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「技能実習生」制度の闇 岡部文吾氏の戦いに学ぶ

▼実質的な「移民」政策の第一歩である入管法改正に関連して、筆者がこのひと月で読んだ論説の中で最も感動したものを紹介しておきたい。

それは「月刊日本」2018年12月に載った「時給180円で毎日18時間労働」というタイトルの岡部文吾氏へのインタビューである。(聞き手・構成 杉原悠人)

▼まず、このインタビューは同誌の「奴隷扱いされる外国人労働者」という特集の一環である。編集部の前文にはこうある。

「日本は単一民族国家だから、移民を受け入れるべきでない」との主張が一部にある。しかし、そもそも日本人は南方系、北方系、大陸系などの諸民族の混交によって形成されてきた。しかも、日本は諸外国の人材を柔軟に受け入れ、文化や制度等を発展させてきた歴史を持っている。/一切の移民を受け入れないという極論を排し、外国人労働者受け入れに必要な体制を整えた上で、的確な制度を整えるべきだろう。

筆者も同感である。平成の世も終わろうとする現在、「単一民族」の妄想にとりつかれた人は未だに多い。

▼岡部氏の肩書は「協同組合クリエイトヒット実習生事業担当」。〈私は1981年にホーチミンで生まれ、マレーシアの難民キャンプを経て1990年に来日したベトナム人であり、本名をファム・ニャット・ブンといいます。(中略)私にとって彼らの問題は他人事ではありません。

つまり、ベトナム人が、難民として日本を選び、日本人として、日本社会をよくするために生きてくださっているのである。日本にこういう人々がたくさんいる現実を知る人は少ない。

▼技能実習生が抱える最大の問題は、働き始める前に背負わされる借金である。

〈借金の相場は最近では80~100万円ですが、2017年以前は150~200万円でした。いずれにせよベトナムの平均年収は26万円、平均月収は2万3000円なので、彼らは日本で働いて借金を返すまでは帰国できません。しかし、労働環境は深刻です。

 Aさん(21歳女性)は愛媛県の縫製会社で週6日、毎日朝8時30分から深夜3時まで18時間半働いて手取りは8万円でした。実質賃金は時給180円です。彼女は耐えかねて入国管理局に連絡して査察が決定しましたが、会社は事前に実習生たちを集めて「何か話したら帰国させる」と脅しました。査察の間、それでも彼女は自分のメモを見せながら訴え出ましたが、入管には信じてもらえず、会社から激怒されました。彼女は身の危険を感じて逃げ出し、最終的には労使紛争で正当な報酬を得て帰国しました。

Bさん、Cさん、Dさん、いずれの例も悲惨である。〈実習生の失踪者は年間7000人ですが、そのうち半分の3500人はベトナム人です。〉

「失踪」という名の「緊急避難」に追い込まれた実習生を守る戦いは、岡部氏にとっては祖国の宝物を守るための戦いでもあるだろう。

▼岡部氏は保護シェルターを開設したものの、孤立無援の状況が続いたが、〈今年3月に保護していた実習生が除染作業を強いられていたことが大々的に報道されると、在日ベトナム大使館が動き出しました。一等書記官はシェルターを視察した上で「今後はベトナム政府の名前を出していい」と後ろ盾になってくれました。〉

状況が改善し始めたのは、それからだったという。〈翌4月には倒産以外の理由で初めて実習生の失業手当が認められました。これまで保護した15人のうち、7人が失業手当をうけとっています。〉

▼最大の問題である借金。〈必要経費に上乗せされたお金は何なのか。〉まずは〈送り出し機関の仲介料〉である。〈送り出し機関は監理団体をベトナムに招待して接待しています。日本人向けの接待は日本並みの相場なので、監理団体関係者の送迎、飲み食い、カラオケ、女性をあてがう費用で一晩20~30万円かかります。この接待費が仲介料に上乗せされているのです。〉

そのほかにも〈保証金〉、〈利子〉、〈年金保険料〉。それに〈関係団体の小遣い稼ぎ〉である〈技能評価試験〉の〈試験料〉が2~3万円。

〈繰り返しますが、最大の問題は借金です。日本は途上国の労働者を働かせたい。彼らも日本で働きたい。しかし、そのために必要な費用は全て彼らが借金している。ここから様々な問題が起きているのです。だから答えはシンプルです。日本政府、日本企業が海外から労働者を呼びたいならば、自分たちで必要経費を負担して呼べばいい。特に日本企業が実習生を大事にしないのは自分でお金を出していないからです。実習生を大事にしなければ雇用主が損をする仕組みを作る必要があります。

▼この理路整然とした提案に、日本政府は耳を傾ける必要があると筆者は考える。「合理主義」に蝕(むしば)まれた亡国の道を選ばないためには。もう一つ、岡部氏は大切な視点を示してくれている。

〈私が24歳で男性の実習生を入管へ連れて行って「この子、実習先で殴られたんです」と訴えた時、職員は「なんで我慢しなかったのか」と言いました。自分の子供が同じ目にあっても同じことが言えるのか。

ベトナム人が、日本人として生きて、日本のために、日本の酷薄な島国根性を直そうとしてくれている。情理を尽くしたこのインタビューを、多くの人に読んでほしい。

(2018年12月15日)

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