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王神愁位伝 プロローグ 第8話

第8話 掃除が上手なプライマル

ー 前回 ー

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あれからというもの、乖理かいりはオレンジ髪の少年に引っ付いて行動していた。
掃除をするも、食事をつくるも、寝るも、食べるもずっとだ。まるで親鳥に必死で付いていくひな鳥のようだ。

そして、乖理かいりはよく喋った。5歳児の喋る力を毎日精一杯使いこなそうとしているのかと思うほど、オレンジ髪の少年に話しかけていた。
お陰で何回か狼たちに睨まれ、ヒヤッとする場面もあった。
オレンジ髪の少年のことはいつの間にか兄貴あにきと呼び、疲れるまで話しかけていた。少年はというと、ただひたすら聞き流していた。

そんなとある日。
中央にそびえ立つ塔の玄関で、少年と乖理かいりは掃除をしていた。
この塔も東塔・西塔と一緒で、外壁が植物のツタで絡まれている。違いがあるとすれば、2つの塔の数倍近くの大きさと所々
白いヒナギクの花・・・・・・・・が咲いているところだ。
ヒナギクの花は鬱蒼とした森に囲まれた敷地の中で、ほんの少し華やかさをこの敷地に与えていた。
子供たちは、ここをひそかにヒナギクの塔・・・・・・と呼んでいる。

「なぁ、兄貴。兄貴は、ここに来る前の記憶、なくなっちゃったのか?」
そんなヒナギクの塔で掃除していた所、少年が自身の話を全くしない事から、乖理かいりが質問した。

「うん。知らない。」
特に気にする様子もない少年に、乖理かいりは近寄って続けた。

「なぁ。気にならないのか?」
「気になる?何を?」
「んーーーだから、自分が何者かってこと!だって兄貴、自分のことなんも知らないんでしょ?」
「自分のことが気になる?なんで自分のことが気になるんだ?」

段々むずかゆくなってくる乖理かいり
「だってさ!自分が何者かって、めちゃくちゃ気になるじゃん!」

なんとか説明しようとするも、5歳児の語彙力では中々難しい。少年はそのまま掃除を続けた。乖理かいりは「ちぇっ。」とむくれて掃除を再開させるも、暫くして少年がふと言った。

乖理かいりは・・・、何者なんだ?」

聞かれた乖理かいりは開いた口が塞がらず、驚きながら少年を見た。
「え・・・、おれ今まで結構話したと思ってたんだけど。」

驚く乖理かいりに、少年はいつものように表情を変えず淡々と答えた。

「そっか。たぶん理解できていなかった。」
「えぇーーー。ちゃんと聞いててよ。」
「聞いてはいた。」
「へりくつ。」

むくれていた乖理かいりだったが、あきらめ肩を下すと、少年に近づいた。
「おれは、太陽族・・・の人間だよ。そこまでは兄貴と一緒だ。」
乖理かいりは、自身の右腕に刻印してある太陽の印を見せた。
「おれは今5歳!この間誕生日だったんだ!」
小さくむちむちな手のひらをめいっぱい広げ、ちょっと鼻を高くした。
「ちなみに兄貴は何歳?」
「ナンサイ?」
「自分が何年いきてるか!」

少年はほうきを持ったまま頭を傾げた。
「・・・何年。でも乖理かいりよりは長く生きてる気がする。」

少年は、乖理かいりをじっと見つめた。乖理かいりより自分の背が高いからとでも言いたげな瞳に、乖理かいりはまたむくれた。
「背は関係ないだろ!!おれはまだ5歳なんだ!これからもっともっと大きくなるんだぞ!!」

乖理かいりは、少年の腰くらいまでしか背がなかった。むくれる乖理かいりにお構いなく、少年は口を開いた。
「なんで乖理かいりは、いつも頭に布を巻いているんだ?」

その質問に乖理かいりは、自身の頭につけたバンダナを触った。

「バンダナのこと?これは、おれの家族全員つけてるんだ!お守りって母ちゃん言ってた。母ちゃんはセカンド・・・・だから、いつも怪我することが多いんだ。でも、バンダナをつけるとずっごく強くなるんだぞ!」

自慢そうに言う乖理かいりに、少年はバンダナをじっと見つめた。

「・・・いつも思ってたけど、乖理かいりの話によく出てくるカアチャンってなに?食べ物?」

もはやどんな質問でも驚かない乖理かいり
「─母ちゃんは・・・家族だよ。おれの家族。」
「カゾク?」

乖理かいりは座りこむと、落ちていた枝を拾い、埃っぽい地面に何か書き始めた。

「うーーーん。家族は、一緒に暮らす人たちだよ。」
「?じゃあ、ここにいる皆もカゾク?」
「え、それは違うよ。んーーー。改めて聞かれるとむずかしい。おれのことをいつも思ってくれる、あたたかいんだ。母ちゃん。」

