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「黒影紳士kk」season4-5幕〜帰ろう…黒影〜 蒼と赤、炎の旋律編🎩第五章 感謝と黒影

――第五章 感謝と黒影――

「……酷い雨だ……。」
 足早な甲高い靴音も、今日は雨でコツコツ聞こえるだけだ。
 店に入るなり黒影は蝙蝠傘を閉じ、漆黒の帽子とロングコートの水気を払い言った。
「お疲れ様。雨に滴る……だな。」
 と、私はウィスキー片手に笑って言う。
「冗談じゃない。僕の大事な帽子とコート内の機器までイカれちまう。滴るどころの話しじゃないですよ。」
 と、黒影は言っている。
「んー……?でも濡れても綺麗に代わりはない。」
 と、私は笑った。
「カッコいいの方が嬉しいんですけど!」
 と、黒影は注文を付ける。
「ん……それは闘う時か「真実」に挑む時だな。基本はちゃっかりし、気分屋、我儘、甘えん坊、寂しがり屋。……童顔だし、睫毛も長いし……可愛いか、まぁ美人な方だ。褒めているんだから、何方でも良いじゃないか。」
 と、黒影に酒を勧めた。
「童顔、童顔って。……少しは気にしているんです。」
 と、黒影が言う。
「じゃあ、ワイルドマッチョな主人公が良かったのか?なんか、紳士が合わないよ。」
 と、私はケラケラ笑った。
「……それにしても……今日は晴れか曇りだって天気予報は言っていたのにぃ……変ですね。」
 と、黒影は鴉に言った。
「……黒影、こう言う日の雨はな、「神様が泣いている」って言うんだよ。」
 と、鴉は言い出す。
「何故?あの人、元から泣き虫でしょう?今更、雨降らせなくても……。」
 と、黒影は苦笑いしながら、ウィスキーグラスを傾ける。
「……言いたい事が溢れて言葉にすれば良いのに、それすら出来ずに心が痛むのだと。……どう思う?マスターと私達二人で一冊いったら笑えるな。ただの飲兵衛、三人の物語で、いよいよ探偵も何もあったもんじゃなくなるぞ。」
 と、鴉は大笑いする。
「えっ?!……それは流石にあり得ないっ!無理ですよっ!誰だ、神を泣かせたのは……全く。また調子でも悪いなら会いに行きましょうか?」
 と、黒影は上を見上げて言った。
『……だから、そんなところにいないもん……』
 と、黒影に声が聞こえる。
「何ですか?その拗ねた威厳のない声は。一応、全ての物語を書いたんでしょう?もう少し風格ある喋りとか、登場して下さいよ。」
 と、黒影はその声の主に言う。
『自信ない。怖い……。知ってた、黒影?……season2の第一話を何時迄も越せないんだ。もう辞めたい……。黒影は私が居なくても大丈夫にしたし、もう……いいよね?創造主変わってよ。引退するから……。』
 と、神の癖にそんな戯言を言い出すので、黒影は怒った。
「貴方が自信ないのなんか今から始まった事じゃないし、越すも越さないも、数字を見なきゃ良いじゃないですかっ!いつものスランプが自暴自棄でしょう?……いちいち「もう私なんて……」とか、まだ言っているのかっ!面倒な希死念慮引っ提げて泣いて……少しは成長したらどうなんだっ!」
 と、呆れている。
『ほら怒る……だから、書きたくなかったのに。黒影は強いから良いじゃないか!……涙が止まらない。……止め方忘れた。真実の墓で眠りたい。』
 と、とうとう泣き言も悪化して、そんな事を言い出す。
「嫌ですからねっ!まだ書ける間は「真実の墓」になんか入れてやるもんかっ!飲んだくれて、路上にでも転がってドブ鼠と心中でもしろっ!」
 と、黒影は散々な言い方をする。
『ぅわーー!(頭をガシガシ掻きむしる音)!黒影にまで嫌われた!もう誰も私なんて必要じゃないんだっ!こんなに皆を愛していたのにっ!嗚呼、なんてこの世は理不尽なんだっ!嗚呼、こんな手初めから無ければ良かったのにっ!……ガシャン……バキバキ……バリバリ……』
 と、神はどうやら神の世界でヤケを起こしているようだ。
「何やっているんだ!止めろよっ!何だか分からないが落ち着けって!手ぇ、何にもしてないだろうなっ!おぃ!」
 黒影はまさか、手に八つ当たったのでは無いかと焦る。
『……筆箱落ちた。……ねぇ、元気出ない。LOVEじゃなくてLIKEで良いんだよぉ……。愛してるって言って。』
 と、訳の分からない事を言い出す。
「ねぇ?酔ってます?」
『酔っていないが、弱ってる』
 その言葉に大きな溜め息をついて、黒影は鴉の顔を見た。
「……これって神命?」
『……でも、良い。』
「言ったら本編書く?」
『はい。』

