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魔法少女の系譜、その163~日本人以外の有色人種ヒロインとは?~


 今回も、前回の余談の続きで、「日本人以外の有色人種ヒロイン」について、取り上げます。

 テレビや漫画の世界に現われた「日本人以外の有色人種ヒロイン」として、『機動戦士ガンダム』のララァ・スンは、先駆的な存在でした。とはいえ、ララァの十一年前に、『サインはV!』のジュン・サンダースがいました。
 ララァとジュンとの間に、少女漫画の「古代エジプトもの」のヒロインたちが、挟まります。テレビアニメでは、『アンデス少年ペペロの冒険』のケーナが、二〇二一年現在でもたいへん希少な「南米先住民ヒロイン」でした。

 ただし、上記のうち、ジュンとララァ以外の「日本人以外の有色人種ヒロイン」は、日本人と変わらない造形をされています。通常の黄色人種以上に色の黒いヒロインは、登場させるのに、非常にハードルが高かったことが、うかがえますね。

 けれども、じつは、古代エジプト人でもなく、南米先住民でもない「日本人以外の有色人種ヒロイン」が、ジュンとララァとの間にいました。しかも、彼女は、褐色の肌で表現されていました。
 その女性キャラクターとは、『原始少年リュウ』に登場するランです。

 『原始少年リュウ』は、漫画とテレビアニメとが、ほぼ同時進行しました。漫画もアニメも、昭和四十六年(一九七一年)から昭和四十七年(一九七二年)にかけて、連載/放映されました。
 なので、漫画原作のアニメというよりは、メディアミックスものですね。むろん、昭和四十年代(一九七〇年代前半)には、まだ、そんな言葉は、ありません。

 漫画のほうは、石ノ森章太郎―当時は、石森章太郎―さんが描きました。アニメのほうにも、設定などに関わっておられるようです。
 石ノ森さんが、日本のおたく文化に、どれだけ深い貢献をしたのかと思いますね。『魔法少女の系譜』シリーズでも、何回、この方の名が登場したか、わかりません。
 漫画版とアニメ版とでは、設定やストーリーなどが違います。以下では、アニメ版をメインに解説しますね。

 『原始少年リュウ』は、題名のとおり、原始時代が舞台です。国家どころか、金属器も農耕も文字もない時代、石器や土器や木器しかなくて、毛皮を着ている時代です。
 しかし、この作品の時代設定は、曖昧です。原始人と一緒に、恐竜や翼竜や猿人も出てきます。まあ、昭和の時代の子供向け作品には、往々にして、そういうのがありました(笑)

 この作品の主人公リュウは、生まれた直後に、生贄【いけにえ】にされてしまいます。なぜかといえば、彼が、白い肌をしていたからです。
 まだ国という概念のない時代ですが、「民族」という概念は、ありました。リュウが生まれた民族(オオツノ族)は、たまたま、褐色の肌をした人々ばかりでした。このために、異端視されて、生贄として捧げられることになります。
 何の生贄かといえば、チラノと呼ばれる恐竜への生贄です。チラノは、明らかに、ティラノサウルスをモデルにした肉食恐竜です。

 ところが、赤ん坊のリュウを、キティという猿人の女性が拾います。キティは、産んだばかりの自分の子供を、亡くした直後でした。悲しみが癒えないところに、現生人類の赤ん坊を見つけて、我が子の代わりに育てます。

 リュウが立派な少年に育ったころ、彼は、自分が生まれた村の、オオツノ族の人間と接触します。オオツノ族は、よそ者だと言ってリュウを忌み嫌います。リュウは、オオツノ族に捕まって、火あぶりにされそうになります。
 その時、チラノが現われて、オオツノ族の村を襲いました。オオツノ族の村は全滅し、リュウを助けに来たキティも、殺されてしまいます。
 オオツノ族の村で助かったのは、ランという少女だけでした。村が滅んだのに、ランは、あまり悲しそうでもありません。それは、ランも、オオツノ族ではないからでした。よその村から、火種と交換に、売られてきたのです。この時代、貨幣もまだありませんので、売買は、物々交換です。

 このランが、『原始少年リュウ』のヒロインです。オオツノ族ではありませんが、オオツノ族と同じように、褐色の肌をしています。リュウと同い年くらいの美少女です。
 ランの両親はもう死んでいて、たった一人の弟とも、生き別れていました。

 リュウとランとは、全滅した村で、瀕死の村の長老を見つけます。長老は、死ぬ前に、リュウに、「本当の母親は生きている」ことを告げます。
 リュウは、本当の母親を探すことを決心します。けれども、その前に、ランと一緒に、彼女の弟のドンを探すのに付き合うことにします。

 この後は、ひたすら、リュウとランとの旅が続きます。途中で、ランの弟のドンと、無事に再会します。ドンも、褐色の肌の少年です。
 ランとドンとは、再会を助けてくれたリュウに感謝して、今度は、彼らが、リュウの母親探しの旅に付き合います。

 リュウたちの行動範囲にいる人間は、ほぼすべて、褐色の肌の人間です。多くの人が、リュウの白い肌を嫌い、差別します。ランとドンとは、リュウをとても信頼していて、彼の白い肌も、まったく気にするそぶりを見せません。

