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「黒影紳士kk」season4-5幕〜帰ろう…黒影〜 蒼と赤、炎の旋律編🎩第六章 鳳凰、黒影

――第六章 鳳凰、黒影――

「ザインが既に4箇所制覇……やっぱり早いな……。」
 車を飛ばしながら、白雪からの通信を聞いている。
 「ガード発動したまま犯人に近付いて拳銃を奪い、清瀧を爆弾に巻きつけてギューって爆破してるの。」
「それは合理的でスマートだ。僕らもそんな技あればなあ。」
 と、黒影は青龍が羨ましいと言いたそうな顔で、サダノブをルームミラーで見る。
「ありますよ!何だよ何時もあんなのと比べてっ!次、俺一人で出来ます。堕天使なめんなっ!ですよ。」
 と、サダノブは無理に敬語にしようとする努力は認めるがやはり馬鹿語だ。
「お前と言うより、クロセルがやりたいんだろう?我が社の掟、殺さない……いって戦闘不能は堕天使、例外じゃないからな。ぼくは次へ……。」
 ……行こうか……と言った時、車の最新鋭無線が飛んできた。
「黒影の旦那っ!大変だよっ!」
 ……この無線をジャクできるのは涼子さんぐらいだ。
「……音声良好、やるじゃないか。」
 と、黒影はとりあえず褒める。
「……ふざけてる場合じゃないよ!旦那の向かってる隣、鸞とブルーローズが人質になってる。防犯カメラで確認済み。悪魔と漣も到着するよ。」
 と、涼子が言った。
「……そうか、二人でライブハウスデートって、この近辺だったのか……。」
 黒影は咄嗟に頭を巡らせた。
「先輩?!何で其方何ですかっ!」
 サダノブは鸞のいるライブハウスの反対にハンドルを切った。
「……女と一緒なら本気で守る!そんな事も出来ないやわな息子に育てた覚えは無い!」
 と、黒影はそんな理由で助けに行かないと言う。
「えっ?!でもまだ成長したばかりですよ!」
 と、サダノブは戻る様に言う。
「……諄いっ!信じているから僕は僕の道へ行ける。鸞を助けても、鸞はちっとも喜びはしない!子供の成長を邪魔してまで甘やかすのは愛情ではない!成長を奪う暴力だ!俺はただ、鸞を一人前の一人の人間にしてやりたいだけだ。」
 サダノブにはその乱暴な言葉が、如何に強い鸞への愛情なのか、痛い程分かってしまう。

 おぃ……鸞、お前の親父は、メチャクチャクールだぜ。

 ――――――――――――――――――――――
「着いたぞ!時間がないっ!僕は次へ行くが、白雪はサダノブに着いてくれ。終わったら直ぐ!何よりも早く知らせてくれ。」
 と、サダノブを目的地に置いて白雪に頼んだ。
「分かったわ。黒影……独りで大丈夫なの?」
 と、白雪が不安そうに聞く。
「大丈夫。いつだって、これからも大丈夫にして来たじゃないか。」
 と、黒影は微笑み安心させる。
 ―――――――――――――――――― 

「漣!原稿用紙は持ったな?」
 Winter伯爵がこの一番忙しい時に駆けつけてくれた。
 こんな日に、悲しい事件を起こしてはならんと、彼のプライドの問題だと言ったが、本当は既に親友と認めた黒影のピンチを救ってやりたかったに違いない。
 ―――――――――――― ――
 一体、何が己を狂わせたのだろう
 静かに少しずつ記憶を辿って行く。
 君はある一点で止まり、辺りを一瞥した。
 思っていた理由と、本当の理由が違って見える。
 ……今更引き返せない……
 君はそう、初めの理由の在った場所で泣いていた。
 もう泣かないで、ゆっくり歩けば良い。
 止まりそうなスピードでも、誰も君を笑う事なんか出来ないのさ。
 時間はただの区切りでしかないんだ。焦る必要は無くなった。だから君は止まった時の中で僕と出会うだろう。
 銃は静寂に飲まれバラバラと弾丸を落とした。
 そして空っぽになった銃を捨て君はこう言った。
「まるで今の俺のようだ。」
「今はそうでも、これからは違う。」
 そう時の旅人は言うと過ぎて行くのだ。
 視線を下ろすと、爆弾の時間表示が止まっている。
 罪は君を許さない、罰も君を許さない。
 ただ、君にはたった一つの友人がいる。
 時だけは、君を永遠に裏切らないのだ。
―――――――――――――――― ――
 漣はこれからの同時集団自殺の原因なんて分からない。
 一人一人の自殺したい理由も分からない。だから、銃と爆弾所持、個々の同時集団自殺と言うワードから、全ての立て篭もり犯人に共通する様に短めの詩に近い物語を書いた。
 冬と物語を司るWinter伯爵は添削をして「責了」と最後に書き記した。
 ライブハウスに二人は走って入る。銃が放たれる音がしたが、Winter伯爵は傘からを開き、強い雪風と光で吹き飛ばす。
「今だ、漣!」
 漣が原稿用紙をばら撒くと、一枚一枚が輝きを増して光り始め、物語は始まる。
 物語の世界を見て読んだ後、犯人はただ時計を漠然と見上げて泣いていた。

