「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様3〜大人の壁、突破編〜🎩第五章 無かったもの
第五章 無かったもの
「そもそも、現代では交換殺人なんて言葉を聞く様になったけれど、この時代に誰が実行しようなんて考えるだろう。
勿論、ここまでの大それた交換殺人を、咄嗟に思いつくのだから、本星にしては大した奴だよ。
……教会には悩み多き人々が集まる。懺悔室に。……その悩み多き仔羊達から、ある一定の悩みだけ分類していた。」
と、黒影は珈琲を飲み言うと、白雪が何時もの様に隣に座ったのを見て微笑んだ。
「……あら、酷い話ね。……どんな悩み?」
と、白雪はロイヤルミルクティーをカップ&ソーサーで持ち上げ聞いた。
「白雪の「懺悔」の方が可愛く思えてくるよ。妻に逃げられた夫達や親族。しかも娼婦になられたら困るようなね。そりゃあ捕まらないと豪語しただけはある。全く無関係の、交換殺人ならば容疑者にもならない。」
と、黒影は話した。
「ん?えっとぉー。結局、誰が誰を殺したんだ?」
と、サダノブは理解出来ずに頭を掻きながら聞く。
「夜毎酔っ払い騒ぎをワザと起こし、留置所を宿代わりにしていたエルザと、あの悪趣味な警官がやっていた事を思うと、幾ら相棒とは言え見て見ぬフリをしても、恨むだろうな。エルザを?……それとも警官を?……答えは二人の子を捨てたも同然のエルザに怒りが向いた。何度も娼婦に戻る母親を許せなかったんだろうな。
そして関係ない様に、認知されていない「露天商」に目撃を有耶無耶にさせ、実行したのは悪趣味な警官の方だ。」
と、黒影は断定する。
「弟だと家族関係でいつかバレるから……か。」
と、風柳が想像しながら言った。
更に、
「じゃあ、シャレルの方が弟だな。」
と、続ける。
「そう、時間は元から決めていた。「ダブルイベント」だなんて馬鹿馬鹿しい。交換殺人を成し遂げた証拠として、ルナは耳を切る様に悪趣味な警官に言ったのだよ。あいつはショールを持ち出され、エルザに脅されていたんた。
弟には腎臓を切り自警団に送らせた。
けれど、この時二人とルナで、手口と口裏を合わせた為に、
犯人はミスを犯した。
シャレル殺害の時も耳を間違えて切ってしまったんだ。
しかし、腎臓が必要で、耳が入らないと気付いた弟は、今まで切り裂きジャックがやらなかった、衣服にその耳の一部を入れてしまった。
ターゲットは子供がいた、若しくは結婚経験のある娼婦。……これだ。」
黒影はそう言うと、チェス台に向かい一手進める。
「風柳さん……。」
黒影はチェスを読みながら、呼んだ。
「ん?どうした、黒影。」
風柳はあまり元気の無い黒影に、ふと気付く。
「……僕は、あの兄弟に、真実を伝えなければ。」
黒影はそう言って、目を細めた。
……真実は……時に残酷だ。
……だが、真実に光を見出すのが我々、探偵の仕事。
だから例えどんな真実からも、目を逸らす事だけは、許されない……。
黒影が常日頃、心に持っている言葉。
サダノブを立派な探偵にする時も、口酸っぱく言って来た言葉。
この街の霧の中……誰にも気付かれもしない女の涙が、今日も見える。
その、赤い真実を見透かす瞳の中に……。
「ああ、明日会える様に聞いてみよう。」
「お願いします。」
風柳が出ると、黒影は椅子に座り珈琲を飲み干した。
「しんどいなら、俺も行きますよ。」
と、サダノブが言って微笑んだ。
「中には入らないけれど、私もついて行くわ。帰りはデートでしょう?」
と、白雪は黒影に飛びついて笑う。
黒影もつい、二人につられて笑っていた。
「実に……頼もしいな。」
と、言いながら。
――――――――――――――――――――――
翌日の夕方に許可がやっと降りて、黒影は兄弟と面談をする手筈となった。
「今日は。先日はどうも。」
黒影は帽子を置いて弟を先ず見た。
「文句でも言いにきたのか?」
と、弟は言うので黒影は違うと手で軽くサインを送ると、
「何も真実を知らなくてはいけないのは、探偵だけでは無い。君にも真実を知るべき義務があると思った。
だから来たんだよ。
君の母親、エルザさんはずっと娼婦をしていた訳ではない。安い仕事でも二つ掛けもって、足りない時に娼婦をしていた。
何故、自分がその日暮らしていければ十分なのに、娼婦になったか分かりますか?」
と、黒影は弟に聞く。
「そんなの、ただの尻軽か酒だろう?」
と、弟は答えた。
「それは違う。違うんだよ。エルザは共同下宿で話していたらしい。認知していない子がいるけれど、旦那は死んだし、どうする事も出来ない。だけど、シャレルが、同棲している彼が働いているけれど、家賃にもならないらしい。その家賃を払ったら、君の兄を……認知してくれるって約束だったらしい。
きっと、苦労しているに違いない。だから、私の苦労なんて大した事は無い……それがエルザの口癖だった。
これは弟さんへの話しだ。
君には……違う話がある。」
黒影は言葉を詰まらせた。
「なっ、何だよ。今更、そんな作り話信じやしない。だったらもっと早く言えば良かっただけじゃないか。
馬鹿なんだよ……あの女(ヒト)は……。」
兄の方は少し動揺したが、気にも留めない態度だ。
黒影はじっと台に何気なく置いた拳に、力を込めて目を細めた。
サダノブがその時、黒影の思考を読み取り、ハッとした。
……何だ……この底知れぬ悲しみは……。
サダノブは今にも涙で溢れそうな黒影の思考に、何もしてやれず、肩に軽く手を置いた。
「知っていたんだ。君が警察官になりたがって、たまにその費用をくすねていた事を。
酒場で警官が盗みだなんて、本当に成れるのかと笑っていたらしいよ。そして、君が警官になった日は、随分と機嫌良く、自慢の息子だと語って行ったと、マスターが覚えていた。昼間に、確認してきたよ。
……それと、君が留置所で何が起きていて、エルザが巻き込まれていたのを、君が見てしまった時、エルザも気が付いたんじゃないか?
