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「緊急事態宣言」は5月6日で終わらなさそうな件(6)感染した人は謝るな。謝らせるな。

▼2020年4月17日付の毎日新聞夕刊の1面トップが、日本特有の「謝罪する文化」が新型コロナウイルスをさらに蔓延(はびこ)らせることを指摘した。宇多川はるか記者。

■「コロナ感染=謝罪」は異常

〈コロナ感染=謝罪なの?/組織トップ 芸能人 会社員として…/申告が怖くない社会に〉

▼要するに、感染した有名人がやたらと謝っているわけだ。謝らない人もいるが、謝る人のほうが多い。感染したという事実について、謝るべきではないし、周りは謝らないことで決して責めてはいけない。誰も得をしない。

責めた人は瞬間的な自己満足を得るので、「少なくとも自分は得をする」と思っているかもしれないが、その思考回路は、無知による無恥(むち)の極みであり、大間違いである。

▼社会情報大学院大学教授で危機管理コンサルタントの白井邦芳氏いわく

「著名人や所属団体が謝罪することで、一般の方々が『感染=謝罪』を常識のようにとらえるようになり、症状があった時に言いづらくなるなど、適正な措置に結びつかないリスクがあるのでは」

▼日本赤十字社国際部の国際救援課長、佐藤展章氏いわく

「少なくとも、感染拡大を防ぐためのハードルをあげるような空気感は、意識して気をつけていかないと」

▼有名人が謝ると、それを見た人々は、「ああ、これって謝るべきことなんだ」と思うようになる。

そこから、あと一歩進むと、「新型コロナウイルスに感染した人=犯罪者」という愚劣極まりないレッテル張りに行き着く。すでに、患者に対して、医療従事者に対して、そういう事態になりつつある。

犯罪を犯していない人は、誰でも犯罪者扱いされたくない。だから自分が感染したことを人に言わないようになる。

ウイルスもこわいが、差別もこわい。次元が異なるこわさだ。今号は、この差別についてメモしておく。

■コロナは「3つの顔」を持っている

▼この毎日新聞の記事で紹介されているのが、日本赤十字社がつくった、新型コロナウイルスの「3つの顔」の図だ。こちら。

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▼新型コロナウイルスは、感染することによって「病気」になるのだが、決してそれだけで現在の「緊急事態宣言」に至ったわけではない、という話だ。

新型コロナは【3種類の感染症】によって広がるというのだ。この「3つの顔」の図は、新型コロナウイルスの「勝利の方程式」であり、人間の「敗北の方程式」である。

■第1の感染症=「病気」

▼まず、第1の感染症=「病気」はわかりやすい。これは症状が「目に見える」から、誰でもわかる。

■第2の感染症=「不安」

しかし、感染はそれだけではすまない。新型コロナウイルスによって、人の心から心へ「不安」も感染する。「不安」は第2の感染症だ。なぜ「不安」が感染するかというと、ウイルスが「肉眼では見えない」からだ。やはり、見えないものは怖い。それが人間の先天的な本能だ。不安を感じる力は、生きるために必要なのだ。

そもそも、人と離れていれば、ウイルスは絶対に広がらないから、「人と離れる」のは正しい対策でありーーそして唯一の対策でもあるーー同時に、不安をしずめる最善の策でもある。

■第3の感染症=「差別」

▼ウイルスは見えないから、不安は消えない。ここで、大きく二つの分かれ道がある。不安を感じる「自分の心と話し合う」道、そして「不安を他人にぶつける」道だ。

「不安を他人にぶつける」道を選んだ人は、第3の感染症に罹(かか)る。「差別」だ。

■「差別」は【誤った「見える化」】

▼「不安」に耐えきれない人が、他人を「差別」しはじめるわけだが、これは、「目に見えない」ものを、むりやり「目に見える」化する行為だ。

差別する人は、その瞬間、「見えない」ものを「見える」化したつもりになって満足するのだが、それは安上がりな「感情ポルノ」にすぎない。しかもこの「感情ポルノ」の代償は、とても高くつく。