 ――――――――――――――――――   
 「此れがライブハウス……。」
 山田太郎こと悪魔は薔薇を巻きらして階段を降りて行く。
「ちょっと!演者さんは裏から入っておくれよ。」
 と、スタッフがあまりの派手さに演者と間違えて声を掛ける。
「それに、まだステージじゃないんだから。薔薇の花弁撒き散らさないでね。後で片付けてよ。」
 と、注意をされたのが、全く意味が分からず、離れた位置から人差し指の長い爪を親指でピンッと弾く。
 スタッフの頭が後ろにかくんとなると眠ってしまった。
「殺さない……戦闘不能まで。完璧でスマートだ。」
 と、悪魔は自分なりに満足して、ドアをこじ開けステージに向かう。
「何だ、このコスプレ野朗?!それともビジュアル系か?ロック系か?」
 と、犯人は銃を構え聞いた。
「……悪魔系だ。」
 そう言うなり尖った蝙蝠の様な羽根を広げて犯人に一瞬にして突っ込んみ、頭を鷲掴みにした。
「おっといけない、昔の職業癖でね。」
 と、脳から手を話す。
「……殺さない……案外、面倒だ。」
悪魔は頭を傾げた。
「ああ、これだっ!」
 悪魔は自分の腕を少し噛み切る。青白く透き通った肌に一筋の鮮血が美しく線を引く。
「飲みたまえ。一滴やる。」
 と、悪魔は腕を見せて犯人に言った。
「……誰がそんな……がっ!」
 悪魔は見えない速さで犯人の顎をガッと持ち上げると、一滴の血を口に落とした。
「おはよう。君は今日から私の部下だ。ここにいろ。暴れるな。銃は貰うからな。……爆弾……そうか。」
 悪魔は爆弾の時計を見て笑った。
「私にもこんな短い時があったならなっ!」
 と、嘆くのか笑っているかも分からない叫びを上げ、時を一瞬に戻し、爆弾は作られる前のバラバラの姿になった。
 ――――――――――――――――――――――――
「銃が厄介だなぁ……。」
 サダノブは白梟になった白雪の案内で走っている。
「やっぱりクロセルだ。守り、攻撃、バランスが良い。」ライブハウスに着くと直ぐにサダノブは横になって、クロセルと分離を試る。
「あれー?アイツ爆睡してる。白雪さん、先輩にクロセルを起こして貰うように言って。」

……黒影ーっ!クロセル爆睡だって。起こして上げてー……
 と、白雪は黒影に声を届ける。
 ……こっちは肉体労働なんだがなっ!まぁ、わかった
 今直ぐ呼んでやる。……
 と、黒影の声は息が上がっていたが、肉体労働嫌いなので喋れるし、大丈夫だろうと白雪は安心する。
 ――――――――――――――――――――――