 その返事に覚悟を決めて鴉と黒影はグラスを交わしカランと鳴らすと、二人同時に一気飲みをした。
そして、店いっぱいに響く声で、

「愛してるぞーーーっ!!」(黒影)
「愛してるーーーっ!!」(鴉)
と、叫んだ。

 暫くすると、何だか笑い声が聞こえてきた。
『物語の中心で叫んじゃった?ねぇ……物中?』
 と、神は言った。
「はぁ?……それさせにわざわざ?!何してるんですか!早く書いて下さいっ!」
 と、黒影は呆れて言った。
『ノンノン……君達に足りないものを書いただけだ。……「ファンサービス」!!いただきましたっ!ありがとねっー!』

「……声、消えてった。嘘だろうっ!それだけの為にっ!アイツっ!」
 黒影はいっぱい食わされて悔しそうにした。
「まぁ、良いじゃないか。良い事をしたには変わりない。それに、一方通行の神の心も、少しは落ち着いたようだ。」
 そう言って、がっくりする黒影の肩に手を当て、鴉は店先に連れて言った。
 ……雨が……止んでいる……。……本当に泣いていたのか……。
 煉瓦の路地の上に水溜まり。空は雲が少なく青さを広げた。一本の虹が掛かっている。泣き腫らした空はスッキリと、鮮やかな色彩で二人を迎える。足元を見ても、水溜まりに虹が映って……上を見ても下を向いても、こんなに美しければ泣けないと、黒影は思った。
「くーろーかーげっ!」
 聞き慣れた声に振り向いた。
「もう……昼間っから居ないと思ったら、やっぱり此処だったわ。」
 と、白雪がパニエ入りのスカートを揺らし、傘をくるりくるりと回して、ご機嫌で黒影に話した。
「傘、あったのねっ。良かった。」
 と、にっこり笑って水溜まりの虹を見た。
「ああ、心配して来てくれたんだね。有難う。」
 と、黒影は微笑む。
「黒影、知ってる?……虹の端には金貨の詰まった瓶を持ったゴブリンがいるのよ。」
 と、白雪は言って笑う。
「そうか。……鴉、じゃあ、僕はこれからそのゴブリンを捕まえに行かないといけないらしい。またねっ!」
 そう言って黒影は乾いた帽子を頭から手に持ち、大きく振って笑顔でさよならをする。
「黒影、そいつは子供を元気に遊ばせる為のお話しだよ。」
 と、鴉は教えた。
「でも、知っているかい?大人でも夢は見て良いんだぜ!」
 そうニカッと笑うと、白雪の手を取り二人で、楽しそうに走りながら去って言った。
 きっと黒影なら見つけるだろう虹の端を。そして、ゴブリンに一枚の金貨を渡してこう言うのさ、
「夢は遠いから価値がある。だから、もっと遠くへ逃げるんだ。」
 と。
 ――――――――――――――――――――――

