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魔法少女の系譜、その184~最古の悪役令嬢を発見か?~


 今回も、前回に続き、『花の子ルンルン』を取り上げます。
 『ルンルン』のロードアニメの要素と、「悪役令嬢」の要素について、考察します。

 まず、ロードアニメの要素について。
 『花の子ルンルン』が放映されたのと同じ昭和五十四年(一九七九年)には、同じく、少女向けのロードアニメとして、『さすらいの少女ネル』が放映されました。また、実写(特撮)で、少年少女向けのテレビドラマとして、『七瀬ふたたび』も放映されました。
 じつは、これらに加えて、もう一つ、同じ年に、少年少女向けの「ロードアニメ」が放映されていました。『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』―以下、『マルコ・ポーロの冒険』とします―です。

 当時は、二〇二二年現在のように、アニメが量産されている時代ではありません。なのに、少年少女向けの「ロードアニメ」が、同時期に三作、実写も加えれば四作もあったわけです。これはもう、当時は、少年少女向けの「ロードアニメ」が流行りだったとしか、思えませんね。
 これには、時代背景があります。

 昭和五十四年(一九七九年)当時は、中国と日本とが国交を正常化してから、まだ七年しか経っていません。当時の中国は、まごうことなき発展途上国で、日本は、アジア唯一の先進国でした。二〇二二年現在は、中国を嫌う日本人が多いですが、当時は、今では信じられないほど、中国に対して友好的でした。
 閉ざされていた中国の情報が、どっと入ってきて、日本では、シルクロードがブームになりました。
 『NHK特集』―二〇二二年現在の『NHKスペシャル』の前身番組―で、『シルクロード』が放映され、人気が爆発するのは、昭和五十五年(一九八〇年)です。NHKでは、前年の昭和五十四年(一九七九年)から、中国を含めたユーラシア大陸で、『シルクロード』の取材を始めていました。
 そして、その取材を生かして作られたのが、『マルコ・ポーロの冒険』です。NHK特集の『シルクロード』に一年先駆けて、放映が始まりました。

 『マルコ・ポーロの冒険』は、非常に意欲的な試みをしたテレビ番組でした。実写とアニメとの合成作品でした。
 一九七〇年代には、「NHKが、アニメを放映する」こと自体が、画期的でした。『マルコ・ポーロの冒険』が放映される前年、昭和五十三年(一九七八年)に、『未来少年コナン』がNHKで放映されて、「NHKがアニメを放映するなんて!?」と、驚かれた時代です。
 『マルコ・ポーロの冒険』は、『未来少年コナン』に続く、NHKの意欲的なアニメ番組でした。

 前述のとおり、『マルコ・ポーロの冒険』は、アニメと実写との合成です。ドラマパートはアニメで描かれ、その合間に、NHKが現地で取材してきた実写の「シルクロード紀行」が挟まります。
 当時は、むろん、ネットがありません。アニメの合間に挟まるわずかな情報でも、シルクロード現地の情報として、貴重でした。

 アニメと実写との合成作品としては、過去の『魔法少女の系譜』シリーズで、『恐竜探検隊ボーンフリー』と、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』とを取り上げましたね。

魔法少女の系譜、その113~『ザ・カゲスター』と『恐竜探検隊ボーンフリー』~(2022年7月23日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/ne14724bc27f1
魔法少女の系譜、その114~『恐竜大戦争アイゼンボーグ』~(2022年7月23日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/na739b58ae168

 『ボーンフリー』の放映が昭和五十一年(一九七六年)から昭和五十二年(一九七七年)、『アイゼンボーグ』の放映が昭和五十二年(一九七七年)から昭和五十三年(一九七八年)です。
 『マルコ・ポーロの冒険』は、この二作品の衣鉢を継ぐように、昭和五十四年(一九七九年)に、放映が始まりました。

 『ボーンフリー』や『アイゼンボーグ』とは違って、『マルコ・ポーロの冒険』には、魔法や超科学は登場しません。普通の少年の冒険ものです。
 題名でおわかりでしょう。『マルコ・ポーロの冒険』は、実在した探検家マルコ・ポーロの『東方見聞録』を原作にしています。とはいえ、ドラマ部分は、ほとんど創作です。『東方見聞録』は、原作というより、原案ですね。
 主人公のマルコ・ポーロが、生まれ育ったベネチアを離れて、父ニコロ・ポーロ、叔父マテオ・ポーロに連れられ、当時の中国を支配していた元王朝へ赴くのは、『東方見聞録』のとおりです。
 実在したマルコ・ポーロが、ベネチアから旅立った時には、わずか十五歳の少年でした。この部分は、『マルコ・ポーロの冒険』でも、そのまま踏襲されています。何年もかけて元王朝へ行く旅路が、少年の冒険物語・成長物語になるわけです。