「おはよう御座います、主。」
 クロセルは寝ぼけて白雪から、微かに溢れる黒影の匂いに白雪を主だと間違って言っている。
「お早う、クロセル。寝惚けていても可愛いのね。私は黒影の妻の白雪よ。黒影のお願い聞いて……立てこもり犯、生きたままか戦闘不能にし、人質に怪我させない。犯人は拳銃、爆弾所持。使わせない事。」
 と、白雪は姿を人に戻して説明する。
「そうでしたか。わかりました。」
 そう言ってステージに氷の剣を持ち走る。拳銃に対しては、体中を丸い水で多い、届かないようにしている。犯人の顔にも水の球体を作り、窒息させようとしている。拳銃を持つ腕にに温度変化させた熱湯で、軽く火傷をさせると、拳銃を奪った。爆弾は、大きめの四角い水に入れ、そのまま氷の剣で切り付ける。
 計算し尽くされた水の抵抗で、静かに爆風すら起こらなかった。
 ――――――――――――――――――
「風柳さん!曾祖父さん、まだですかっ!」
 黒影は時間を見て風柳に連絡する。
「なんせ、亀だからなっ。」
 と、風柳は言った。
「時間経過後、爆発に耐えられるのは僕と曾祖父さんしかいないんです!もう少しなんだっ!」
 それだけ言うと、黒影は通話をきるのだ。
「……僕がいて……人が死ぬなんて事、僕は許さないっ!!」
 黒影は何とか一つクリアして次の現場へ向かおうとした。

 ……今……間違えてはいないか……黒影……。
 お前は神ではないのだぞ……運命を捻じ曲げる権利もない……
 人は必ず死ぬのは必然だ……

 それは神でも鴉でもない、掠れた声だった。……何だったんだ……あの声は……。
 黒影は今は立ち止まっている暇はない……仲間が必死に助けてくれるならばとその声を断ち切ろうとする。

 ……仲間が居なかったら……今、お前は走っていないのか?……じゃあ仲間の為で犯人や被害者の為に走るのは辞めたのか?……哀れだ、哀れすぎて言葉も出ないよ、黒影……。

 その言葉と共に、その声は鎮まった。
 ―――――――――――――――――――― 

 細く白い指先に真っ赤なマニュキュアの指が、僕の手を持ち小さく震えている。
「大丈夫……大丈夫だよ。」
 小さな声僕はブルーローズに言った。
 もう黒影ならとっくに僕が事件に巻き込まれたのには気付いている。良く捕まっていたから大体分かる。
 来ない理由はただ一つ。この事件はデカい。そして信じている。僕自身が大切な人を守る人間だと。
 しかし、銃が厄介だ。あまり、実戦していない。どのくらい飛ぶんだ?速さは?一般人に流れ弾を当てないように慎重に行きたい。
「黒蝶麗獄薬連華(こくちょうれいごくやくれんか)催眠蝶!」
 鸞は小声で蝶を座る自分の影に一匹入れると、影は一斉に蝶型になり犯人へ飛んで行く。
「なっ!何だこれはっ!?」
 犯人は焦って飛び回る蝶を狙ってあちこちを撃ちまくる。
「しまった……刺激してしまった。」
 人質は皆恐怖に震え、頭を下げてテーブルや椅子の下に隠れる。
……流れ弾に当たった人は?……
 慌てて周りを見渡した。当たった人はいなかったようで安堵した。
 何をするにも距離がある。蝶や風ではまた暴れて発砲しかねないっ!
 ……こんな時、黒影だったらどうする?!……
 ……修羅を使えば良いじゃないか。
 何故かそんな声が聞こえた。ブルーローズが僕を見ている。
 僕の姿を……修羅を見せたら、嫌いになってしまわないだろうか……。蝶の足の様に手が6本、その怒りの顔……異形過ぎて、君に嫌われたくない!

「どうしたんですか、鸞さん。思い詰めた顔をして。上手くいきましたよ。……少し暴れたけれど、犯人寝ています。」
 ……犯人が寝ていた。遅れて助けはくるだろうか?
 犯人は体格が良い。15〜20分しか保たない。何故、ブルーローズを眠らせなかったんだっ!急いで出てきたから催眠毒の原型になる蝶はもうない。犯人が眠っている間に、次の一手を!……何かっ、何かっ!