そう言う乖理かいりの背中はどことなく悲しそうだった。少年は、いまいち理解できずにいると、乖理かいりは続けた。

「母ちゃんは、太陽族のセカンド・・・・なんだぞ!」
「そのセカンドってのはなんだ?」
再び聞く少年を、苦虫でも噛んだかのような表情で見る乖理かいり

「兄貴・・・。まぁ母ちゃんも忘れているくらいだから、忘れちゃったか。5歳のおれでも知ってることだよ。」

そう言って、枝で大きな丸を地面に書く。
「おれたちは、太陽族・月族で分かれてるけど、族の中でも人の種類が3つに分かれているんだよ。」

地面に書いた3つの丸に言葉を入れる。
「まずはね。おうぞく王族。おれたち太陽族であれば太陽王・・・さまのことだよ。族の頂点!おうぞく王族はね、直接神さまに創られた人・・・・・・・・・・・のことでね、とってもとっても偉いし強いんだ!」
「強い?」
「うん!おうぞく王族には誰も敵わないよ!それほど強い力を神様からもらった人しかおうぞく王族にはなれないんだ!」

乖理かいりはまだ短い腕をめいいっぱい広げて言った。少年は分かったような分からないような、そんな気分だった。

「でね、次はセカンド・・・・。母ちゃんみたいな人たちのこと!力を持っている人・・・・・・・・・たちのことだよ。」
「力?」
「そう!4つの力のうち、どれかを扱える人のこと!4つの力ってのは、火・水・風・雷だよ!おれの母ちゃんは風を扱えるんだ!」

少年は頭を傾けた。
「─じゃあ・・・、風を自由に出せたりするの?」

少年が聞くと、乖理かいりはよく聞いてくれましたというように自慢げに言った。

「そうだよ!セカンドは、その力を自由に使えるんだ!ビューって!グイ――ンって!かっこいいんだ!!それぞれの力を使って、みんなの生活を助けたり、戦ったりするんだ!この戦争も、セカンドが一生懸命戦っておれたちを守ろうとしてくれているんだ!!おれたちを奴隷にしてる月族の奴らなんか、太陽族のセカンドたちがコテンパンにやっつけてくれるよ!!きっと母ちゃんも、消えたおれを必死に探してくれてる!」
乖理かいりもセカンドなのか?」

少年が聞くと、先ほどまで意気揚々だった乖理かいりがいきなり沈んだ。
「─おれも・・・母ちゃんみたいに、かっこいいセカンドになりたいんだ。・・・でも力が出ないんだ。普通はね、親がセカンドであれば、子供もセカンドのはずなんだ。でも・・・おれにはまだ力が発現してないんだ。」
「これからじゃないの?」
「・・・うーん。分からない。僕の周りでは、みんな3歳で力が発現してた。僕と同い年の子たちも。僕だけでてないんだ。」

体育座りをし、自分を守るように顔をうずめる乖理かいり。まるでここに来た初日の時の様だ。恐怖というより、寂しさが勝っている。そんな乖理かいりに、少年は隣に座った。

「俺も力はないようだ。今踏ん張ってみたけどでない。」

自身の手をまじまじと見ながら、少年は言った。すると、乖理かいりは顔を伏せたまま言った。

「兄貴はきっとプライマル・・・・・だからだよ。」
「プライマル?」
「うん。プライマルは、おうぞく王族でも、セカンドでもない人たちのことだよ。力は持ってない人たちのこと。頭がいい人が多く・・・・・・・・て、王さまを支えたり、研究室に所属したり、食べ物を栽培したり、売ったり、掃除したり。」

その言葉に、少年はなにやら納得した。
「あぁ、ならプライマルだ。俺は掃除が得意だ。」

少年が自信満々に言うと、先ほどまで伏せていた乖理かいりは肩を震わせた。

「?どうしたんだ。」
「・・・ふ・・・ふふ・・・あははははは!!へへへっ!」

いきなり笑い始める乖理かいり。笑いが止まらないのかお腹を抱える。
少年は何故乖理かいりが笑っているのか理解できずにいると、暫くして、笑いをなんとかおさめながら乖理かいりは言った。

「そ・・・掃除が得意って・・・そんな自慢げに言う人・・・初めて聞いたから・・・あはは・・・!」
依然として笑いが収まらない乖理かいり。少年は、乖理かいりが笑い終わるのをじっと待っていた。
「あーーー。兄貴と話してたら、馬鹿らしくなってきちゃった。」
「?何で?」

”ワオ―――ン!!”
すると、外から狼たちの遠吠えが聞こえた。
いつの間にか日も暮れ夕方になっており、本日の労働の時間が終わる。
遠吠えを聞いて、乖理かいりは立ち上がった。

「ねぇ、兄貴。おれ、立派なセカンドになれるかな?」
「・・・さあ。俺には分からない。」

その解答に、乖理かいりは苦笑いした。

「へへっ。兄貴らしいや。」

乖理かいりは掃除道具をもって、外に出ようとした。少年は少し考えると、乖理かいりの背中に向かって言った。

「・・・セカンドというものになれるかは分からないけど、掃除の腕は上達しているよ。」

その言葉に、乖理かいりは少年の方を振り返った。

「だって、兄貴が教えてくれてるから!」

笑顔で答える乖理かいりの表情からは、恐怖も怯えも寂しさもなくなっていた。


ーー次回ーー

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