「ねぇ、黒影はどうするのさ。」
 鸞はカレンダーを見ながら聞いた。
「何の話しだ?」
 黒影はカレンダーを見て頭を傾げる。
「母さんへのクリスマスプレゼントだよっ!」
 と、鸞は耳打ちする。
「白雪かぁ?……何もしないよ。ただでさえ犯人も浮かれているんだから、クリスマス、年末年始は多忙で帰れるかも分からない。年明けにゆっくりだな。」
 と、黒影はリビングの椅子に座ろうとする。
「……この間、クリスマスの前の特番みて、「いーなぁー……」って、イルミネーション観てぼやいてたよ。」
 と、鸞は黒影の袖を引っ張り止めて言った。
「ん?……あんなの混雑して寒いだけだろう?そもそも木が可哀想だし、あの人だかりを整備するだけで幾ら掛かるか知ってるか?」
 と、黒影らしい返事をする。
「夢が無いなぁー。だから、最近母さんよく怒るんだよ。」
 と、鸞は現実主義者にも程がある黒影に言う。
「夢があると、白雪は怒らないって事?」
 と、黒影は頭をまた傾げる。自分より白雪の方が現実主義だと思っているからだ。すると、鸞が耳を貸す様にと黒影を手招く。黒影は何かと耳を貸した。
「前回さぁ、言ったら夕飯半分って言われて黙っていたけれと、あの土砂降りの雨の日に家出するフリしたの、ドラマみたいな恋したかったからぁーっだって。
 放って置いら、今度はローマでスクーター乗る羽目になるよ。」
 と、鸞は言うのだ。
「嘘だろうー?!……そんな事であの大騒ぎかぁ?」
 と、離婚届まで用意してまさかと、思わず大きな声で驚いてしまった。
「……どうしたの?大声出して。はい、今日も愛情たっぷり珈琲。」
 と、白雪はにっこり笑って黒影の前のテーブルに珈琲を置いた。
「あっ……うん、有難う。毎日嬉しいなぁ……。」
 と、黒影は飲んだが、白雪の後ろ姿をじっと見る。
……イルミネーション?……行きたいのかなぁ……。
 黒影は頭の隅の予定に入れて置く事にした。きっとクリスマスなんて、爆弾予告だらけでそれどころじゃないけれど。
 殆ど、クリスマス嫌いの嫌がらせだが、大企業やら大型施設から念の為と依頼が殺到し、セキュリティグッズも売り上げが伸びる。年末年始も然りだ。
「先輩、どうしたんですかー?」
 眉間に皺を寄せて考えてみても、休暇なんて取れはしない。
 掻き入れ時なのだから。
「……うーむ……クリスマスなぁ……と思って。サダノブは穂さんにクリスマス、忙しいけど何か言われた事あるか?」
 と、黒影は聞いてみる。普通の女子なら彼と過ごしたいに決まっているが……
「それが、穂さんも「たすかーる」のセキュリティグッズのバイク便が忙しいから、何か言われるどころか、お互い会えない日なんですよねー。あー、良いよなあ……普通に祝えたら。俺も爆破したーぃっ!」
 と、サダノブは言い出す。
「馬鹿っ!物騒な事言うなよ。こっちは止めたり、確認で大変なんだからっ!」
 と、黒影は仕事を増やされてたまるかと、そう言ったが、実はたまに爆破したーい!とこっそり思った事はある。
 周りはカップルだらけ、幸せそうな笑顔……幸せそうな音楽……対して振り回される自分、忙殺されくたくたのヨレヨレになって走り回る自分をキラキラ光るショウウィンドウの中で見てしまった時は、なんとも言えない虚無感を感じたものだ。
「……どうせ、行ったって爆弾なんてありませんよ。そうそう作れるものじゃないんだし、脅迫文だけで稼げるから少しは報われますけどねー。」
 と、事務をしているのでサダノブを普段より依頼が増える事ぐらいは分かっている。
「へぇ……大変だねー。僕は手伝わないよー。ブルーローズとデートだから。」
 と、鸞は言う。
「お前っ、狡いぞーっ!鸞だって探偵新人の癖に、先輩二人も出しぬくのかっ?」
 サダノブが鸞を羨ましがり言った。
「僕はまだ学生だから自由参加だよー。それに青春は今だけですから、自由に飛ばさせていただきまーす!」
 と、影の羽根も出さずに手でパタパタさせ、サダノブに言い返している。
 その鸞のパタパタが、可愛らしくて黒影は思わず微笑んだ。
「そうやっていると、とてもあの怒った修羅と同一人物には見えんな。」
 と、言いながら。
 ―――――――――――――――――――――― 

