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season7-1 黒影紳士 〜「白心願華」〜逃亡せし君🎩第五章 息吹の答

9 息吹の答え

 ……渇望する……「生きたい」と言う願い。
 ひしひしと伝わる、それが困難な嘆き。
 僕等はそんな事で、戦ってしまうんだ。
 始めはさ……願いだった事も忘れて。

 平等であり、平和である。
 簡単な言葉に聞こえるかも知れない。
 其れはこんな犯人の様な男からしたら、何よりも藁をも掴む程、欲しいのさ。
 ……結局……人間ってのは……失った物を欲しがる。

犯人「……黒影――っ!!」
黒影「この世界から手を引けっ!」

 一際大きな衝突が起き、両者後方に投げ出された。
 もう、起き上がるのもやっとだ。
 互いの武器で身体を支えて、肩で息をし殺気だけが変わらずに二人の間に静かに揺れている。
「……何故と、俺は聞いた。こんな所で諦める訳には行かないんだ!我々の世界の未来の為なんだ!何故、理解しようとしない!?」
 犯人は互いにもう動けない事を知り、黒影に見逃す様そう理解を求めた。
「……諦めない……。その程度でか?……その程度の覚悟でかっ!!
 他人や世界の為に生きてるんじゃない!
自分の為に自分が生きているんだ!
 そんな事も分からないから、無駄に生きる事を盾にして闘うのだ!
僕等は……僕等は……そんなものの為に存在し、生きている訳では無いっ!
 この小さな生命力、願いの前に何が見える?
 お前が探す未来は、本当にこんな闘いを望んだのか?!
ゴルゴタの死骸で築かれた丘の上に未来を置くだと?!
巫山戯るなっ!
そんな物の上の未来を、本当に心から喜べると思っているのか?
人は何も無くても、如何しようも無く泣きたくなる時がある。無関心でいるようで、感じているんだ。
僕等が立ち生きる場所は多くの死の上にあると。
ならば、何が出来る?

考えろ!思考を動かせ!

我々が未来に出来るのは、少しでもその悲しみを残さない事ではないのか?!
君の世界で出来ないならば、何故手を伸ばさない!
伸ばせよっ!
折角違う世界が出逢えたんだ。

みくびるなよ…
この…僕がいるこの世界をっ!!」
 黒影は最後の力を振り絞る様にそう言い放つと、必死に犯人に片手を伸ばした。
 犯人は薄れ行く意識の中で、確かにその手が開かれた時に見たそうだ。
 ……白い小さな生命力。

 黒影は思った。
 何でこんな所に倒れなきゃいけないんだ。
 意地なんか張らなきゃ良かった。
 ……けど、案外この世界に包まれているようで、悪くない……。

 ――――――――――――
「痛っ……。」
 身体中の痛みを少しずつ感じ、黒影は再び瞼を開く。
 視線の先の己の腕の先をゆっくり辿って見る。
 其処には重なった犯人の掌があった。
 二つの世界に必死に生きようとした者の間に花は静かに、潰される事なく息づいていた。

 この時、黒影は心に誓った。
 正義崩壊域を再生させようと。

 ――あと一歩……ずれていた筈の時が……動き始める。

 ――――――――――
 数日後。
 空港に、あの軽やかな靴音が響き渡る。
 足早に……軈て、カツカツと走り出す。
 漆黒の美しい大きなヒラのロングコートが波の様に横一線に靡いた。

「……夏輝ちゃん!」

「あら、黒影の旦那、珍しく遅いからまた仕事でも入ったかと思ったよ。」
 夏輝と一緒に歩いていた涼子が、黒影の靴音に気付き振り向くと言った。
「すまない。……正義崩壊域の大気汚染の一件、調べていて。今朝方寝たんだよ。」
 黒影は後ろ髪を軽く掻いて答える。
「先輩、また過労で倒れますよ。」
 サダノブが穂の隣で言った。
 穂は手にお土産らしき縫いぐるみがパンパンに入った袋と、夏輝の荷物らしい可愛らしいリュックを持っている。
「……黒影さん?」
 夏輝は不安そうに、黒影の姿に気付くなり言った。黒影はふっと優しく微笑み、少し屈んで夏輝の自然に合わせるとこう言った。
「……大丈夫だよ。安心して良い。……僕も昔、言ったんだ。今の夏輝ちゃんより大きくなってからだけど。能力を制御出来るまではある程度監視はつくが、沢山の事を教えて貰える。……それと……。」
 黒影は其処で伝え忘れは無いか少し考えた。
「……其れと?」
 夏輝は次の言葉を待って首を傾げる。黒影はその可愛らしい仕草に小さく笑うと、
「……僕のお兄さんがね、どんな能力を持っても、普通でありなさいって。能力が無い生活を忘れない様に。……迷った時、僕の基準は何時も其れだ。
 ……後は、お母様にお手紙出して上げてね。……気を付けて。」
 と、黒影は握手しようと、夏輝に手を差し出した。
 FBI特殊能力捜査官の監視下、これから暫く生活する夏輝に。
「普通……。今まで通り?」
 夏輝は黒影に聞いた。
「ああ、今まで通りが基準さ。」
 黒影は和かにそう答える。
「あの……お手紙、鸞お兄ちゃんにも出していい?」
 と、夏輝から思いも寄らない言葉が出て、黒影はきょとんとする。
「あらら、鸞さんも隅におけないですね。ブルーローズさんも大変だわ。」
 と、其れを聞いた穂が言って笑う。
「だあれ?ブルーローズって!」
 夏輝が無機になるものだから、その場にいた全員がどっと笑ってしまう。
「……あぁ、きっと鸞も喜ぶに違いない。」
 黒影は帽子の手前を下げて、笑いを抑えてそう答える。