 ……心に自信を……優しさを纏って……

 黒影が出掛け前に、言ってくれた言葉。

「ブルーローズ、聞いて。僕は本当はとても醜い蛾何だ。ずっと綺麗な蝶でいたかったのに。……けど、今はそうも言ってられない。……願うならば、嫌いにならないで欲しかった。黙っていて……ごめん。」
 そう言って、鸞は大きな黒揚羽の型をした羽根を背に表した。6本の腕になり、それは3つの合掌になり、最後に一つの合掌に戻る。その動きはゆっくりと、何かを願う様でもあった。
 やっと普通の手にはなったが、鸞は凄まじい形相で犯人を睨み、剣を掲げていた。
 ……心に自信はもてなくても……優しさはっ!
 犯人が目覚めて起きあがろうとする。修羅を見て、恐怖に言葉すら出ず、顔を轢きつかせた。
「鸞さんっ!殺しちゃ駄目っ!」
 ブルーローズの叫びが鸞に届く。君には届かない、この鬼の形相の下の……僕の涙なんて……。
 鸞は振り上げた剣をガンッと轟音を立てて、ステージごと砕き突き刺した。
 犯人が動けない様に、服をめり込ませたのだ。そして、鸞は爆弾を持って走り会場を後にする。
「待って、待って、鸞さんっ!」
 ……もう、追いかけっこは終わったんじゃないの?!
 鸞は会場前でブルーローズが追いかけているのに気付き飛んだ。行く先も無く、ただ高く高く……。
 修羅の怒りも収まったその顔には優しい涙が溢れていた。
 ……何故……願いとはこんなにも残酷で……温かいのだろう。

 ―――――――――― ―――――――― ――
「曾祖父さんきたぞー!」
 風柳が車から連絡をくれている様だ。
「了解!……あと3箇所……時間がない。僕は近い方から行きます。地図にまだ解除出来ていない場所は表示されています。宜しくお願いします。」
 黒影は曾祖父の到着に少し安堵する。
 ……あとは……僕自身……。
 黒影はライブハウスに入ると目を真っ赤に激らせ、全身に炎を纏い殺気を激らせた。
 黒影には朱雀の剣一本、影、鳳凰陣しかない。不利なのは誰よりも分かっている。何故か誰も使う者もいない、影しか連結できない、
「十方位鳳連斬(じゅっほういかいれんざん)……解陣っ!」
 と、スタミナ消費が激しい鳳凰陣を展開する。
 黒影は自分の前に影をたてて広げ、銃弾を影に飲み込んでいる。
「……お前……の幻視、この鳳凰陣の聖なる領域でも効くか定めさせて貰おう。」
 黒影は爆弾を作り、幻視を作った主犯と対峙している。
「いつ帰ってきたんだ……羽山 怜治(はやま れいじ)。とっくに海外でお気楽に暮らしていると思っていたよ。」
 と、黒影は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、久々の再会に、幻視で何故帰って来たのか短い映画でも鑑賞したまえよ。」
 と、言うので、
「爪!僕、変なところが潔癖症でね、人の爪無理なんだ。物質は付けないでくれ。」
 と、黒影は頼むと、素直に羽山 怜治はそうした。
 黒影は薄い流れるフィルムの様な景色を眺めている。

 出所後の羽山 怜治。
 ……やはり海外か。海外でも爆弾は作っていたのか。
 ……で、結婚。案外普通の仲の良い家族だ。
 ……子供と妻が遊んでいる。
 ……?……納屋が周りごと爆発だと?
 ……納屋で作っていたのか。
 ……で、悲しい妻と子の葬式。
 ……は?同じタイプの爆弾か……。
 ……成る程ねぇ……。

