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王神愁位伝 プロローグ 第7話

第7話 消えていく

ー 前回 ー

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─ サァァァァァァアア

「・・・ん。」
冷たい風が頬を掠める。同時に新緑の爽やかな匂いと、身の寒さにオレンジ髪の少年は目を覚ました。

”ズキッ!!!”
「・・・っう!」

同時に身体の所々から激痛が走る。
少年は、ムチで叩かれそのまま気絶したことを思い出した。さすがに起き上がることもままならないので、寝っ転がったまま空を見上げた。
ー 気絶してどのくらい経ったのだろうか。
辺りはすっかり暗くなり、夜になっていた。夜になると、ここは灯りが一切ないため、動くのにも一苦労だ。その分、夜空に輝く月とあまたに広がる星は絶景だった。じっと夜空を見つめていると、何やら隣に気配・・を感じた。
「・・・?」

暗く良く見えないものの、誰か・・が隣にいる。
少しずつ目が慣れてくると、そこには見慣れない男の子・・・・・・・・が顔を伏せ、体育座りで隣に座っていた。
身体はオレンジ髪の少年よりもだいぶ小さかったが、痩せこけたり傷がついてないところを見ると、ここに来てまだ間もない子供のように見えた。
オレンジ髪の少年が身体の痛みを耐えながらぎこちなく動き出すと、その男の子は身体をビクっとさせ顔を上げた。

艶やかな紫色の短髪と、大きなやや釣り上がった紫色の瞳をしている男の子は泣いていたのか、目が腫れていた。
そして髪の上には、薄汚れた灰色のバンダナを巻き、左耳付近でバンダナを留めている太陽のブローチ・・・・・・・が何より特徴的であった。
オレンジ髪の少年は、男の子を暫くじっと見つめていると・・・

「な・・・なんだよ!!じろじろ見るな!!」
声変わりもまだむかえてない高い声色で怒鳴るも、ちっとも怖くない。
まるで子猫が一生懸命威嚇しているようだ。まだ見つめるオレンジ髪の少年に、男の子は立ち上がり言った。

「な・・・なんだよ!!何が言いたいんだ!!」

何かに怯えながらも、必死に耐え抵抗しようとする男の子にオレンジ髪の少年は少し驚いた。
何故なら、ここにいる子供たちは、恐怖に支配され抵抗する力すら残っていない子供たちばかりであったからだ。それに比べ、目の前の男の子の瞳は幾ばかりか光を持っており、少しまぶしく少年には感じた。

「・・・君の目、光っているから。珍しかったから驚いた。」
オレンジ髪の少年が言うと、予想もしていなかった回答に男の子は驚き呆然としていた。少しして我に返ると、小さな手をぎゅっと握り、頬を膨らませ、オレンジ髪の少年の隣にまた座った。その様子に、オレンジ髪の少年は口を開いた。

「あまり見ない顔だ。新しいドレイか。」

その言葉に、男の子はキッと鋭いまなざしでオレンジ髪の少年を見る。
「うるさい!!」

男の子はまたもや顔を伏せ、体育座りをした。
オレンジ髪の少年が男の子の肩を見ると、「|113《・・・」の数字が刻印されていた。刻印は、肌に濃く印字されている。印字されたばかりなのだろう。この数字は焼き印で入れられる。
ー まずここに来てから味わう最初の絶望・・・・・の瞬間だ。
オレンジ髪の少年は気絶する前に、新しい子供たちが鳥仮面の人物に連れてこられていたことを思い出した。

「やっぱり新しいドレイか。」
特に躊躇することもなく言う少年に、再度男の子はオレンジ髪の少年を睨みつけた。

「うるさい!!黙れ!!!お前だって・・・お前だって奴隷・・・な・・・なんだろ!!」
今にも泣きだしそうな男の子は、必死に声を絞り出した。

「うん。ドレイって何かは知らないけど、俺たちはドレイらしい。」

その言葉に、男の子はポカーンとした表情をした。少し沈黙が流れると、おそるおそる男の子は聞いた。
「お前・・・いつからここにいるんだ。」
「分からない。・・・でも、結構ここにいると思う。」

