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怪異の風景学―妖怪文化の民俗地理


怪異の風景学―妖怪文化の民俗地理

 妖怪を研究した本です。

 「『妖怪の研究』なんて、いったい、どうやるのか?」と思う方が多いでしょうね。
 この本を読めば、「妖怪の研究」がどういうものか、わかります。

 近年は、妖怪ブームなのでしょうか、妖怪に関する本が、たくさん出ていますね。
 けれども、「妖怪を研究している」と言える本は、少ないです。
 この本は、その数少ない「妖怪研究本」です。

 研究とはいえ、そう難しいことは、書いてありません。高校生くらいなら、読んで理解できると思います。

 最初の一章「怪異の見える風景」と二章「怪異の体験とことば」は、ちょっと読みにくいかも知れません。抽象的な説明が多いからです。
 でも、ぜひ、そこを我慢して、読み進めて下さい。ほんの三十数ページです。
 第三章「妖怪の走る風景」から、面白くなります。具体的な妖怪の事例が、出てくるからです。

 妖怪の特徴の一つとして、「出現する場所が決まっている」ことが挙げられます。
 この本では、その例として、クビナシウマ(首無し馬)が取り上げられます。この妖怪は、四国の、主に徳島県に伝わります。

 クビナシウマとは、文字どおり、首のない馬の妖怪です。
 この妖怪は、「どこから、どの道を通って、どこへ至る」ことが、はっきりと伝承されていることが多いそうです。

 それらの情報は、地元の人しか知りません。
 同じ「地元の人」でも、住む町内が違うと、違うことが伝承されている場合があります。

 なぜ、クビナシウマが走る道は、決まっているのでしょうか?
 クビナシウマが発する土地や、行き着く土地には、どんな因縁があるのでしょうか?
 近隣の人同士でも、違うことが伝承されているのは、なぜなのでしょうか?

 この本では、これらの疑問を解いてゆきます。

 以下に、この本の目次を書いておきますね。

はしがき

1 怪異の見える風景
 (1)三つの風景
 (2)怪異を風景に見る人
 (3)神話世界の風景

2 怪異の体験とことば
 (1)多くの人が見た怪異
 (2)ことばとしての怪異
 (3)風景認識の三角形

3 妖怪の走る風景
 (1)クビナシウマ
 (2)クビナシウマの文法
 (3)どこを、どこから、どこへ

4 伝承集団の見た妖怪
 (1)集落内を走る妖怪
 (2)通過してゆく妖怪
 (3)向かってくる妖怪
 (4)出てゆく妖怪
 (5)ルートを選ぶ伝承集落

5 頭のなかの妖怪地図
 (1)伝承者たちの頭のなかの地図
 (2)伝説の構造分析
 (3)異話と二つの妖怪地図

6 妖怪の二つの場所
 (1)夢想するフィールドワーク
 (2)妖怪の聞き取り調査
 (3)二つの場所

7 『千と千尋の神隠し』に描かれた怪異世界の風景
 (1)三つのなぞ
 (2)近代の私たちと場所
 (3)少女の引っ越し

8 怪異世界と心のなかの景観
 (1)見えない風景の知覚
 (2)恐怖の都市風景
 (3)未知の領域との統合神話

9 現代日本人の怪異世界イメージ
 (1)映画に描かれた「怪異の見える風景」
 (2)廃墟とは―ピクチャレスクの審美眼
 (3)廃墟に見たもの

10 廃墟と幽霊・怪異世界
 (1)ハドソン・リバー派
 (2)日本の妖怪画革命
 (3)民話に見る妖怪と遭遇する場所

11 現代の廃墟と近代化遺産
 (1)近年の廃墟趣味
 (2)裂け目としての廃墟と自己
 (3)隠喩的風景と内的世界の歪み

12 妖怪の出没する場所と時代
 (1)十八世紀後半という時代
 (2)妖怪の語られる時とメッセージ
 (3)切断された人間関係と場所

あとがき
索引



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