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魔法少女の系譜、その149~『七瀬ふたたび』の鬱【うつ】展開~


 今回も、前回に続き、NHK少年ドラマシリーズの実写ドラマ『七瀬ふたたび』を取り上げます。

 『七瀬ふたたび』のドラマは、原作小説と、結末は同じです。全滅エンドです。
 ただ、ルポライターの山村が生き残ることだけが、違います。山村は、ドラマオリジナルの人物で、原作小説には、登場しません。そのため、原作小説のほうが、より悲痛なバッドエンドです。

 二〇二〇年現在であれば、「鬱【うつ】展開」と言われること、間違いなしですね。原作小説自体がそうなので、忠実に映像化すれば、どうしても、そうなります。
 にもかかわらず、『七瀬ふたたび』には、根強い人気があります。NHK少年ドラマシリーズの後にも、三回も、テレビドラマ化されています。一度は、実写映画化もされました。二〇〇一年(平成十三年)には、漫画化もされています。

 これほど陰鬱な物語が、なぜ、こんなに人気があるのか、まだ、私は、分析できていません。

 主人公の七瀬は、テレパシー能力を持つ超能力者で、しかも、美少女です。人格的にも、善意の人で、何の報酬もないのに、何度も他人を助けます。
 こういう人は、物語の中では、スーパーヒロインとして活躍するか、最初は恵まれない環境にいても、結末では、幸せになるかするのが、普通ですよね。

 それなのに、七瀬は、ちっとも幸せそうではありません。自分の正体を隠そうと、いつも緊張しています。良いことをしても、まったく報われず、最後は殺されてしまいます。
 七瀬以外の超能力者たちも、西尾を除いて、基本的に、善意の人たちです。でも、やはり、最後には、殺されます。かつての富野監督をほうふつとさせる皆殺しぶりです(^^;

 これほど救いのない話も、少ないですよね。
 魔法少女ものとして見ると、『七瀬ふたたび』に匹敵する悲劇的な作品は、『魔法少女まどか☆マギカ』(略称、まどマギ)まで、なかったかも知れません。

 一九七〇年代の魔法少女もの―当時は、まだ、魔法少女という言葉がなく、魔女っ子という言葉しか、ありませんでした―といえば、どれも、明るく楽しい作品だったと思われがちです。「『まどマギ』が、初めての鬱展開魔法少女ものだった」という言説を見ます。
 とんでもない、それは、間違いです。『七瀬ふたたび』の救いのなさは、『まどマギ』以上ですよね。

 ただ、昭和五十四年(一九七九年)の放映当時は、『七瀬ふたたび』は、魔女っ子ものとは、見られませんでした。「NHK少年ドラマシリーズの一作品」というグループ分けでした。
 実写ドラマであり、「魔法」ではなく、「超能力」を使う人ということで、「魔女っ子もの」とは、認識されにくかった作品です。極端にぴりぴりした「鬱展開」ぶりも、ほぼ同時代の『魔女っ子チックル』や大場久美子版『コメットさん』と違い過ぎて、同種の物語だと認識できなかったのでしょう。

 二〇二〇年現在から、振り返ってみれば、「超能力」は、「魔法」の一種と言えますね。『まどマギ』を経験した私たちは、「鬱展開」の魔法少女ものもありだと、わかっています。
 困っている人を何回も救って、それなりに活躍したヒロインが、報われずに死んでしまう点に違和感が残りますが、『七瀬ふたたび』も、魔法少女ものと言えます。

 筋立てや設定の複雑さといい、良いことをした人が報われないことといい、超能力者の男女混淆チームが登場することといい、『七瀬ふたたび』は、伝統的な口承文芸からは、完全に離れた物語です。現代の創作物語らしい創作物語です。

 伝統的な口承文芸は、お約束の塊です。「基本的に、親族同士ではない男女は、行動を共にしない」、「善人は幸せになる、悪人は不幸になる」などの、強固なお約束があります。それらが破られることは、めったにありません。お約束で固められているため、筋立てや設定も単純で、口承文芸に詳しい人であれば、だいたい筋が読めてしまいます。
 『七瀬ふたたび』は、そのようなお約束から、ずっと遠く離れた物語であることが、おわかりいただけるでしょう。

 『七瀬ふたたび』で強調されているモチーフの一つが、「迫害される超能力者」です。
 二〇二〇年現在の作品ですと、あまり思い当たりませんが、一九七〇年代の作品には、時々、見かけられるモチーフでした。

 『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げた作品の中では、『紅い牙』に、その傾向が見られますね。
 『紅い牙』は断続的に連載されていて、『七瀬ふたたび』の放映中は、ちょうど、連載が途切れている時期でした。しかし、物語は途中で、連載は、続いている最中でした。『七瀬ふたたび』と同時代の作品と言えます。

 『紅い牙』ヒロインの小松崎ランは、自分の超能力を隠そうと、必死です。タロンという悪の組織が登場してからは、ランは、ずっとタロンに追われます。自分の能力を隠して、普通の人に紛れようとするのは、タロンから身を守るためでもあります。
 この点、超能力者抹殺集団に追われる七瀬と、重なりますね。同じ超能力者の仲間ができる点も、ランと七瀬とで、共通します。
 とはいえ、『紅い牙』のほうは、タロンと一緒に戦える仲間ができたことで、ランは、どんどん前向きに、明るくなります。物語としても、希望の見える終わり方です。『七瀬ふたたび』の、絶望的なバッドエンドとは、大きく違います。

 NHK少年ドラマシリーズの『七瀬ふたたび』の放映と、同時期に連載されていたのが、竹宮惠子さんの漫画『地球【テラ】へ…』です。『地球【テラ】へ…』にも、「迫害される超能力者」のモチーフが、強く表われています。

 『地球【テラ】へ…』の舞台は、遠い未来、人類が、地球以外の惑星にも進出した時代です。その世界では、超能力を持つ人間は、ミュウと呼ばれます。ミュウは、「存在してはならない人間」であり、思春期に検査を受けて、ミュウであると判別された人間は、抹殺されます。
 けれども、一部のミュウたちは、当局の手を逃れて、ひそかに共同体を作り上げていました。主人公のジョミー・マーキス・シンは、検査を受けて、ミュウであると判別され、殺されそうになります。その時、ミュウたちの指導者であるソルジャー・ブルーに救われて、ミュウたちの共同体に加わります。

 『地球【テラ】へ…』でも、ミュウたちへの迫害は、理不尽で、痛々しいものとして描かれます。ミュウと、そうでない人間との戦いが、全編を通して続きます。でも、結末は、やはり、希望のある終わり方です。

 同時期に、同じモチーフが、いくつもの違う作品に現われて、どの作品も、それなりにヒットしました。たぶん、「そういう時代の気分だった」ということなのでしょう。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『七瀬ふたたび』を取り上げます。



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