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魔法少女の系譜、その132~『未来からの挑戦』~


 今回は、前回までとは違った作品を取り上げます。少女漫画の世界から、テレビの世界へ戻ります。
 取り上げるのは、『未来からの挑戦』です。NHK少年ドラマシリーズの一作品です。昭和五十二年(一九七七年)に、全二十話が放映されました。

 昭和五十二年(一九七七年)は、『王家の紋章』の単行本が、初めて出た年ですね。
 テレビの世界では、『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』が始まり、大人気となった年でした。『恐竜探検隊ボーンフリー』や『5年3組魔法組』も放映されていて、それなりに人気でした。『恐竜大戦争アイゼンボーグ』が放映されるのは、『未来からの挑戦』の放映が終わった後です。

 『未来からの挑戦』には、原作の小説があります。眉村卓さんの小説『ねらわれた学園』と、『地獄の才能』とが、原作です。
 『未来からの挑戦』の筋立ては、ほぼ、『ねらわれた学園』にのっとっています。ドラマの中の「英光塾」の描写が、『地獄の才能』から引用されています。

 小説の『ねらわれた学園』は、テレビドラマの『未来からの挑戦』の四年前、昭和四十八年(一九七三年)に刊行されました。
 この小説には、とても根強い人気があります。二〇二〇年現在でも、SFジュブナイル小説の傑作といわれます。『未来からの挑戦』の後も、何度も映像化されました。
 昭和五十六年(一九八一年)の映画『ねらわれた学園』を御存知の方が、多いかも知れませんね。女優の薬師丸ひろ子さんがまだ高校生で、主役の少女を演じました。
 比較的最近ですと、平成二十四年(二〇一二年)に、アニメーション映画化されています。

 以下では、実写(特撮)テレビドラマの『未来からの挑戦』を紹介します。必要に応じて、原作小説の『ねらわれた学園』にも、触れます。


 『未来からの挑戦』の主人公は、関耕児という男子中学生です。彼は、魔力や超能力を持たない、普通の少年です。ただ、正義感が旺盛で、行動力もあります。
 話の舞台ははっきりしませんが、現代日本―昭和五十年代前半(一九七〇年代後半)の日本―のどこかです。おそらく、首都圏です。
 耕児は、月丘中学2年3組に転入してきます。月丘中学は、普通の公立中学ですが、受験の名門校として知られており、耕児は、そのレベルの高さに驚きます。
 その代わり、生徒たちのストレスが溜まっているのか、教室の壁がピンクに塗られるなど、悪質ないたずらも、多発していました。

 クラスメイトを通じて、耕児は、英光塾という学習塾の存在を知ります。その塾に通い始めたクラスメイトが、突然成績が良くなり、怪しまれます。
 耕児のクラスメイトの楠本和美―耕児と親しくなった女子生徒―によれば、英光塾は、大変なエリート塾ですが、入塾するのに独自の基準があるといいます。単純に、成績が良いだけでは入れないようです。和美は、英光塾には通っていません。
 耕児は、英光塾が気になって調べようとします。すると、英光塾に通っていたクラスメイトが、突然記憶喪失になったり、英光塾へ行くと言った生徒が失踪したり、耕児自身も、五時間後の別の場所にタイムスリップしたり、といった異変が起こります。

 その頃、月丘中学では、クラスの代表委員を選ぶ選挙がありました。クラスメイトに頼まれて立候補した耕児が、当選して、代表委員になります。
 耕児の対抗馬は、西沢杏子という女子生徒でした。彼女は、落選したことにひどく動揺し、「除名されてしまう」とつぶやきます。杏子は、英光塾に通う生徒でした。
 じつは、クラスメイトが耕児に立候補するよう頼んだのは、杏子を当選させたくなかったからでした。そのクラスメイト―吉田一郎という男子生徒―は、英光塾から入塾案内が届いたのに、行かなかった人でした。吉田は、英光塾や、そこに通う杏子などを怪しんでいて、代表委員にさせたくなかったのでした。

 同じ頃、月丘中学では、生徒会長の選挙も行なわれます。高見沢みちるという二年生の女子生徒が、三年生を差し置いて当選し、生徒会長になります。みちるも、英光塾に通う生徒でした。
 生徒会長の地位に就くや、みちるは、独裁体制を敷きます。校内は悪ふざけが横行して、風紀が乱れていると訴え、それを正すパトロール委員会が作られます。生徒会の会議で、クラス代表委員の耕児は、「パトロール委員会なんて、やり過ぎだ」と反対しますが、議案は可決されてしまいます。