 ――――そして忙しい風柳含む三名、一人浮かれたクリスマス当日がやってくるのだ。
 夢探偵社は既に一週間前から爆破予告の確認で電話での問い合わせも依頼も、スケージュールがパンパンになり、毎年ながら猫の手でも借りたい始末で、動いている。
 風柳の警察の方もバッタバタである。
 ……これが、年末年始まで続くかと思うとゾッとするが、やり切るしかない。
「あー!やっぱり僕も爆破したくなってきたーっ!」
 連日の疲れで黒影がとうとうストレスを感じ、そう叫んだ。
「はいはい、珈琲のんで……落ち着いて。主人公が爆弾魔だなんて聞いた事ないわよっ!私も電話対応ぐらいなら手伝うから……ねっ。」
 と、白雪は優しく黒影を宥める。
「……白雪はさぁ……こんな忙しいクリスマスより、普通にデートしたくないの?」
 と、黒影はだらんとして、甘えて聞いている。
「そんなの、繁忙期が終わったらいつでも出来るじゃない。」
 と、白雪は言ってくれたが、イルミネーションは終わっちゃうんだよ!と、黒影はモヤモヤしていた。

 その時だ。血相を掻いて風柳が帰って来た。
「……えっ?何で?……警察も忙しいでしょう?」
 と、風柳を見て黒影は聞いた。
「……そりゃあ、大忙しだよ!こんな忙しい時期に……。」
 と、風柳は深刻な顔をする。
「まさか……事件……ですか?」
 黒影はそっと聞いた。
 風柳は頷く。
「ぅえーー!嘘でしょ!先輩、もう無理っすよー!事務処理だって追いつかないし、「たすかーる」も繁忙期で外注ヘルプ出せませんよっー?」
 と、サダノブは半泣きみたいな情けない声で言った。
「……風柳さんが、こんな繁忙期に帰って来たって事は……ただの事件じゃありませんね。署長から正式依頼が来ている……この夢探偵社に。凶悪犯罪……でしょうか。」
 と、黒影は暗い声で言った。こんな時だから、犯人はこの時期を選んだかも知れない。人手が足りない、手薄なこの時期を。風柳が申し訳なさそうに頷くので、黒影は敢えて勢いよく手を上げサダノブに言った。
「凶悪事件発生の可能性あり!今から当社を上げて警察と全面協力し、素早く事件を解決するっ!捜査会議を至急始める。他は置いて最優先だ!会議を記録を取れ!」
 そして、直ぐにリビングへ来るよう手を下ろす。
「えっー!?ああ、はいっ!」
 この黒影のはっきりした指示には迷いも感じられず、気づいたらサダノブは動かされている様な不思議な気分だった。