 この「白い肌ゆえに差別される」点が、現実の黒人差別を逆転した形で描いていて、上手いなと思います。
 ヒロインのランは、最初に登場した時から、リュウを差別しません。外見が美しいばかりでなく、性格も良いことが、示されます。正統派のヒロインらしいヒロインです(^^)

 さて、ここで、前回に出した時系列順の表に、『原始少年リュウ』を当てはめてみましょう。

昭和四十三年(一九六八年) 『サインはV!』
      ↓
昭和四十六年(一九七一年) 『原始少年リュウ』
      ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『ファラオの墓』
      ↓
昭和五十年(一九七五年) 『アンデス少年ペペロの冒険』
      ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』
      ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『海のオーロラ』
      ↓
昭和五十四年(一九七九年) 『機動戦士ガンダム』

 『原始少年リュウ』は、『サインはV!』と、『ファラオの墓』の間に、当てはまります。この間は、六年も空いていて、表全体からすると、不自然でした。他の作品は、みな、一年か二年しか空いていませんのにね。
 『原始少年リュウ』が、ここに入ることで、空白が埋まりました。『サインはV!』から『原始少年リュウ』までは三年差、『原始少年リュウ』から『ファラオの墓』までも、三年差となります。

 三年差でも、まだちょっと不自然と感じられるかも知れません。けれども、『サインはV!』の流行が長く続いたこと、『原始少年リュウ』の漫画連載/テレビ放映が、昭和四十七年(一九七二年)まで続いたことを考えれば、実質、空白は、短いです。

 『サインはV!』の漫画連載は、昭和四十三年(一九六八年)に始まりました。テレビドラマ版は、翌年の昭和四十四年(一九六九年)から始まり、昭和四十五年(一九七〇年)まで続きました。
 『サインはV』のテレビドラマが終わった翌年に、『原始少年リュウ』のアニメが、テレビ放映されているわけです。
 そして、『原始少年リュウ』の漫画連載/アニメ放映が終わった二年後に、『ファラオの墓』の漫画連載が始まります。

 こうして見ると、『サインはV!』のジュン・サンダース以来、『機動戦士ガンダム』のララァ・スンまで、細々とではありますが、「日本人以外の有色人種ヒロイン」の系譜が、つながっていることがわかります。
 日本のアニメ史上、最初期のインド系ヒロイン、ララァ・スンは、決して、突然現われたのではありません。ちゃんと、前段階があります。

 上に挙げた作品の、「日本人以外の有色人種ヒロイン」のうち、狭義で魔法少女と言えるのは、『王家の紋章』のアイシスと、『機動戦士ガンダム』のララァだけです。
 『海のオーロラ』の主人公、ルツは、転生を繰り返すので、広義での魔法少女とは言えるでしょう。ただし、転生すること以外は、普段の生活で、魔法が使えるわけではありません。厳密に、魔法少女と言えるかどうかは、難しいところです。

 昭和の時代には、「日本人以外の有色人種ヒロイン」というだけで、珍しい属性持ちでした。そのうえ、魔法少女属性まで付けたのでは、属性がてんこ盛り過ぎて、読者や視聴者に受け入れてもらいにくかったと考えられます。
 「日本人以外の有色人種(ダーク)ヒロイン」かつ「魔法少女」を、最初期にやったアイシスは、偉大なる(ダーク)ヒロインですね。これは、舞台が古代エジプトだから、できたことだと思います。

 昭和の時代から、「ツタンカーメン王の呪い」などの話は、日本人の間でも、知られていました。ツタンカーメン王の黄金のマスクの写真や、巨大なピラミッドの写真も、みな、どこかで見たことがありました。
 古代エジプト文明は、「優れた黄金文明で、魔術が発達していた」イメージがあったわけです。このイメージあってこその『王家の紋章』であり、魔術の天才アイシスです。
 『海のオーロラ』で、転生を繰り返すヒロインが、古代エジプトに生まれるのも、このイメージがあるからでしょう。

 アイシスやルツを含め、幾人もの「日本人以外の有色人種ヒロイン」が活躍したところで、『機動戦士ガンダム』のララァ・スンが現われました。前段階で、地ならしをしてくれたヒロインたちがいて、満を持して登場した形になります。
 「満を持して」と書きましたが、これは、結果として、「満を持して」登場したように見えるだけです。ララァは、「日本人以外の有色人種ヒロイン」という珍しい属性に、さらに「魔法少女」という属性を付けて、人気が爆発した、最初期のヒロインです。
 『機動戦士ガンダム』が、日本のアニメの歴史を変えるほど大ヒットしたため、ララァ・スンというキャラクターも、長く、人々の印象に残ることとなりました。

 ところで、今回、紹介した『原始少年リュウ』は、ジャンルに分類すれば、「原始もの」、あるいは、「ターザンもの」と呼ばれるジャンルに入るでしょう。二〇二一年現在の日本では、マイナージャンルですが、主に少年漫画に、このジャンルが受け継がれています。一九八〇年代以降の作品ですと、『ジャングルの王者ターちゃん♡』や『南国少年パプワくん』が、そうですね。
 じつは、このジャンルは、「白人でも日本人でもない有色人種」を描くのに、重要な役割を果たしています。直接、魔法少女ものとは関係しないように見えますが、少し、関係する部分もありますので、今後、取り上げたいです。

 ということで、今回は、ここまでとします。
 次回は、「原始もの」、あるいは、「ターザンもの」の話をする予定です。



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