観光の最前線で見つけた、仕事の楽しさ。島での就職は、自分の成長に繋がった。
コロナ禍真っ只中の新卒1年目、大人の島留学に飛び込んだ。制度卒業後、海士町の観光協会に就職し、島での暮らしを継続中。そんな彼は何を思い、この島に残ることを決めたのでしょうか?
今回はR4年度4月から島留学生として海士町に来島。
大人に島留学制度が終了後、今年度の4月から一般社団法人観光協会(以下、観光協会)に就職された犬塚さんにインタビュー。
大人の島留学を終え、島の企業に就職。今までのこと、これからのことを聞かせていただきました。
コロナ禍で行き詰まった就活。新しい選択肢、大人の島留学を選んだ。
大学4年生のころ、大学では国際系の勉強をしていたので航空系の仕事に就職したいなぁ、とやんわり想像していました。
ちょうどその頃、世界でコロナが大流行。就職先として一番募集が減ってしまったのが、まさに自分が行きたいと思い描いていた、航空業界でした。
特にほかの業種に興味があったわけでもなく「あれ、どうしよう…」と行き詰まりました。
大学ではいろんな業種を受けてみることをオススメされたので、いくつか企業を受けて内定をもらって。
でも、全然入ることを考えていなかった業種に「とりあえず受けて受かって、入社してしまうのはどうなんだろう?」と就職先について決めかねている部分がありました。
気付けば周りも就職先が決まっていく人も増え…焦り始めました。
その時に親が勧めてくれたのが、大人の島留学でした。
自分自身は「新卒でどこかの会社に勤めなくては」という思いが強かったのですが、どちらかというと親の方が柔軟で。「別に会社に入らなくても、今どき新卒で入社することが全ての時代じゃない。こういう選択肢もあるんじゃない?」と提案してくれて。それに救われました。
島暮らしという新しい環境に行ってみることも、同世代の似たような境遇の人たちと関われることも、島での一年を通して今後のキャリアが見えてきたらいいなという気持ちで飛び込みました。
島に来てからは最初の1週間はしっかり研修を受けて、島のことを一から知りました。予備情報はほぼ入れずに飛び込んできました(笑)
出身が佐賀なので、生まれ育った環境と島の景色が似ていて。
佐賀ってどんなところ?って聞かれたら、「この島に信号とコンビニがあるくらいだよ」と冗談混じりで答えるくらい。雰囲気と温度感が似ているんです。今までの暮らしとのギャップはあまり受けず、すっと馴染めたのかな、と思います。
想像とは違った仕事内容。気がつけば、楽しさに惹かれて始めていた。
最初、島の外から外貨を獲得する「外貨創出」に興味があると伝えたところ、交流促進課に配属されることになりました。
交流促進課は観光分野を広く担う、役場の課だったので、
仕事がスタートした日に「島の観光の仕事をやっていくためには、まずは現場を知ってもらいたい」とのことで、観光協会に派遣されました。
最初の希望と違う場所で仕事をすることになり、正直…戸惑いました。
観光協会は島の玄関口。島外から旅行に来る人も、島内の人もいろいろな相談をしに来てくれる場所です。いろんな案内ができるように、さまざまな窓口業務を覚えていきました。
ただ、やっぱり最初に思い描いていた内容とは違うことをしていたので、心のどこかに、もやもやが残ったまま最初の1ヶ月くらいを過ごして。
でも、仕事をしていたら、だんだんと観光協会の仕事に惹かれていきました。
観光協会のみなさんの人柄もすごくいい人ばかりで、一対一でお客さまと話せる距離感も観光協会だけな気がして。
本当にいろんな人が、いろんな相談に来てくださいます。
島民の方は「あのお店って夜営業していたっけ?」「イベントやりたいんだけど、観光協会としてお手伝いしてくれませんか…?」とか。
島外の人は観光についての質問が多く、「どういう観光スケジュールにしたらいいですか?」とか。そんな質問に対して、提案をしていくのがすごく楽しかった。
さまざまな相談をしに来る人がいるので、それに対しての返答が決まっていない。「おぉ!めずらしい相談きた!」って。
それをお客さんと一緒に悩みながら考えていくのが、すごく好きでした。日々新しいことを聞いてもらえるし、新しいことを考えることもできる。お客さんとラフな会話をできるのが楽しいと気が付きました。
観光シーズンの夏が終わったら、役場の交流促進課に戻って、外貨創出に関わっていくという話もありました。
でも、この職場の雰囲気が好きで、仕事も好きになった。観光の最前線にあって、いろんな情報が入ってくるし、いろんな対応が求められる。イレギュラーなことに走り回っていることが面白いなと思いました。
なので、「このまま観光協会にいさせてください」と伝えました。
島で暮らしながら就活していた。その中で出会った人。
実は、大人の島留学中の夏も、次のことを考え就活を始めていました。この頃周りの大人の島留学生は、まだ次を選ぶっていう雰囲気ではなくて。