「……爆弾の技術と、妻と子を奪われた復讐だったわけだ。……で?日本に帰ってきたのは、それを奪ったのが日本人だから。さっき爆弾見たよ……現役よりお粗末な作りだ。
 復讐する犯人に使うなら、そのくらいで十分。狼煙にしては変だと思ったんだ。僕は何でかなぁ?これを解いて伝える為のキャストだろうか?」
 と、黒影は理解して聞いた。
「流石黒影だな。アイツらにはもっと長い幻覚を見せた。黒影だってしんどいだろう?あんな軽い能力でも、長期にわたれば死にたくもなる。そこに集団自殺の話を持ち掛けた。皆喜んで受けてくれたさ。俺が強要するでもなくな。毎日夢で死ぬのと同じ……。現実でもぼんやり幻視が襲う。それだけなのに人間は脆い。爆弾の前に散った二人も、また脆い。」
 と、羽山 怜治は儚げに言うのだ。
「なら、何故止めなかった。辞めれば二人は生きた。こんな復讐劇もしなくて済んだ。違うか?ただのお前のミスで、お前の後悔だ。散々爆弾を作ったお前なら分かるだろ?……簡単に死ぬから買う奴がいるって事ぐらい。」
 と、黒影は怒鳴るでもなく言った。
「それしか無かった……俺には。他に学がある訳でもない。知っているのは爆弾の作り方だけ。職業なんだよ。何ら他の誰とも変わらない。生きて食う為に作っていただけだ。」
 と、羽山 怜治は悔しそうに言うのだ。
「お前……ただ、普通に生きたかっただけなのか?」
 黒影は何故か怪訝そうな顔をして聞いた。
「ああ、そうだ。」
 黒影はその羽山 怜治の言葉を……聞きたくはなかった。
「……何を今更っ!こんな大それた復讐なんて誰も考えやしない!お前が爆弾魔で幻視の能力が偶然あったから考えたんじゃないかっ!結局、他の武器も方法もあったのに、今ある物以外に視野を向けなかった、お前が悪いんじゃないかっ!誰かの所為に置換するなっ!僕が全員逮捕してそれで納得か?僕は予言者でも何でもないが、お前は必ずそれでも納得出来ないし、一生後悔するんだっ!」
 黒影は怒り混じりにそう言ったのだが、羽山 怜治は確かにこう言ったのだ。
「一生後悔する……一生納得出来ない。……そんな幸せな事は無い。だって、人はいつか記憶が薄れるのだよ。だから、例えどんな理由でも二人を忘れずにいられるのなら、俺は幸せなんだ。幸せな記憶より、悲しく辛い記憶の方が残るらしい。
 ……だからさ、黒影も道連れに成ってくれるよね?」
 と、爆弾の時間を羽山 怜治は早めた。
 ……サダノブ!まだかっ!
 黒影は鳳凰と朱雀の炎の翼を背に纏う。
 爆弾を止められなくても、運が良ければ……爆風でクッションになるかも知れない。翼が折れても生きていればなんとかなると、これこそ最後の無駄な足掻きだ。
「朱雀魔封天楼壁(すざくまふうてんろうへき)現斬(げんざん)!」
 朱雀の秘経の略経を唱え四方を強い炎を立ち上らせ壁にした。そもそも対魔浄化用だが、今は何でも良い、爆弾を避けれさえすれば。
 恐らく羽山 怜治は此処に一番破壊力のある、本気で作った爆弾を置いているに違いない。
「白雪っ!サダノブは?鸞は?」
 急に黒影は三人が心配になる。自分が死ぬかもしれないと言う危機感から、安堵したいのか……。
 ……曾祖父さんは爆弾から「逆風の盾」で一般人を守ってる。
 ……サダノブは……丁度こっちは何とかなったわ!
 ……鸞が分からないのよ。まだライブハウスかしら?!
 黒影!鸞が爆発なんて、私耐えられないわっ!
「分かっている!僕だって、鸞は大事なんだっ!サダノブ、クロセルを直ぐ分離しろ!僕はいいっ!クロセルに鸞を捜索、救助命令を出す!頭ぶつけるなよ……至急だっ!」
 ――――――――――――――――  
 その「至急」と言う言葉にクロセルが飛び起きたので、サダノブはやっぱり頭を打ってしまう。

