王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第5話
第5話 赤っ鼻の道化師
ーー前回ーー
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「・・・。」
いきなり現れた巨大雪だるまに琥樹と幸十が連れ去られ、洋一とココロが追いかけると、複数の子供たちと目、鼻、口を真っ赤に塗りたくった異様な男が現れた。
よく見ると、頬はガリガリに痩せているのに対し、不自然に膨らむ大きなお腹も不気味さを増している。
人間なのだろうか・・・。そう疑いたくなる外見に、洋一とココロが呆気にとられているとー
「んー!!んーーー!!!」
巨大雪だるまに咥えられている琥樹が、口からはみ出している足をばたつかせた。
ハッと我に帰り、ココロは急いでその赤っ鼻の男に話しかけた。
「あの!貴方達が誰かは知りませんが・・・。その2人を離してくれませんか?1人は容態があまり良くなく・・・」
”ズズン!”
「!!」
ココロの訴えていると、赤っ鼻の男が洋一やココロに勢いよく近づいてきた。
"ゴクリ・・・"
何かされるだろうか。
赤っ鼻の男が何やら懐から手を出し、洋一とココロが構えるとー
''ポン!"
「は?」
差し出された手からは、ピンク色の花のようなものが突然現れた。赤っ鼻の男は驚く2人を見るとニコッと微笑み、ピンク色の花を差し出す。
「へ・・・?」
訳もわからず、とりあえず受け取る洋一。
しかしー
"パァァァン!"
「洋一!」
受け取った瞬間、花が破裂し、同時にヒラヒラと色とりどりの花びらが舞い始めた。
2人が驚いていると、赤っ鼻の男は驚く2人を指差し無言で笑う素振りをした。その様子に、巨大雪だるまの後ろにいた子供たちも笑いだす。
2人は何がなんだか分からずにいると、赤っ鼻の男は大きな腹から萎れた何かをとりだし、それに口をつけ空気を入れ始めた。
一瞬にしてその萎れた物体は大きな球体となり、赤っ鼻の男が軽快にジャンプして、器用にその球体の上に乗った。
と、同時にいつのまにか用意した複数の雪玉でジャドリングを始める。
その手捌き、バランス感覚は見事なものだ。
ジャドリングの次は、球体の上で縄跳び・逆立ち・ジャンプ・・・・
それはそれは巧妙な芸が繰り広げられた。
雪だるまの背後にいた子供たちも、いつのまにか前に出てはしゃいでいる。
「おお!こりゃ凄いわ!!俺もやるで!!!」
洋一やココロも気を取られていたが、ふとココロが巨大雪だるまの口からはみ出た琥樹と幸十の力のない足を見て、再びハッと我に帰った。
”バッシーン!”
「ちっがーーーう!!!」
いつのまにか、赤っ鼻の男や子供たちとはしゃいでいた洋一の頭を叩くと、ココロは巨大雪だるまを指差した。
「あれ!!!どうにかしてください!!!気分が良くないやつもいるんです!!」
ジャドリングをしていた赤っ鼻の男は動きを停止させると、巨大雪だるまを見た。
そして何か納得したのか、左の手のひらに右手の拳をぽんっと叩きつけると、子供たちに何やらこそこそ話し始めた。
子供たちはきゃっきゃっと騒ぐと、雪だるまに手のひらを向けた。なにやら水色のオーラのようなものが子供たちの手のひらから雪だるまに注がれていく。
「あの力・・・」
ココロが何かに気づいた時ー
"パクッ!ゴクン!"
「え・・・ぇえ?!?」
「ちょっと!!」
幸十たちを雪だるまは飲み込んでしまった。その光景に慌てるココロと洋一。
飲み込んだ雪だるまに吐き出すように食いつくも、また雪だるまは固まってびくともしない。
そんな2人を見て笑う子供たち。
「・・・サチ・・・琥樹・・・短い人生やった・・・・」
「お前は勝手に2人の人生終わらせるな!!」
シクシク泣く洋一を叱るココロ。
そして、子供たちと笑う赤っ鼻の男をキッと見た。
「ちょっと!!何をしたんですか!!我々は太陽の心臓、太陽族本部で働く者です!!いい加減に・・・」
ココロの堪忍袋の緒が切れそうになった時ー
"ゴン!"
「・・・っ?!?!」
笑っていた赤っ鼻の男に、背後から誰かが拳を下ろした。
物凄い音だ。赤っ鼻の男はものすごく痛そうにしゃがみ込んだ。
「やりすぎだ。」
その背後にいたのは、ガタイの良い大きな男だった。
坊主頭に、刺青だろうか。”イタルアサーカス”という文言が洒落たフォントで印されていた。
鋭い瞳と、その大きなガタイも含めて少し威圧感を感じさせる男だ。
こんな寒い中でもタンクトップ一枚に長ズボンという服装に、見ているだけで寒そうではあるが、何よりその男には左腕がなかった。
いきなり現れたその男に、ココロと洋一が驚いていると、男性は周りの子供たちに言った。
「解きなさい。君たちはこんなことに力を使っちゃいけない。」
そうガタイの良い男が言うと、子供たちは唇を尖らせ、嫌々手のひらをまた雪だるまに向けた。
再び水色のオーラのようなものが、雪だるまに向けられるとー
"シュュュュウ"
「ーこれは・・・」
巨大雪だるまとチビだるまたちが崩れ、サラサラと跡形もなく散っていった。
と同時に、琥樹と幸十が雪の中から顔を出した。
2人とも気を失っているようだ。
「サチ!!琥樹!!」
洋一が急いで倒れる2人の元へ駆けつけた。
2人の生存を遠目で確認したココロは、ホッと胸を下ろすと、ガタイの良い男と頭を抱えてうずくまっている赤っ鼻の男の方を見た。
ココロの視線に気づいたガタイの良い男は、ココロたちの隊服を見た。
「その太陽のブローチに、その隊服・・・。本部の者か?」
「あの・・・貴方たちは・・・」
ココロが話しかけようとした時ー
"シュン!トスッ!"
「・・・っ!」
誰かが、ココロに雪玉を投げつけた。
「こら!!!」
見ると、子供たちの1人が投げたようだ。
その子供は舌を出すと、他の子供たちと一緒にすぐ後ろの村へ走って行ってしまった。
子供たちの様子にため息をつくと、うずくまる赤っ鼻の男の襟元を右手で掴み、引きづりながらココロの方へ近づいてきた。
今度は何をされるか・・・。ココロが構えていると、ガタイの良い男は鋭い目つきをココロに向けー
「色々悪い。ここは寒いだろうから、村へ行こう。テントで温まるといい。」
「え・・・あ、はい。」
その男の表情と言葉のギャップにまたもや驚き、ココロは暫く呆然としていた。
ーー次回ーー
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