自分は個人的にサイトで調べて、福岡などに面接に行ったりしていましたが、島で就活をするのは時間的にも、金銭的にもハードルが高かった。
就活は一旦ストップすることに決めました。
そこから冬までは、島生活を楽しむことにシフトチェンジして。
12月頃からは、来年どうする?という話が周りでも出始めて、親からも「あなた来年はどうするの?」と心配の声が。ただこの頃、とりあえず帰る!って気持ちもなくて。
そんな中で残ると決めた理由の一つに、仕事として関わった民宿のお母さんとの出会いがありました。
民宿にお手伝いの仕事として行き始めて、本当によくしてもらいました。そこで「来年も残りな!」と冗談で言われていて。
島留学終了の2ヶ月前くらいに、僕の仕事が休みの日に、お母さんが観光協会まで行って「あんたらが止めんと、あの子帰っちゃうよ!」と言いにきて下さったと後日、観光協会の職員さんから教えてもらいました。
とてもありがたいことでした。
観光協会の職員さんも「来年もいるよね?」という雰囲気になっていき…。
その頃には僕も「島に居続けようかなぁ」という気持ちになっていて。島留学生で残る子も多かったので特に抵抗はなく、島に残り、観光協会に就職することを決意しました。
民宿のお母さんに出会っていなかったら、残る決断はしてなかったかもしれないです。
就職してからは社員としての立場ができたので、一つの仕事への責任感が増した気がします。島留学生の頃は、色々試してみてダメだったら次!という感じでしたが、今は後輩の島留学生も入ってきたり…少し大人になれたんじゃないかなと思います。
ストレス解消は一人旅。
今年からは一人暮らしも始めて、気持ちに余裕が生まれました。
去年までは大人の島留学のシェアハウスに住んでいたのですが、個人部屋があると言っても、やっぱり1人になりたい時間もある。良くも悪くも、シェアハウスに慣れてくると息苦しさを感じることもあります。
それを解消するきっかけになればと、当時一人旅に行って、見事にハマりました。
二日休みの日は弾丸で松江、米子などに行きました。月一で行っていたのですが、それがすっごく楽しくて。今まで一人旅なんてしたことなかったのに、フェリーに乗る段階から、もうワクワクしちゃって。
境港がすごく都会に見えるし、電車バスに乗るのもワクワクする。スーパーもめっちゃ好きです。今も両手いっぱいに買い物して、袋抱えて帰ってきます。ホテルで過ごすことも楽しいし、自分でスケジュールを組んで旅をするのがすごく楽しかった。
島に来る前は当たり前だった光景も、今では魅力的に見えたりすることもあって、
この感覚を大切にしたいなと思います。
この一人旅も結果的に今の仕事、観光案内に活きてきている気がしています。
島で得た技術、魚捌き。趣味が誰かのためになることへやりがいを感じた
暮らしの面では、島に来てから魚を捌けるようになりました。もう何匹捌いたか分からないくらい。
それこそ、休みの日は先ほどのお母さんの旅館へバイトに行っていて。
旅館で夜に提供する刺身を、僕がさばいています。魚がバーン!って置いてあって、それを刺身にしてます。趣味でやっていた魚捌きが旅館の仕事で活きてきて、自分のためにやっていたことが、誰かのためになることにやりがいを感じました。
釣りは少し苦手です…小さな用具を扱うのがうまくいかなくて。友達には、釣った魚を俺に渡してくれ!捌くから!と伝えています(笑)そしてそれを調理します。
今も毎日自炊していて。いくら時間が遅くてもちゃんと食べたいものを食べるようにしています。食に妥協はしたくないです。
人に振る舞うのも好きです。今も仲のいい友達を家に呼んで、試作会をしたりしています。
今は夏に向けて、つけ麺を作ろうと思っています。スープを取るところからしっかりやってみようって。
就職して、一人暮らしして。自分の時間をうまく確保できるようになって、心に余裕ができました。島での暮らしを楽しんでます。
島で見つけた「やりたいこと」 今、大切にしたい関係。
何年間、島の観光協会で働き続ける!と決めているわけではありません。
でも、今、周りの人にも仕事にもすごく恵まれている。これからも楽しく続けていきたいと思っています。
自分の根底には「人と接する仕事がしたい」という思いがあります。
それと「食」に関わることもやってみたいです。そこがうまくマッチできる仕事を見つけられたらなと。
場所は選ばず、島じゃなくても。いつかは海外に行ってみたいなとも思っています。そこでも興味のあることに挑戦してみたい。大学時代の国際系の勉強にもつながるかなと。
今はまず…
人との繋がりを大切に、
島に来て築いた関係を一つ一つ、大切にしていきたいです。
▼島で就職を決意、今はこの環境を大切に。
やりたいことが決まっていても、決まっていなくても…
目の前の出来事を一つ一つ大切にしていくと、見えてくるものがあるのかもしれません。
今しかできないこと、
大人の島留学で新しい可能性を見つけてみませんか?
(R5年度 大人の島留学生:柿添)