どれだけ差別しても、不安は消えない。なぜなら、それは【誤った「見える化」】だからだ。「見えない」ものは、「見えない」のだ。

差別という「誤った見える化」によって、ウイルスという本当の敵は身を隠す。

これで、新型コロナの「勝利の方程式」が完成する。

■差別がさらなる感染を広げる

▼最大のポイントは、ここにある。

3番目の「差別の感染」は、「差別している人自身に害を与える」。

ここだ。

差別して終わり、ではないのだ。上の画像の説明文が、論理的だ。

言われれば、納得する人が多いと思う。しかし、言われなければわからない人も多いと思う。筆者も、こうやって言語化されて、ぼんやりしていた問題の輪郭がクッキリしたように感じた。

第3の感染症=「差別」が、第1の感染症=「病気」につながって、ウイルスの「勝利の方程式」が完成してしまう論理、それは、

〈差別を受けるのが怖くて熱や咳があっても受診をためらい、結果として病気の拡散を招く

ここに、人間にとっての「負のスパイラル」、ウイルスにとっての「勝利の方程式」を断ち切るポイントがある。だから、ここを強調する新聞も多い。「差別がウイルスを拡散する」のは、実際に、現実に、目の前で起こっている出来事なのだ。

■産経新聞の記事

▼日本赤十字社が作った「3つの顔」を初めて見たのは、2020年4月10日付の産経新聞だった。

〈コロナ 嫌がらせ断ち切ろう/「冷静対応を」医師ら指針〉

篠原那美記者。この記事は、見出しの「嫌がらせ」というぬるいワーディングが残念だが、リード文で〈差別を恐れて症状を隠す人が増えれば、さらなる感染拡大につながりかねない〉という日本赤十字社の考えを示している。冒頭にホシを示すのはいい記事だ。

「3つの顔」の図をつくった一人、丸山嘉一(よしかず)氏は、「本来の敵であるウイルスが目に見えないために、人々は感染者やクラスターの起きた地域などを敵とみなしてしまう。本当の敵ではないのに、差別して遠ざけることで、つかの間の安心感を得ようとする」と語る。

▼あと2つ、「3つの顔」の図を紹介した記事に触れておこう。

■東京新聞の記事

2020年4月17日付の東京新聞。見出しは〈未知のウイルス/負の連鎖/不安から差別へ〉

〈差別をする人は自身にせきや発熱などの症状が出た際、逆に差別されることを恐れ、医療機関への受診をためらうケースがあるという。〉

ここで、同じく丸山氏登場。「差別はわが身に降り掛かり、結果的に病気をまん延させてしまう」

「3つの顔」の図は、〈臨床心理士を中心に医師や看護師、国際部の職員らが国内外の文献を参考にしながら〉作ったそうだ。

▼この記事の上には、〈相次ぐ医療従事者差別/「ばい菌扱い」「子どもが登園自粛」/「一生に一度が…」卒園式出席断念/自身、家族 四分の一が風評被害/「詳しい情報なく…」複雑〉という見出しの記事が載っていた。

ある看護師は、〈別居で一カ月以上顔も合せていない父親が勤務先から出社停止を求められた〉そうだ。

■日本経済新聞の記事

▼4月22日付の日経夕刊。見出しは〈感染者へ強まる偏見/拡大抑える妨げに/「行動履歴を教えろ」抗議/「従業員も感染」デマ拡散〉

リード文に〈強まる差別を恐れるあまり、感染の可能性があっても隠すことにつながりかねない。〉と明示する。

▼A)差別する。B)自分の感染を隠さないといけなくなる。C)自分の大切な人を守れなくなる。

A)は、すぐC)に至るということを、A)の段階で、思い起こしたい。

「感染者が謝罪させられる日本特有の文化」は、「感染拡大の温床」である。日本はウイルスにとってとても居心地のよい社会なのだ。

感染した人は、謝るな。周りは、謝らせるな。それが、「差別→病気」のつながりを断ち切る一つの鍵だ。

(2020年4月23日)

(2020年4月24日に追加)

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