助けてくれると、信じて……信じていたんだよっ!彼女はっ!
誰にでも無い、あんたにだ……。分かるか……彼女の悲しみが!強迫していたのは、あの意地の悪いお前の相棒だったんだよ。警察官の母親が娼婦をしているのは、出世の邪魔だからなっ。彼女の酒癖が悪化したのではない。金と体を引き渡しに来ていたんだよ。
そして、殺された。僕は正直、娼婦がいるから成り立つのか、居ない方がこの街や周りに良いかなんて、どうでも良い。
僕じゃ無いんだ……僕では……っ。
いつか……いつか、君に話す筈だったのは、二度と戻らない君の母親だったんじゃないかっ!?
こんな酷い街で、その空気に毒されたか!?
彼女はそれでも、家族で生きられる日を夢見た……ただ、ただそれだけの願いを……っ!」
黒影は悔しさに涙が溢れ、後ろを向き部屋を出ようとした。
「……有難う……伝えてくれて……。」
静かに兄が言った。
「感謝なら……親にしろ。」
黒影は冷たくそう言うと部屋を後にする。
「……だから、事件の後は見たく無い……。」
黒影はそう言って廊下で立ち止まる。
下で待っている白雪に、泣き顔を見せたくは無い。
「……先輩、俺……ちゃあんと準備してるんすよー。」
と、サダノブが言って笑う。
黒影はサダノブの顔を不思議そうに見た。
「サーダーイーツ、スペシャル霊水珈琲!白雪さんの愛情いり〜♪」
と、言うではないか。
「本当か!?丁度、今飲みたいと思っていたんだよ。サーダーイーツ、急成長だなっ!」
と、黒影は笑った。
――――――――――
「此れが?」
「そう、それが。」
二人は一杯の珈琲をマジマジと見た。
「見た目は変わらんな。霊水でも珈琲に合うと言う幻の、霊水。」
と、黒影は匂いを嗅いでみる。
「変わらない?」
「あー、どうだろう?多少は風味がある様にかんじるが……言われてみればって、感じだなぁ〜。」
と、黒影は鳳凰の癖に、真実味の無い事を全く信じない。
「ご飯炊くと、美味しいんですって。」
と、サダノブが言う。
「その、何でも旨くなるって言うのが怪しいじゃないか。これで、使った鳳凰の力が回復しなかったら詐欺だからなっ!」
と、黒影は言いながらも一口飲む。
「あんれぇー?」
黒影が首を傾げる。
「あんれぇー?」
サダノブもその反応は何かと首を傾げた。
「回復……してる!体が軽いよ。」
と、黒影は言って笑う。
「否、それこそ気のせいでしょうよ。」
と、サダノブは笑った。
「お前、僕を信じないのかー?」
と、言うと黒影はニヤリと笑い、急に走り出した。
「あっ!まただ!……先輩、良い加減ちょっと待って下さいよーっ!」
と、サダノブは根を上げる。
「良い加減も悪い加減も、お断りだよぉ〜だっ!白雪のいる所まで競争だっ!珈琲のお陰で絶好調♪」
と、黒影は階段を駆け下り風の様に走った。
……涙を流すのは後で良い……
涙は事件を晦ましてしまうから
今は笑おう
小さな事でも
まだまだこの街に
報われない女の啜り泣く声が
今日も霧の中から聞こえてくる
この事件に関して……僕は何と言ったか、君は覚えているか?
「ダブルイベント」
ではないと、言った。
まだ存在しているんだ。
だから悲しむ暇もない。
今から妻と、ほんの少しの息抜き程度のショッピングだ。
イングラッシュガーデンも見たい。
少しだけ夢を見ようか……。
切り裂きジャックが居なかったと言う
世界線の僕の現実逃避
行ってきます。
さぁ……また走る準備をしよう……
――取り敢えず、親愛なる切り裂きジャック様三幕おわり――
で、す、が…勿論ん黒影紳士は未だ未だ続きます🎩🌹
🔸次の↓「黒影紳士」親愛なる切り裂きジャック様 四幕 第一章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。