男の子はオレンジ髪の少年の肩を見た。傷だらけの肩に刻印された番号を見て驚いた。
「お前、3番って・・・。その番号を3番目にいれられた・・・・・・・・・んだろ?結構ここに長く居るんだな。」

その言葉に、オレンジ髪の少年は少し考えた。返答を待たないまま、男の子は喋り始める。

「ー おれは・・・今日来たばかりだ。母ちゃんに訓練場まで弁当持ってきてほしいって言われたから、持っていこうとしたんだ。そしたら、マダム・・・がいきなり現れて・・・そしてあの鳥仮面に会って・・・こんな場所だよ・・・。鳥仮面あいつ、頭おかしい。・・・狂ってる。・・・母ちゃん、お腹空かせてるんだろうな。おれの母ちゃん、お腹空かせるとすっごく機嫌悪くなるんだ。鬼の形相みたいになるんだ。みんな怖がっちゃうよ。」
話し出す男の子に、オレンジ髪の少年は黙って聞いていた。黙っている少年の方を見て、男の子は身を乗り出して聞いた。

「ーお前、名前なんていうんだ?」
「・・・ナマエ・・・サンバン?」
「は?」

少年の回答に、意味が分からず聞き返す男の子。

「サンバン。」

再びそのまま答えると、訝しそうに男の子は少年を見た。

「それ・・・、名前じゃないだろ。それは肩に入ってる番号だ。元々の名前だよ。おれは113番だけど、名前は乖理かいり。お前は?まさか忘れちゃったとか?」

冗談交じりに聞くが、オレンジ髪の少年は顔を傾けた。

「よくわからない。」
「じ・・・じゃあ、ここに来る前はどこにいたんだ?母ちゃんや父ちゃんは?」
「カアチャンヤトウチャンってなんだ?」

無表情で真面目に聞いてくるオレンジ髪の少年に、乖理かいりと名乗る男の子は驚いていた。
ここでの生活に慣れてしまうと、ここに来る前の記憶がなくなってしまうのか。見えない恐怖が乖理かいりを襲った。顔を俯き、これ以上聞かないことにした。

「・・・なんでここにいる?」
今度口を開いたのは、オレンジ髪の少年だった。ビクっと反応し、顔を上げる乖理かいり。少し不貞腐れながら言った。

「・・・だって、他の奴ら・・・泣き虫ばかりだ。ずっと泣いたり怯えたりしてる。」
その言葉に、オレンジ髪の少年はじっと乖理かいりを見た。

「な・・・なんだよ!!」
「君も泣いている。」

図星だったのか、乖理かいりはほっぺを膨らませ、顔を赤くしてムっとした。

「うるさい!!ずっと泣いている弱い奴らとは違うんだ!!・・・母ちゃんによく言われてたから・・・。泣いてても何も解決しないって。強くならないと、何か起っちゃったとき動けなくなっちゃうって。おれはそんな奴じゃない!お・・・おれは、母ちゃんみたいに強いんだ!!」

必死に弁明する乖理かいり
オレンジ髪の少年は聞いているのか聞いていないのか無反応だった。

「それに、おれ最後に数字入れられたから、ここに113人の子供がいるんだろ?そんなにあの塔の中にいられないよ。人数多すぎて塔が壊れちゃう。」
心配する乖理かいりを横目に、オレンジ髪の少年はボソッと口を開いた。

「・・・ドレイは沢山いない。あの塔の広さは広いくらいだ。」
「そんな訳ないだろ!?100人って結構な数なんだぞ!お前知らないだろ!おむすび100個もあったら、おれのお腹大変なことになっちゃうんだぞ!」

乖理かいりの言葉に、オレンジ髪の少年は真っ直ぐに乖理かいりを見て口を開いた。

ドレイは消えていく。だから新しいドレイが来ても、そんなにいない。」
「・・・どういうこと?・・・消える?」

オレンジ髪の少年は、ふと空を見上げて言った。

「うん。俺しか気づいてないけどね・・・・・・・・・・・・。」

その日の夜空は満月。いつも以上に光り輝き、そんな月を捉えた少年の黄色い瞳も不気味に輝いていた。


ー 次回 ー

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