 白雪は飲み物をリビングに置き直し、風柳にもお茶を湯呑みに作り座る。
「……で、風柳さん……話して下さい。此方(夢探偵社)は依頼であれば全面協力します。忙しい時もお互い様。助け合わねばね。」
 と、黒影はにっこり笑った。
「……それは有難いと言いたい。……言いたいが……この事件、夢探偵社の力を借りても死人が出てしまうかも知れない。」
 と、風柳は言う。
「……どんなに困難でも……僕が望まない限り……そうはさせない……。」
 黒影は「真実」を激らせその瞳の中に真っ赤な業火を映し地を這う様な声でゆっくり言った。
「……分かった。話そう。受けるか受けないかは、その後だ。酷評で看板に泥を塗られないよう、慎重に聞いてくれ。……都内S区自爆テロ……現在ライブハウスに立て篭もり、クリスマスライブで満員に近い。」
 と、風柳が言う。
「……なんだ、それならウチで簡単に引き受けますよ。何もそんな深刻な事件じゃないじゃないですか?」
 と、黒影は言った。……が、風柳はまだ深刻な面持ちである。
「それだけなら、それ一件ならば……お前達でなんとかなるんだ!」
 と、風柳は悔しそうに言うと珍しく感情的になり、テーブルを殴った。その行動に黒影はある事に気付き、青褪めた……
「夢探偵社の力を借りても死人がでるかも……その事件、正しくは……同時多発自爆テロ……ですね?」
 黒影も真剣な顔になって聞いた。
「……ああ。都内S区全てのライブハウスだ。前18箇所……。犯人の要求は無し。自殺志願者だ。集団自殺を考えたが、自分達を捨てたこの世界を呪い、少しでも多く道連れに死のうとしている。この情報はネットのやりとりで分かった。」
 と、風柳は話した。
「…………18……箇所……。」
 黒影はその数に絶望した。どれだけ、優れた知り合いの能力者を集めても18人に満たない。それだけ、能力者は少ないのだ。ましてや自分の味方なら尚更……。
 サダノブ、黒影、白雪、涼子さん、Winter伯爵、漣、ザイン、鴉、悪魔、クロセル、能力者ではないが穂、風柳、曾祖父……13人。
 この中で自爆テロに使えるのは……サダノブ、Winter伯爵と漣、ザイン、クロセル、のみだ。曾祖父は直ぐには呼べない。Winter伯爵はクリスマスとあれば冬のその物で多忙過ぎる。クロセルとサダノブが同一人物である限り、分離しても同時には使えない。
「爆弾に炎は拙い。サダノブは凍結、クロセルは水で閉じ込め氷の剣できる、漣には爆発しない物語を書いてもらう。ただWinter伯爵は呼べるか分からない。添削、責了が可能か不明だ。
 ザインには青龍を使い観客をガードシールドに入れてもらい守る。
僕は影に爆弾を飲み込むが攻撃は炎で出来ない。潜り込むよ。排除出来る見込みがあるのはこの四人だけだ。悪魔とWinter伯爵がいれば六人。最低人数で一人4〜5箇所の爆弾処理及び犯人確保、人質解放……足りなすぎる……。風柳さん、爆破時刻は?」
 と、黒影は聞いた。自体はかなり不利である。
「5時間後だ。」
 風柳が答える。
「5時間……5時間もあれば、まだ諦めるに至らない。風柳さん、曾祖父を呼んで下さい。間に合います。「逆風の盾」を使ってもらいましょう。後、犯人を先に逮捕、客は出さないで下さい。
 僕らの存在がバレる。忘却の香炉を焚いてから退場するようにお願いします。急病人は出来るだけ同じ病院に搬送。後で記憶を消しに行きます。サダノブ、お前は早めに周って爆弾を出来るだけ多く潰せ。後バイトの山田太郎(悪魔)に至急連絡。爆弾処理案件ありとだけ伝えて。
 ……面子が揃ったら出る。サダノブ全ライブハウスを衛星地図にマークして、風柳さんと情報共有してくれ。」
 と、黒影は支持を出す。かなり難しい案件で不利だが、けして断るなんて一言は言わなかった。
 ……無駄な命などない……そう、信じているからだ。
 助けるでもない、不利か有利でもない、自分の信じた道を迷わず歩きたい。
 ……それは黒影の信念でもあり、願いだ。
「白雪……18箇所……クリアになった場所を教えて欲しい。」
 黒影は白雪に伝達係を頼んだ。
「分かったわ」
 白雪の目がキリッとする。白雪もまた黒影の一歩後ろで守られながらも闘い続けてきたのだ。
 黒影が挑もうとする事が喩え無理難題であろうと、闘う黒影が必要とする時は必ず、応えてきた。それが二人の何よりも強い信頼。夫婦になっても、けして変わる事のない揺るがないものだ。
――――――――――――――――――――