 シルクロードのブームがあったように、当時の日本は、海外からの情報がぐっと増えて、海外旅行に目が向いた時代でした。『花の子ルンルン』、『さすらいの少女ネル』、『マルコ・ポーロの冒険』と、日本以外の国を旅する「ロードアニメ」が揃ったのは、このような時代背景からだと考えられます。
 今では、ほぼ忘れられた作品ですが、『マルコ・ポーロの冒険』は、決して、人気がなかった作品ではありません。アニメ雑誌の『アニメージュ』の表紙を飾る程度には、人気がありました。

 不景気が続くうえに、コロナ禍の二〇二二年現在の日本では、こんな「ロードアニメ」のブームは、来そうにありません(^^;
 それでも、こういう時代だからこそ、自由に外国を旅するキャラクターが登場する「ロードアニメ」があっていいと思います。フィクションは、夢を描きませんとね(^^)


 さて、次に、「悪役令嬢」の要素です。
 『花の子ルンルン』には、トゲニシアという悪役の少女が登場しますね。具体的な描写はありませんが、彼女は、良い家柄のお嬢さまっぽいです。性格は、とても悪いですけれどね(^^;
 トゲニシアは、二〇二二年現在の「悪役令嬢」のイメージと重なります。

 『魔法少女の系譜』シリーズでは、以前、『王家の紋章』を取り上げた時に、この作品に登場するアイシスが、「悪役令嬢」の原形のようだと書きました。

魔法少女の系譜、その125~『王家の紋章』のアイシスは、悪役令嬢か?~(2022年7月29日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/neb73b4e9e430

 その後、『未来からの挑戦』にも、高見沢みちるという「悪役令嬢」っぽいキャラクターが登場します。

魔法少女の系譜、その132~『未来からの挑戦』~(2022年8月1日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nfde30cae715b

 また、『魔女っ子チックル』や、『ミラクル少女リミットちゃん』にも、「悪役令嬢」に当たるキャラクターが登場すると書きました。

魔法少女の系譜、その140~『魔女っ子チックル』と先行作品~(2022年8月5日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nd0f015cc7ff8

 さかのぼれば、『魔女っ子メグちゃん』のヒロイン、メグのライバルであるノンも、悪役令嬢っぽいですね。

魔法少女の系譜、その32~『魔女っ子メグちゃん』~(2022年6月12日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/n9eb60b117214

 魔法少女ものではありませんが、過去に『魔法少女の系譜』シリーズでちらりと触れた、『キャンディ・キャンディ』にも、イライザという、典型的な「悪役令嬢」が登場します。

魔法少女の系譜、その138~『魔女っ子チックル』~(2022年8月4日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/n57091e381001

 これらの「悪役令嬢」たちを、時系列順に並べると、以下のようになります。

昭和四十八年(一九七三年) 『ミラクル少女リミットちゃん』の竹下光子
  ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『魔女っ子メグちゃん』のノン
  ↓
昭和五十年(一九七五年) 『キャンディ・キャンディ』のイライザ
  ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』のアイシス
  ↓
昭和五十二年(一九七七年) 『未来からの挑戦』の高見沢みちる
  ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『魔女っ子チックル』の矢野さとみ
  ↓
昭和五十四年(一九七九年) 『花の子ルンルン』のトゲニシア

 見事に、一年おきに並びました(*o*) 
 このあたりが、日本の「悪役令嬢」の原形を形作ったキャラクターと言えそうです。

 調べているうちに、『ミラクル少女リミットちゃん』の竹下光子より、古い「悪役令嬢」を発見しました。
 『魔法のマコちゃん』の富田トミ子です。彼女は、ヒロインである浦島マコのクラスメイトで、マコを勝手にライバル視して、いろいろと嫌がらせをしてきます。大金持ちのお嬢さまで、ヒステリックな性格です。この時点で、「悪役令嬢」のイメージが完成しています。
 『魔法のマコちゃん』は、もちろん、過去の『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げています。

魔法少女の系譜、その8~『魔法のマコちゃん』~(2022年6月1日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nc5eb7ae103c7

 富田トミ子を入れて、上記の時系列の表を書き直すと、以下のとおりになります。

昭和四十五年(一九七〇年) 『魔法のマコちゃん』の富田トミ子
  ↓
昭和四十八年(一九七三年) 『ミラクル少女リミットちゃん』の竹下光子
  ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『魔女っ子メグちゃん』のノン
  ↓
昭和五十年(一九七五年) 『キャンディ・キャンディ』のイライザ
  ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』のアイシス
  ↓
昭和五十二年(一九七七年) 『未来からの挑戦』の高見沢みちる
  ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『魔女っ子チックル』の矢野さとみ
  ↓
昭和五十四年(一九七九年) 『花の子ルンルン』のトゲニシア

 富田トミ子のおかげで、日本の「悪役令嬢」の型が、少なくとも、昭和四十五年(一九七〇年)にまでさかのぼることが、判明しました。
 富田トミ子よりも古い「悪役令嬢」を御存知の方、また、上記の表の間を埋める作品を御存知の方は、教えて下さい。

 今回は、ここまでとします。
 次回は、『花の子ルンルン』とは別の作品を取り上げる予定です。



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