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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第6話

第6話 巨大なテント

ーー前回ーー

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シャムス地方南西部に位置するフィジー村。
人口50人程度の小さな村だ。
その村はずれには巨大なテントが建てられていた。辺りは雪で真っ白な世界が続く中、このテントだけが色とりどりで鮮やかに目立っていた。
テントの中は暖房設備が整えられており、極寒の外と比べ物にならないほど暖かい。

「ハッッッッックション!!!!」
「お、なんやサチ。誰かあんさんの噂でもしてるんか?」
「んな訳ないでしょ!!!ずび・・・あのデカだるまの中、ずび・・・めちゃくちゃ寒かったんだぞ!!ぐずっ・・・今回休息で来たはずなのに・・・ずずっ・・・とんだ災難だよ・・ずび・・・」

盛大なくしゃみをする幸十と、隣で洋一を威嚇している琥樹こたつは、2人とも毛布に包まり、テントの中の暖炉で震えながら温まっていた。
雪で作られた巨大雪だるまの口の中は、それはそれは極寒だった。そんな中に一定時間いた2人は、風邪を引く一歩手前の状態だ。

「寒い。眠くなってきた。」
幸十がうとうとし始めると、琥樹こたつは必死に幸十を揺らした。

「さっちゃん!!寝ちゃだめだ!!寝たら最後だよ!!ほら!起きて!!」
「あ、サチ、毛布食べ始めてもうた。」
「え、ちょっと!毛布は食べちゃだめ!!さっちゃん!吐き出して!!」
「ははっ!お腹空いとるんだか、眠いんだか、サチは忙しいなぁ。」
「ちょっと洋一さん!笑ってないで止めてよ!!!あ!さっちゃん!俺の毛布まで食べないで!!寒い!」

朦朧とする意識の中、生存本能だろうか。それとも単にお腹空いているだけだろうか。
包まっていた毛布を食べ始める幸十に、鼻水を垂らしながら必死で止める琥樹こたつ。その様子を見て笑っている洋一。
なんとも騒がしく、少し離れた場所でココロは頭を抱えた。

(はぁ・・・そもそも今日中にシャムス軍のいる首都まで行くつもりだったのに・・・ここってまだ南西部だよな?太陽の泉は最北端だから1週間は時間貰ってるけど・・・こんな調子でたどり着けるのか・・・?)

「あ!さっちゃん!俺の腕食べないで!痛い!!」

ココロがこの後のことを考えていると、後ろで幸十が琥樹こたつの腕にかぶりつき始めた。
「おい!ちょっとは静かに・・・」

ココロがイライラしながら、騒ぐ琥樹こたつたちを指摘しようとした時ー

"ササッー"
「ひぃ!!」
「ん?」
いつのまにか、琥樹こたつと幸十の近くに子供が2人現れた。
突然現れたのも驚きだが、2人は頭に不気味な被り物・・・・・・・をしていた。
1人は目の焦点が合っていないウサギの頭、もう1人はかぼちゃに目、鼻、口を歪にくり抜いたものを被っている。

自分たちで用意したのだろうか。お世辞にも被り物は可愛いと言えず、なんとも不気味に見える。
身長は座っている幸十たちの膝より少し大きいくらいで、顔は見えないもののまだ子供のようだ。
被り物の焦点の合わない視線は、幸十にじっと向けられている。

「な・・・なんか・・・さっちゃんを見てる・・・かんじ?」
幸十も空腹で意識が朧げの中、向けられた視線の方に顔を向けた。
すると、ウサギの被り物をした子が、いつのまにか手にしたスケッチブックに、これまたいつのまにか手にしたペンを持って何やら書き出した。
琥樹こたつや洋一、ココロも注目していると、書いたスケッチブックを幸十に見せた。

”おなかすいてるの?”

幸十に向けられたスケッチブックには、そう書いてあった。
「・・・。」

しかし、スケッチブックをじっと見るのみで返答をしない幸十。その様子に、暫くして琥樹こたつはハッと気づいた。
「あ!忘れてた。さっちゃん、お腹空いてるの?だって。」

字の読めない幸十の代わりに琥樹こたつが伝えた。
「うん。すごくお腹空いてる。」

幸十がそう答えると、背後からまた別の声が聞こえてきた。
「ーそれじゃあ・・・無礼のお詫びも含めて、食事としようか。」

少し震えた声色に幸十たちが振り返ると、そこには痩せこけた男性が立っていた。
ガイコツのように細く、今にも折れそうだ。
肩ぐらいまである髪を緩く結び、眼鏡をかけ、弱々しく微笑むその表情は、なんとも頼りなさを感じる。
そんな男性の元にパタパタと走っていく被り物をした子供たち。今にも折れそうな男性の細い足元にしがみつく。

「おっさん誰や・・・?」
洋一がいきなり現れた男性に聞くと、男性は一瞬驚いた表情をし、何かに気づいて慌てた。

「あ、そっか・・・今はピエロの格好・・・・・・じゃないからな・・・」
どう説明しようか男性が迷っていると、ココロが男性の着ている萎れたピンクの衣装・・・・・・・・・を見て気づいた。

「ーもしかして・・・さっきの赤っ鼻の・・・?」
その言葉に痩せこけた男性はパアッと表情を明るくし、ココロの手をガシッと掴んだ。

「いやぁ~!!気づいてくれたの君が初めてだよ!!嬉しいなぁ~!!どうして?どうや・・・ゴフッ!」
「え?!」
男性はココロに握手を求めると、興奮しすぎたのか血を吹き出した・・・・・・・
ココロは驚き思わず引いているとー

「興奮しすぎだ。引かれてるだろ。」
またもや誰かが入ってきた。
入ってきたのは、先程の左腕のないガタイの良い男性だった。
ガタイの良い男性は、痩せこけた男性の足元にピタリとしがみつく子供たちを引き剥がし、痩せこけた男性に白い布切れを渡した。

「え、大丈夫なんですか?」
ココロが驚き聞くと、ガタイの良い男性は子供たちを自身の肩に乗るよう促す。

ラビペポ。こっちに乗りなさい。・・・いつものことだ・・・・・・・。気にしなくていい。」
「はあ・・・」
ココロは疑問に思いながら返事をすると、痩せこけた男性も、血を拭きながら言った。

「そうそう。いつものことだか・・・ゴフオっ!!」
「え!ちょっと!!」
「それより、食べものを用意したからあっちへ行こう。」
「いやいや!!平然としすぎ!!」

ココロや琥樹こたつが思わず突っ込んでいる傍ら、お腹の空きすぎた幸十と洋一は、食べものが用意されている外へガタイの良い男性について行く。
「ちょっと待て!!」

ココロが痩せこけた男性を支えながら二人を止めようとするも、聞こえてないのかそのまま行ってしまった。ため息をつくココロをみて、痩せこけた男性は弱々しく笑った。
「いやぁ~、申し訳ないな。本当にいつものことだから・・・。色々君たちには無礼なことしちゃったから、ここでよかったら休んで行って。このサーカス団・・・・・で。」
「サーカス団?」

「うん。イタルアサーカス団・・・・・・・・・。僕はここの道化師ピエロであり団長のいたるだ。」


ーー次回ーー

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