「よし、じゃあサダノブ先に出るぞ。風柳さん、後でくる連中、癖はありますが宜しくお願いします。」
 と、黒影は帽子を白雪に渡し、サングラスを掛け、真っ黒なスポーツカーのエンジンを掛けた。
「俺の完璧なステージ……観せてやる!」
 相変わらずエンジン音で人が変わり、一人称が「俺」になって言う事も横柄だが運転技術は悪くは無い。ただ、スピード狂なので署長から貰ったパトランプは必須だ。
「完璧?完璧に人数少ないのにぃー?」
 と、後部座席のサダノブが言う。
「サダノブ!そう言う時はなぁー……俺がお前ならこう言う。「俺、一人で十分過ぎる!」ってな。嘘でも虚勢張ってりゃ本当になるんだよ!」
 と、スピードを更に加速した。
「18ヶ所ですよー!幾らなんでも、無理っすよー。」
 と、サダノブが弱音を吐く。
「教訓2だ。探偵ならなぁ……現場に着く前に弱音吐くんじゃねぇ!現場についてもだっ!……がっかりだ、サダノブ。俺は18ヶ所……守り切る事しか考えていない!狛犬は俺だけ護っときゃあ良いんだよ!」
 と、黒影は言いながらアクセルを前回で踏み込む。
「荒れてますねぇ……特に今日は。そりゃあ、18ヶ所ともなれば本気になるのも分かりますけど。先輩特に何か出来ないでしょう?基本、俺の氷頼みじゃないですかぁー。」
 と、サダノブはぶつくさ言う。
「……本当に僕が何も出来ないと思っているのか?……秘策があるんだよ。楽しみにしておけ。」
 と、黒影はニヤッとした笑みをルームミラー越しにした。
 サダノブはそれを見てゾッとする。
 ……何だか分からないけれど、この人……ろくな事を考えちゃいないと気付いたからだ。

 ―――――――――――――――――― 
「近づくなって言ってるだろ!」
 黒影とサダノブが入ると犯人は二人に言った。
「はーい、探偵でーす。警察じゃないのであまり警戒しないで下さいね。……その爆弾どうやって作ったの?C4とかあの辺?ただの火薬?同時多発なら時刻機動制だよね?君、作ったの?それとも、これ企画した人のプレゼント?」
 と、黒影は全く犯人の話は無視して爆弾に近づき、作りを見ている。
「なぁーんだ。あんまり美しくないなぁー。雑なんだよねー、全体的に。直して良い?」
 と、黒影は汚く撒かれた絶縁テープが気に入らないらしいが、勿論、
「触るなっ!吹っ飛びたいのかっ!」
 と、犯人は黒影に聞いた。
「いいえ、吹っ飛びたいのは君でしょう?……どうせ最後に吹っ飛ぶんなら、芸術的に吹っ飛びたくないの?このボロ爆弾で死ぬの?本気ぃー?あはは……僕なら絶対、御免被るな。」
 と、黒影は嘲笑う。
「君……、爆弾起動まで銃持っているけど、そっちの方が確実に死ねるよ。……この爆弾、範囲と爆風は確かにこのライブハウスを吹き飛ばすけど、威力がイマイチ。バランスが悪いんだよ。吹き飛んで壁にぶつかっても、当たりどころがラッキーなら痛いだけで死ねないかも。つまり、殺傷より爆風重視なわけ。
 そんな訳ない……そう思って言いたいのも分かる。が……君の信じたリーダーは騒ぎを起こしたい。狼煙を上げるみたいに。帰って来た爆弾魔がよくやるよ。……利用されたんだよ、それに。……サダノブ、主犯は元爆弾魔だ。暫く潜っていたか逃亡、務所入りの何れかで最近出て来たか帰国した人物。
 今はとりあえず、こっち片付けて後で検索なー。」
 と、黒影は呑気に言う。
「じゃあ、簡単な事だっ!お前を人質に取れば良い!……さぁ、爆弾直したかったんだろう?好きにすれば良い……馬鹿な探偵だっ!」
 と、犯人は言って黒影の首をグッと引き頭に拳銃を当てる。
「……聞いた?サダノブ……この無能、僕に馬鹿って言ったよ。無能なのに。馬鹿って事はこの僕とサダノブが同レベルだって事だよー。サダノブはさぁ、思考読みだから普段馬鹿なの分かるよぉー。サダノブの主って普段馬鹿ならサダノブより馬鹿って事になるよー。こー言うの、なんて言うんだっけ?ほら、サダノブの言葉でさぁー?」
 と、黒影は呑気にサダノブと話し出した。
「おぃ、お前!俺の先輩、コケにしてくれてんじゃねぇーよ!」
 サダノブが怒り氷を全身に纏い、冷気を放つ。
「ああ!それそれ。ヤンキー語とか礼節ないもの、分からないんだよねー。そうだそうだ、コケにするだ。」
 と、黒影は納得してスッキリしたのかニコニコしている。
「僕さぁ……死にたい奴なんかに捕まりたくないんだよ。だから少しは反省して下さいね。」
 と、黒影は低い声で言うと全身に炎を纏い漆黒のコートをバタバタと熱風で鳴らした。
「熱ぃっ!!」
 思わず犯人が離れた瞬間、黒影は火を纏うのを止め、犯人の手にある拳銃目掛けて軽々と飛び回し蹴りを喰らわし、銃を落とさせた。
 落ちた銃を黒影は蹴り、床を滑らせ遠くにやる。
 その間にサダノブは爆弾を巨大な氷柱で覆う。
「死んだから楽になるなんて……真実は見た事も聞いた事がない。なら、生きて多少は楽になる様に頭冷やして考えればいい。時間だけはある。」
 黒影はそう呟くように言って、犯人を拘束し風柳に連絡する。その間にサダノブが出した忘却の香炉に鳳凰の小さな火を灯し、ライブハウスを甘い香りで包み込んだ。