「……サダノブ……すまんな。……呼び方が雑で。」
 黒影は自ら、炎を自分にも有効化して鳳凰陣や朱雀陣に突っ込んで行く。炎を纏うのも止め、何故か火傷を負いながらも、それを繰り返した。
 そして、火傷のひりつく痛み、羽根の焦げた匂い……力尽き、鳳凰陣に倒れ込んだ。
 その倒れ込んだ真横を守るように、野犬が凄まじい冷気を放ち威嚇している。
 黒影の目を見て、野犬はゆったり歩き出すと羽山 怜治に向かって、あの大量の氷の矢を放とうとしている。
「ケルベロス……待て。それでは死ぬ。……サダノブで十分だ。」
 そう黒影は薄い声で言って微笑む。
「マジ、なにやってんすかっ!この呼び出し方駄目って言いましたよね?!まさか、時間が過ぎても何とかなるって此れじゃあ……!……何だよ鳳凰陣まで出しっぱなしで。……俺に何があっても、回復できるように?!だったら、初めから一緒に行動すりゃあよかったでしょう!」
 サダノブはこの無謀過ぎる作戦が、元から黒影の頭にあった事を知り、怒っている。
「最初の計算で……どうやっても……移動時間……足りなかった。すまん。」
 そう言うなり、黒影は安心してそのまま目を閉じて休んだ。
「全く……この人はぁ……。」

「しゃーない、続きと行くかっ!」
 サダノブは爆弾に向かって拳を床に叩きつけ、一列に巨大な氷柱を作り上げ、床に屈むとブレイクダンスの様に床擦れ擦れを回った。冷気がバリバリと床を凍らせ、徐々にその氷の漣は高さを増して、羽山 怜治の足を捉えた。
 羽山 怜治は逃げられない事を知り、爪を噛み始める。
「あっ!その爪!……お前ちゃんと爪切りで切ろよ。しかも色、ヤベェし。マジ先輩ドン引きしてたんだからなっ!
 それなぁ、何かのストレスで噛むんだぜ?今は捕まったイライラだろうけどさぁー。不衛生なの?分かる?」
 と、サダノブは羽山 怜治に説教をし出した時だ。
 サダノブの脳裏にクロセルの声が聞こえた。
 ――――――――――――――――――――――  
 ……サダノブ……鸞がっ!
 クロセルがサダノブを呼ぶなんて珍しい。
「先輩っ!俺……鸞見てきます……!」
 サダノブが血相を掻いて走って行ったので、緊急事態だと黒影にも分かった。
「白雪!鸞を探してっ!」
 黒影は痛みを押してそう叫び白雪に伝えると、ぼろぼろの羽根と焼かれた傷もまだヒリつく体を無視して、何と走り出すではないか。
 ……止まったら痛みにやられる。だったら今は走るしかない!真っ黒な影が道先に揺れ落ちる。
 ……黒揚羽。
 黒影は上を見上げた。
 ……鸞が……爆弾を持ったまま天空に静止している。
 あの日の様に失う事を恐れて止まっていたくはない。
 僕は……僕は……
「らぁああ――――んっ!」
 ……これ以上鸞を見て見ぬフリをするなら、そんな自分を誰よりも許せなくなる。
 黒影は、折れて焼けた羽根と、全身に火を纏って、大地を蹴り上げ精一杯飛んだ。
 そして、鸞の目の前を擦り、その手から爆弾だけ掠め取った瞬間に言った。
「鸞……生きろ……。」
 優しくもしっかりとそう言い残し、そのまま天高く飛び、朱雀の剣を取った。
「駄目だ!黒影ーーっ!」
 鸞は次に何が起こるか分かってしまった。
 黒影は一瞬下を見やり、鸞を見て微笑む。
そして、爆弾を軽く投げ、朱雀の剣で切り付け、近距離で爆発させてしまった。
 まるでバードストライクに掛かった鳥の様に、回転して放り出された。焼けた姿はとても鳳凰や朱雀ではなく、羽根は千切れ巻き込まれた、死に掛けの鳥にも見えた。
 次第に落ちて来た黒影を、サッと真っ黒な何かが攫った。
 クロセルだった。
 鸞はクロセルが舞い降りた場所に、羽根を下ろす。
「父さん!……父さんっ!……僕馬鹿だから……、修羅……見られたくなくて……っ!でも父さんがこんなになるんだったら、どうでも良かったのにっ!」
 と、鸞は泣きながら黒影に言った。
「……鸞。……僕にはあの手の合掌が……初めから、慈悲に見えていたよ……。」
 と、黒影は遠い空を眺めた。
「鸞さん!……黒影さんっ!」
 ブルーローズが走り寄って、二人の前に慌てて滑りこみ座る。
「鸞さん!私、全然怖くないです。かっこよかったし、優しかったです。」
 と、ブルーローズは泣きながら言う。
 黒影は小さく微笑み……
「良かったな……。」
 と、咽せりながら言った。
 白雪が白梟のまま黒影に寄り添い、黒影の顔を覗き込んでいる。

