黒影紳士 season6-2幕 「暑中の残花」〜蒼氷斬刺〜🎩第六章 11 線香
11 線香
「先輩、そー言う事は早く言って下さいよっ!」
サダノブは砕く方も氷だと知ると、同じ氷使いには合った事が無いからか、妙に張り切って腕を振り上げた。
「大人しく……恋愛成就しろってぇーの!!……此れで、どーよ――っ!!」
鳳凰陣中央にサダノブは勢い良く拳を叩き込むと、貴久 東生の氷の棺にバリバリと音を立てて、逆さ氷柱が連なり、下から突き上げる様に突き刺さる。
「…………これは……成就しないんじゃないか?」
結果に思わず黒影がそうサダノブに言った。
棺が氷柱と氷柱の間に移動しただけで、ヒビ一つ入っていない。
「だったら……こっちは如何よぉお――っ!!」
今度は氷の弓の様に先が尖った氷を鳳凰陣に放ち、十方位鳳連斬全体的から放ち、無数の氷の弓を生み一斉に棺目掛けて向かった。
高音を立てながら、光る氷の弓が棺に突き刺さって行く。
「……ふむ……。やはり彼の心は強情な様だ。硝子は何故脆いのか、本当の真実は逆だ。より固いからこそ、割れる。柔らかで有れば有る程、割れないんだ。時間が掛かり過ぎる。僕も加勢しよう。……悪いが、回復は出来なくなるぞ。」
黒影は、棺に突き刺さったものの、ヒビが僅かにしか入らなかった結果を見て呆れて言った。
「……蒼炎(そうえん)……十方位鳳連斬……解陣!」
黒影は蒼い炎の円陣を展開する。
影に特化した冷酷なる地獄の炎が揺らいでいた。
その炎が黒影の瞳もを、深い深海の青と誘って行く。
「……気持ちが足りないんだよ、気持ちが。」
と、言い乍ら……先程の攻撃でどれ程の威力で割れるかを見ていた黒影はそんな事を言った。
サダノブ「気持ちねぇ……。」
黒影「そう気持ちの、問題だ。」
そう互いに言うと、黒影はニヒルな笑みを浮かべ、サダノブはニカッと犬歯を見せ微笑む。
黒影「……幻影斬刺(げんえいざんし)……発動っ!」
サダノブ「そんじゃ、気持ちを込めてぇ〜……とっとと、成就しゃがれ――っ!!」
今度は二人で鳳凰陣から全体的に技を流し込む。
黒影の自由自在の影の中でも、最も破壊力の互い漆黒の地獄の尖った大針、幻影斬刺がザクザクザクッとその鋭利さで細やかにサダノブの洗い割り方を、補助している。
蒼炎から放つ事により、スピードと威力を倍増した、ナイフの様だ。
漆黒に降り注ぐ雨、光を乱反射し薄い水色に澄んだ雨……まるで違うから其れが良いと、黒影は良く言ったものだ。
――――――――――――
「救助成功。……一件落着だな。……封陣。(ふうじん※全ての円陣を閉じる事)。」
黒影は帽子の鍔を軽く持ち下げ、桐谷 清佳が貴久 東生が砕けた氷塗れで咽せる姿に走り出すのを、僅か帽子から見える下から確認すると微笑む。
「恋愛成就出来たんですかねぇ?」
サダノブは、その貴久 東生の姿に……思わずこの先の二人を心配したが、
「僕が推測するに……真逆は合うと言うから、似合うと思う」
と、黒影は自信たっぷりに、黒影らしく……「似合うか似合わないか」で、言った。
「かなり気持ち込めたから……きっとそうですね。」
サダノブは、納得してそう言いやっと安堵し笑った。
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「ほらっ!パンが焼き上がるよっ!」
と、黒影は慌ててパン教室に戻り、皆を急かす。
「来たっ!……この音だよ、この音っ!」
と、オーブンの前で和かな笑顔で、小さなパチッ……パチッと言う、出来上がりの音に耳を傾けている。
「でも……婚約破棄しちゃったら、依頼料誰が払ってくれるの?」
白雪があっ……と、気付いて言う。
「ん〜……。そうだねぇ……今回は調査費用もそんなに掛からなかったし、犯人は居なかった。だから、幸せな二人には少しサービスするよ。……それにねぇ、僕は貴久 東生の絵を買い取ろうと思うのだよ。」
と、黒影がこんがり良い香りに焼き上がったパンを、オーブンから出して言った。
「あら、そんなに気に入ったの?何処に飾ろうかしらん?」
白雪は既にセキュリティだけでも大掛かりな事務所のピカソの青の時代を思い出して、困っている。
「ぁはは……心配要らないよ。僕なら10倍の値段で売り付けられる。……なんたって画廊の子だからねぇ。……一枚は大切に取って置こう。花火の絵は、夏の思い出だ。」