「やっと一ヶ所……間に合うかなぁー。……白雪、ザインは捕まりそうか?」
 黒影は白雪に聞いた。白雪は白梟の姿で黒影の声を受け取る。
「バーに鴉さんいたから、急いで呼んで貰っているわ。
 ……あっ!今来たっ!黒影、影開いて。鴉さんが影と繋ぐって!」
 と、白雪はザインがバーに到着した事を伝えた。
黒影は自らの影を広げて、壁に移した。
 鴉はバーで羽織っていた黒い着物を広げザインを通す。
 ――――――――――――――――――――――

「久しぶりだね。」
 影から出て来たザインに黒影は言った。
「何だかえらい大変そうじゃないか。まぁ、俺が来たからには心配要らない。」
 と、相変わらず自信満々の答えだが、
「犯人は人間だから生かさないと。それだけは気を付けて下さいね。」
 と、黒影は忠告する。
「……心得た。元から殺しは好かん。……ところで、白梟を借りたいのだが。」
 と、ちゃっかり黒影の肩に既に一緒に影を通り、止まっていた白雪の変化した白梟を見てザインは言った。
「あっ、白雪……。今日は伝令係だからちゃんと、ザインに着いて行って。ねっ。」
 と、黒影は肩から下ろしお願いするとザインの肩にのせる。
「もう少し乗っていたかったなぁー。」
 と、白雪は言ったが、
「時間がないの。後でね。」
 と、黒影は白梟に言って微笑む。
「仕方無いわねー。地図見せて。」
 白雪の声は黒影にしか分からないので黒影はサダノブに、
「白雪に地図見せて。」
 と、タブレットを見せる様に言った。
「……俺はこの世界では目立ち過ぎる。この近辺から潰したい。」
 と、ザインは提案した。
「まあ、その大剣……明らかに銃刀法違反ですからねぇ。……いざとなったらコスプレだって言い張って下さいよ。……じゃあ、僕は車あるし、遠くから潰します。……白雪……怪我させないで下さいね。今は鳥だから弱いんです。」
 と、ザインの青龍の技をかするだけでも危険なので先に言う。
「ああ、ガードの陣に入れておこう。じゃあな。」
 そう言ってザインはジャリッと音を立てて走り出す。
「さぁ……僕らも行くか……。」
 黒影は車に向かう。
「やっぱり……なんか、気に入らない……。」
 と、サダノブはやはり、ザインは苦手なようだった。


🔸次の↓「黒影紳士kk」season4-5幕 第六章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。