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彼女の服を、選びに行った。

そこはかわいい服屋さんだった。

かわいいのに、どこかスタイリッシュな印象もあった。

今は平日の夕方で、決して大きくはない規模の店だというのに、店員さんが五人もいた。

みんなとてもおしゃれな格好をしていた。


僕の彼女は、ミニスカートを選びに来たようだった。

色をどうするかですごく迷っていた。

彼女はふたつのミニスカートとともに店員さんに連れて行かれて、試着室に閉じ込められてしまった。

彼女を待つあいだ、僕は途方に暮れた。

五人の店員さんたちは、絶え間なく接客をしていた。

その店は、とにかく若い女性に人気のようだった。

客足が途絶えることはなかった。

僕のように、ぼさぼさの長髪で髭面の男が立っているには、明らかに場違いな空間だった。

「いま警備員さん、呼んだから」
そんな声が聞こえてきそうだった。


しかしそれだけ長くいると、店員さんたちの言葉づかい、立ちふるまい、表情などから、それぞれの関係をなんとなく感じとることができた。

この人とこの人は、仲が良さそう。

この人とこの人は、上下関係強めっぽい。

この人とこの人は、恋のライバルなのかも。

この人とこの人は、お互いの利害の一致から協力関係を結んでいる。

この人とこの人は、家族を養うため、一生懸命働いている。

この人とこの人は、ある重要な事件の被害者と加害者という関係。

この人とこの人は、弱みを握られ無理やり働かされているが、水面下で革命の機をうかがっており、店長を暗殺するための毒物や小口径の銃を常に携帯している。

この人とこの人は、店長サイドの監視役だったが、革命組の過酷な境遇に胸を打たれ深く共感し、自分たちのあり方に疑問を抱き、葛藤のさなかにいる。果たして自分たちは、姿を見たこともない顔も知らない店長の為に、大義を振りかざし、自分たちの同僚を苦しめているのではないか。それは果たして正義と言い切れるだろうか。目の前に苦しんでいるひとがいるというのに。

この人とこの人は、すべての黒幕である店長の存在を知っており、それはずっと新人扱いされているあの人物だった……。

その店ではそんな海外ドラマもかくや、という複雑な人間関係が織りなされているのだった。


彼女はかなり悩んだ末、ミニスカートの色を決めた。

それはカフェラテのような色で、彼女によく似合っていると思った。

それは僕が「こっちが好きだ」と言った色でもあった。


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