と、黒影はそう言って無邪気に微笑みザクザクッとパンを焼きたてのパンを長いギザギザのあるパン切り包丁で、慣れた手付きで切って行く。
「……夏の思い出……良いわね。リビングに夏は飾って置きたいゎ。そう言えば黒影だけじゃなくて、風柳さんもそうだったわねぇ?」
と、白雪は勝手にオリーブオイルにつけて先に食べ始める風柳を注意する様に、見て言う。
「……ああ、贋作だがなぁ。まぁ、親がちゃっかりなら……黒影もちゃっかりだ。……美味いな、此れ……。」
風柳は、苦笑いをして言うと、少し驚いた表情でパンを見て止まる。
「でしょう?やっぱり焼きたてが良いですよ。」
と、黒影は笑う。
「それより……後、蓋取って如何のとか……あの、作業飛ばしてません?読者様怒っちゃいますよ?」
サダノブは気付き聞いた。
「其れなら後の工程をちゃんと説明しただろう?30分では往復で掛かり何も出来ないからな。友永先生に、協力してもらって、オーブンの蓋の開け閉めだけお願いしたんだ。だから少し話し混んでいたじゃないか。」
黒影は何を今更と言う顔で話す。
サダノブ「あぁ……。」
風柳「成る程なぁ。」
と、二人一斉に言い納得するのだ。
黒影がはて?……と、思い乍ら、パンを齧り幸せそうである。
――――――――――――――
夜になると、四人は旅館の外へ出る。
打ち上げ花火の音がしたからだ。
「あれ……。」
真っ暗な中、打ち上げ花火と違う小さな灯りが、二つ揺ら揺らと仲睦まじく見えた。
「あ……黒影さん。今日は本当に有難う御座いました。」
と、明るい声で桐谷 清佳が黒影に言った。
貴久 東生は、ぺこりとお辞儀をするので、黒影は帽子で軽い会釈をする。
「……本当に、無口何だから。」
そう貴久 東生を見て桐谷 清佳は言うのだが、その顔は優しい笑顔である。
「折角のお二人の打ち上げ花火、見ないのですか?」
黒影は、不思議に思って聞いた。
「……其方じゃ無いんです、想い出は。……去年、雨が降って。打ち上げ花火は翌日に延期。残念にしていたら、この旅館の軒に、黙って線香花火を座って見ている貴久さんを見掛けたんです。……そうしたら、揺ら揺ら〜っと……黙って線香花火を少し揺らして、私に見せてくれて。……私が近付いたら無言でスッて、一本出してくれたんですよ。本当の想い出は其方。」
と、桐谷 清佳は答えると、少し照れた様に歯に噛む。
「……其れは流石に気付きませんでしたよ。何方も違いなく、美しい花火だ。……大好物の「真実」まで、一つ頂いた。」
黒影はそう言って、貴久 東生を見て……無口は無口だけれど、中々やるもんだとやっぱり少し不思議な人物だと思う。
軽く別れを言った桐谷 清佳は貴久 東生の元へ戻って行く。
小さな灯りを二人で静かに見詰め、時折り桐谷 清佳が貴久 東生に、顔を上げ微笑んで見ているのだが、貴久 東生は妙に熱心に集中して、ただただ手元の花火を見ているのだ。
「……何だ、そうか。」
黒影は其れを見て思わずそう言って、微笑まずにはいられなかった。
去年もきっと、こんな感じだったに違いない。
元々、桐谷 清佳は少し貴久 東生を気に掛けていた。
けれど、無口で気弱過ぎる貴久 東生は、其れに気付いていても、何も言えない。
……今も……、微笑み掛けられていても、顔を合わせるのも気恥ずかしいって訳だ。
すれ違っているようで、とっくに寄り添っていた。
大きな音の下に、小さな静寂。
余りにも静かな二人は、言葉も無く同じ光をこれからも見て行くのだろう。
ぽとり……一つ、線香花火の玉が落ちまして
すると二人が同時にもう一つ線香は如何でせうと
出すのです
一つ転がり、繋ぎゆく
譲りあって繋ぎゆく
無口と瞳が夏の花
お後は宜しかった哉……ふふっ……。
漆黒の夏に未だ未だ染まりたまえ。
夏の謎大連鎖、君は溶けたかな?
僕からのヒントは……
原点回帰、である。
――取り敢えずseason6-2は此処で終わり―ー
で、す、が〜果てしなぁ〜く未だ未だ続きます🎩🌹
🔸次の↓「黒影紳士」season6-3 黒影紳士 〜「月光即興曲」〜太陽の黒曜石 第一章へ↓(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。