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王神愁位伝 プロローグ 第9話

第9話 新たな訪問者

ー 前回 ー

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"グツグツグツ・・・"
「ふんふんふ~ん♪」

ー 子供たちがヒナギクの塔・・・・・・と呼ぶ大きな塔の最上階。子供たちには立ち入り禁止の区域。
薄暗い部屋の中で、鳥の仮面を被ったオルカの不気味な鼻歌が響く。
同時に部屋のいたる所から、何やら水を沸騰・・・・させているような音が同時に鳴り響いていた。

周囲は暗いせいか、1メートル先は真っ暗闇だ。
そんな暗闇の中でも、オルカは何やらとある古い茶色い石板・・・・・・・に目を通していた。寄りかかった大きな椅子を上下に揺らしながら、ご機嫌そうに読んでいる。

その周囲には、これまた不気味な動物の形をしたぬいぐるみ・・・・・・・・・・・・が敷き詰められていた。ぬいぐるみは1頭身のフォルムで、ウサギやネコ、クマにオオカミ・・・
みんな笑顔だが、何処かぬいぐるみたちの目は悲しみと憎しみ・・・・・・・に満ちているようだ。

”コツ・・・コツ・・・コツ・・・”

暫くすると、真っ暗闇の奥から誰か・・近づいてくる。
オルカの半径1メートルあたりまで来て、やっと真っ黒なエナメル質の靴が見えた。

「オルカ。」
先に口を開いたのは、暗闇から現れた人物だった。

「やぁ。タキギ。」
オルカが陽気に挨拶すると、タキギと呼ばれるその人物はオルカの近くまで来た。
半分白・半分薄い青色の丸いフォルムが特徴的な髪型に、顔半分を覆う真っ黒なエナメル質のアイマスク・・・・・・・・・・・・・・・は、瞳を隠そうとしているのか大きかった。アイマスクの上で不安そうに歪ませる眉毛は、見ているだけでも何故か絶望感・・・を感じさせるような、そんな不気味さを醸し出していた。

タキギは、ぬいぐるみに囲まれ石板・・を読むオルカの様子を見てため息をついた。

「どうしたの??暇なの~?相変わらず陰険だねぇ~。」
オルカは石板を隅に置くと、椅子に足を乗せ、馬鹿にするようにタキギの方を見た。このタキギという男、そこまで口数も多いわけではなさそうだ。馬鹿にするオルカをじっと見ると、暫くしてやっと口を開いた。

「・・・順調・・・か?」
タキギはオルカから顔をそらし、辺りを見回した。
周囲は真っ暗闇だが、タキギには何か・・見えているようだ。

「うん。子供たちも沢山恐怖を溜め込んで・・・・・・・・くれるから助かっているよ。もちろん、恐怖を与えるランにも感謝だね。」

その返答に、特になにも表情を変えず、タキギは流した。

「・・・太陽族はそろそろ気づいてきたようだ。子供たちが消えていることが。」
「え、やっと?!本当馬鹿の集団だね。あの族。」
オルカは大きな椅子に深く腰を掛けて、1体のぬいぐるみを触りながら呆れていた。
「ねぇ~、こんな回りくどいことしてないで、一気に攻めようよ。絶対に月族ぼくらが勝つよ。」

ぬいぐるみを動かしながら、駄々をこねるオルカ。少し戸惑いながらも、タキギは爪を噛み無視して話題を変えた。

「・・・お前のコレクション・・・・・・集めも・・・順調そうだな。」
蕘がオルカの周りに大量に落ちているぬいぐるみを手に持った。

「キャハハハ!!もっちろん!これがなきゃ、こんな任務受けたくないよ。たきぎさんは、よく僕のことわかってるよねぇ。・・・てかさ。」
話題をすり替えられたことなど気づかず明るく答えるも、オルカはタキギの周囲を見渡した。

タキギ、マダムは?」
「・・・別に。俺は同行させる必要はない。」
「えーーー。ちゃんと連れてよ。僕が頑張っているのに・・・・・・・・・・!」
オルカは不満げに言っていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。その足音に、オルカはニヤッと笑った。
「お。この足音は・・・」
「オルカ様!」

大きく通るハスキーな声。真っ暗闇で周囲は見えないが大きく反響している所を見ると、ここは数百人規模のホールのような大きさかと推測ができた。

ラン!!こっちこっち!」
その声の正体は、ランであった。狼たちと一緒に、オルカの方へ来た。ランはオルカの方に向かうと、一緒にタキギがいることに驚き頭を下げた。

タキギ様!いらっしゃってましたか。挨拶が遅れました。」
その様子に、タキギは暫くランをじっと見た。

「・・・ 上手く飼いならしたな・・・・・・・・・・。」
「・・・え?」
ボソッとつぶやくタキギに、ランは困惑した。
同時にどことなく威圧感を与えるタキギランはいつの間にか全身から汗がどっと出ていた。そんなランの様子に、オルカは少しむくれた声で言った。

「ちょっとー、タキギ。あんまりランをいじめないでよ。」
「ーいじめられることはあっても・・・俺は一方的にいじめたりしない。

タキギは真っ黒なアイマスクに手を当てると、何か訴えかけるように・・・・・・・・・・言った。陰険さを感じさせるタキギに、オルカは面倒くさそうに無視した。
暫くして、タキギは何か思い出したようにランに聞いた。
「・・・の様子は?」
「はい。特に。不自由なく暮らしてます。」

その言葉に、タキギは鼻で笑った。
「不自由なく・・・か。我らの隊長・・・・・にそう伝えて・・・」

すると突然、タキギは口をつぐんだ。ランが問いかけようとしたが、オルカが口に人差し指を当て、静かにするように合図を送る。

「ー姫のいる塔に・・・誰かもう一人・・・・・・、いる様だが・・・?」
暫くして発したタキギの言葉に、ランは黄金色の目を見開き驚いた。

「なっ!?そ・・・それは・・・!?!」

そして、タキギは陰険深く笑う。
「ー誰か・・・侵入したのか・・・?」

その言葉と同時に、ランと狼たちは西塔に向かって勢いよく走っていく。その様子を横目に、オルカは手を叩いた。
「ひゃ~、相変わらずタキギの能力はすごいねぇ~。僕にも分けてほしい。」

オルカは椅子から腰を下ろし腕を伸ばすと、嬉しそうにした。
「さーーて。もう一人来るかな?」
何かを準備するかのように、歩き出すオルカ。タキギは、ランが走っていった後を暫く眺めていた。




ー その頃西塔には、以前顔を合わせた志都とオレンジ髪の少年が再会・・・・・・・・・・・・・・していた。


ーー次回ーー

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