「せんぱーいっ!……サーダーイーツ!お届けでぇーす!」
 サダノブが車に戻って霊水を持って来てくれたらしい。
 回復はなかなかしなかったし、正直体中痛かった。
 なのに、不幸だなんてちっとも思えなかった。
 こんなに愛されている……
 こんなに愛する事が出来る……
 僕は……幸せ者だ。
――――――――――――――――――

 帰って直ぐ白いベンチにだらんと座った。
 体中痛むのに、紅孔雀と白珊瑚の葉牡丹を見たくて、家には直ぐに入らなかった。
 ……イルミネーション……。
 君の小さな夢さえ叶えられず、また心配掛ける程ボロボロになって
 ……何、やってんだろう。
 何と闘っているんだか。
 呆然とそんな事を考えていた。
「……はぁ……馬鹿は僕だ……。」
 不意に空を見上げて、そう溜め息交じりに呟いていた。
 帽子が飛んで、ころころと転がり、見慣れた靴の足元で止まる。
「ぅふふ、帽子さんだけ遊びにきたわ……。」
 と、君は微笑んで拾ってくれる。
「君の事が大好きらしい。」
 僕はそう言って笑い、帽子を受け取ると深々と被る。
 不甲斐ない僕を隠してしまいたくて。
「羽根……大丈夫?」
 ……やっぱり……心配掛けてさ。
「暫くは無理そうだけど……また治るよ……。」
 と、あの後羽根を仕舞う時に、背中が痛くて……骨が響いて……この翼がとっくに自分の一部になっていたのだと
 生きている事への感謝と同時に怖くもなった。
「……そう……可哀想ね……。」
「可哀想?哀れって言いたいの?」
「違うわ。貴方も貴方の羽根も痛そう。」
「……そうでもない。」
 ……痛むのは……心ばっかりだ。
 ……?!
 一匹の季節外れの蝶が手に止まる。
 羽根を開く度に、それは幻想的な青い光を放ち光った。
 ……鸞のやつ……。
 あの二階の窓から、無数に舞い降りてくるそれを見て白雪は無垢な瞳の中に、その蝶の輝きを映す。
「……粋な真似をする。……鸞は、君に似て優しい子になってくれたな。」
 僕はそう言って笑った。
「そうね。皆、私の夢を叶えてくれる。……あれは、鸞にお願いしたかったのよ。」
 と、白雪はクスクス笑う。
「まさか、それでイルミネーションの特番?」
 と、驚いて僕は聞いた。
「だって貴方、忙しいじゃない。安心して、元から行けるなんて思ってないわ。」
 と、白雪は言うのだ。
「……さっきは無垢な人だと思ったけれど、やっぱり小悪魔だった。撤回しよー。」
 と、僕が言うと、
「撤回しなくていいんです!」
 と、君は怒ったフリで笑う。
 ……純真無垢って何でしょうね。

 邪心なく純粋であること。 自然のまま、うそ偽りや汚れを知らない。人をだましたり疑ったりすることがない。
色々意味はあるけれど……

僕ならこれを選ぶよ。
 「純真」も「無垢」も、汚れのひとつもない清らかなさま。
 君は悪戯好きで、たまに小悪魔で優しくて邪心すら持つ。
 それでも変わらないのは、君の喜ぶその瞳はいつだって澄んで清らかだ。なんの混じり気もなく素直過ぎる。

 そうか……だから君を笑顔に出来なかった日は
 こんなに落ち込んでしまうのか……。
 気が付けば、心の痛みなど最初から無かったみたいに、どこ吹く風と攫われてしまった。

「君といられて……良かった。」


――season4-5は取り敢えず完――
 で、す、が未だ未だ黒影は先を走っておりますよ^ ^で、も…慌てず、休憩を摂り乍らお読み下さいね🎩🌹

🔸次の↓「黒影紳士kk」season4-6幕 第一章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。