もあったが、爛に目を付けられているオレンジ髪の少年が、乖理の数倍鞭で打たれていた。
その度、乖理は泣きそうな顔をしていたものの、オレンジ髪の少年は不器用ながらに大丈夫となだめていた。
その「大丈夫」という言葉に似つかず、オレンジ髪の少年の身体は鞭で打たれ、どんどん傷だらけになっていた。しかし、少年の表情からは痛がる様子が全くなく、乖理は余計に少年の心が大丈夫なのかと、5歳児ながらに心配していた。
この日はいつもの通り労働が終了し、夕食の時間が近づいていた。
いつもどんな時でもオレンジ髪の少年のそばを離れなかった乖理だが、この時は近くにいなかった。
特に食事の時間は誰よりも張り切って東塔に向かうのだがー。
”ガサガサ”
不思議に思ったオレンジ髪の少年は、乖理を探した。
塔の隙間、木々の間、ヒナギクの塔の玄関、掃除小屋の付近・・・。
しかし、何処にもいない。どんどん辺りも暗くなってきており、探すのも限界を感じ始めていた頃、いつの間にかまた西塔に来ていた。
立ち入り禁止区域だが、今の時間狼たちはいないようだ。
また、誰も寄り付かない場所でもあるため、周囲は妙な静けさに覆われていた。光の少ない夕日に、新緑の香りだけが少年の五感を動かしていた。
オレンジ髪の少年は西塔を目の前にして、乖理のことをすっかり忘れ、引き込まれるように再び近づいていた。
近づいてはいけないとは分かっており、また爛のあの痛いムチで叩かれると思うと勘弁だ。
しかし、数か月前この塔であった志都という少女のことを思い出すと、自然と足が西塔に動いていた。
”ヒュウゥゥゥゥゥゥゥッゥウウ”
強い風が吹き、オレンジ髪の少年は思わず目を閉じた。
”ーこっちへおいで。”
「!」
誰かに話しかけられたオレンジ髪の少年は目を開き、周囲を見渡す。
確かに、話しかけられた。しかし誰も周囲にはいないようだ。声はとても穏やかな、安心させられるような温かい声だった。身体の不純物を一切抜き取るような、清々しさが身体に残っている。
「・・・?」
誰もいない中で誰かの声が聞こえるこの状況に、オレンジ髪の少年は頭を傾けた。理解はできなかったものの、なぜか目の前の西塔に入らないといけない気がしていた。
そしてそのまま、オレンジ髪の少年の身体は西塔の中へ向かっていた。
西塔の木の扉を開き、狭い螺旋状の階段を確実に上がっていく。
数か月前に上った時と同様、階段には植物の蔓が敷き詰められており、やはり歩きづらい。
オレンジ髪の少年は、今までに経験したことのない、何かを渇望するかのように夢中で階段を登った。
登り終えると、そこには見慣れた扉が目の前に現れた。
オレンジ髪の少年は、目の前の扉を見て思わず唾を飲み込んだ。この渇きが何なのか、分からず目の前の扉を開けようとした時ー。
”ガチャ”
”ドン!!”
「うっ・・・」
少年が開ける前に、中から扉が開かれた。
ーー次回ーー
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