 一人……何も分からない道へ旅立つ夏輝。
 見送りに来た皆に、大きく手を振って飛行機の搭乗口へと無邪気に走って行った。
 妹の璃との別れも振り切る様に……。きっとこれから、受け入れられる時が訪れたら……少しずつ、今は未だ憎い己を許して行くのだろう。
 璃は残念な事に亡くなった。
 夏輝は生きて行かねばならない。生きるとは……時にそんな試練を超え、皮肉さにも意味を与える。
 ――――――――――

「あれ?黒影……あれ?夏輝ちゃんは?」
 夏輝見送って直ぐ、白雪が走って来た。
「あっ、ちょっと危ないよ。夏輝ちゃんなら今、出発した。」
 黒影は、沢山の飲み物を持って走っていた白雪から、慌てて飲み物を手に取り言う。
「あら……そうなの?見送ろうと思ったのに……残念。」
 と、白雪は言った。
「そんな残念がる必要は無いよ。何れまた日本で逢える。」
 黒影はがっかりする白雪にそう言って、髪を撫でる。
「そうね……何処に行っても世界一の私の探偵さんが探し出してくれるわ♪」
 と、白雪はにっこりと笑う。

 ……だって、僕等には僕等の道があるだろう?

「ほら、イチャこらしてないで、さっさと行きましょうよ、先輩!」
 サダノブが黒影を急かす。
「ああ……そうはしたいが……。なぁ、涼子さん?穂さん?……で、僕等は何処に連れて行かれるんだい?」
 と、黒影は二人に聞いた。
「そ、れ、はぁ〜内緒でーす!たすかーるプレゼンツ、どどーんと秋の紅葉狩りミステリーツアー!ですから。」
 穂がそう言ってにこっと笑うのだ。
「ミステリーツアー?!」
 黒影は何だか嫌な予感がして、思わず聞き返した。
「負けは負けで認めるけれど、ただ負けるんじゃあ癪だからねぇ。さぁさ、偶には振り回させて頂きますよ。」
 と、涼子はバッと扇子を広げて口に添えると、ニヤリと笑うのであった。

 ――――――――
 燃えゆ晩秋……酔いしれど
 静かな冬に留める哉

「はっ……はっ……くしゅん!」

 真っ赤な紅葉に紺青の空
 白き華と月想う
 一人の紳士が黒き姿を広げ飲む
 琥珀を閉じ込め硝子で遊び 残り香添えて夢の中

黒影「何杯飲ませるんだ?……風邪引いちゃうよっ!」
涼子「何言ってんだい、情けないねぇ。黒影の旦那の好きなウィスキーの飲み比べじゃないか。なかなか酔わないんだからこの色男は。」
風柳「ぁはは。黒影は強いからなぁ。何れ、俺とも勝負してみるか?……然し、景色は良いが、少しばかり寒いなぁ。」
サダノブ「先輩!旅館の火鉢借りて来たっすよ!」
黒影「勝負なんかしません!……サダノブ、お前は何を勝手に借りているんだ、返して来い!今だ、今直ぐにだっ!」
白雪「黒影〜……シャンパンいっぱい頂いちゃった♪」
黒影「へっ?……誰だよ、駄目だって白雪に飲ませちゃあ……。ちょっと何してるの?!(どんがらがっしゃん)←読者様のご想像にお任せします。」
穂「サダノブさんはその大人の……大人の女の方が……。」
サダノブ「……穂さん?目が座ってるって!先輩助けてぇ〜!」

黒影「来んなよ!何で何時もこうなんだっ!」(逃亡)

サダノブ「あっ、先輩っ!」
穂「聞いて下さいよぉ、黒影さん!」
涼子「黒影の旦那〜!つれないじゃないかい。」
白雪「気を付けてね〜♪」
風柳「お疲れさん……だな。」

「……はぁ……はぁ……やっと逃げ出せた。あんな酔いどれ共といたら身が保たない……。」
 黒影は息をきらして、月下の池の前に佇む。
 静かな漣……月が大きな鏡の様に水面に映る。
 コートが時折り、仄か冷え始めた風に舞った。
 真っ赤な葉が黒を彩っては横切り過ぎて行く。

「……さあ……約束……君は覚えているかい?」
 黒影は突然、此方を向いて言った。
 此方?何処?……ほら、読んでいる君に。

 手の中に残った華は、花弁では無く
 一輪の白き純粋無垢なこの世界への愛でした
 心迷わず 一筋の光見て刺(挿)しませう
 花道にて、一本で花刺す事をこう云いまする

 ……花一輪……

 何とも波一つ立つ事無く
 その水面に白を刺すのです

 其れは総ての頁を白に帰す
 不思議な技法で作られる

 終わりにて始まりが幕開ける
 其れが……

「白一輪」

 ……ダグマリアに御座います。

 ――黒影紳士season7-1幕




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(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。