 パトロール委員は、日々、隊列を組んで校内を巡回し、些細な校則違反でも、厳しく取り締まります。彼らの行動は、どんどんエスカレートします。校則違反した生徒の首に、「罪状」を書いたプラカードを下げて、校内を引き回したり、廊下に正座させて、通る人全員に土下座させたりします。
 どう見てもやり過ぎですが、教師が注意しようとすると、突然頭痛に襲われるなどして、何もできなくなります。校内では、誰もみちるに逆らえなくなってゆきます。

 耕児は、和美や吉田と協力して、みちるのファッショ体制に抵抗します。みちるは、人の心を操る超能力を持っていて、耕児たちを苦しめます。その超能力のために、教師たちまでもが、操られました。耕児たちのクラスが、まるごと、学校中から無視されることになります。
 そればかりでなく、耕児の家にまで、パトロール委員たちが現われて、行進したかと思うと、かき消すようにいなくなる、という怪現象まで、起こります。

 耕児は、かたをつけようと、一人で英光塾に乗り込みます。そこにいたのは、田中レイ子という塾の講師と、みちるを含む月丘中学の生徒会役員たちでした。レイ子は、自分たちに協力してくれるなら、仲間に迎えようと言います。耕児は、断固、拒否します。
 レイ子は、耕児を異空間に閉じ込めて、超能力で拷問します。耕児は、決して、屈しません。

 その間に、レイ子たちは、ニセ耕児―アンドロイド―を仕立て上げて、耕児の家に送り返します。周囲の人間は、誰もが、ニセ耕児を、本物の耕児だと信じて疑いません。
 ただ一人、飛鳥清明【あすか きよあき】という2年3組の生徒だけが、ニセ耕児に気づいていました。清明も、英光塾に通う生徒ですが、耕児に助けられたことがあり、耕児とは友情をはぐくむようになっていました。
 清明は、本物の耕児が、レイ子に囚われていると気づきます。耕児が、レイ子の超能力で精神的に破壊されることに我慢できず、清明は、耕児を救い出します。清明も、レイ子に対抗できる程度の超能力を持つため、それができました。
 むろん、レイ子やみちるたちが追ってきます。清明と耕児とは、彼らから逃れるために、タイムリープします(公園のブランコが、タイムリープの装置として使われています)。

 耕児と清明とが着いたのは、第二次世界大戦中の日本でした。清明は、良い時代に来たと喜びます。清明に言わせると、現代は堕落しているというのです。この時代なら、個を犠牲にして、全体のために働く喜びがあったと主張します。
 しかし、当然ながら、耕児と清明とは、その時代の人間に怪しまれます。アメリカのスパイとして、憲兵につかまりそうになります。そこに空襲があって、憲兵は、耕児と清明とを放って逃げ出します。耕児と清明とは、はぐれてしまいます。

 耕児は、一人の少女に導かれて、防空壕に入ることができました。その少女、落合悦子は、すでに、空襲で、両親を失った孤児でした。防空壕の中で、耕児は、悦子に、未来の話を聴かせます。
 空襲が過ぎた後、耕児が防空壕を出ると、清明が見張り小屋に囚われていることがわかります。悦子と協力して、耕児は、清明を救出します。そこへまた空襲があり、悦子は、機銃掃射で胸を撃ち抜かれて、死んでしまいます。戦争のない時代がうらやましいと言いながら。

 悦子の死を目の当たりにした清明は、さすがに考えを改めたようでした。耕児とともにタイムリープして、二人は、現代に戻ります。タイムリープに使うブランコが、第二次世界大戦中にはない―金属供出のため、献納されてしまっている―ため、ブランコの代わりに、ロープを使います。
 耕児と清明が戻ったのは、元いた日から三日後でした。そこでは、ニセ耕児が何かをやらかしたために、吉田たちクラスメイトが、耕児を信用しなくなっていました。耕児の両親でさえ、ニセ耕児にだまされきっていて、本物の耕児を信じません。
 二人は、偶然、和美に出会います。和美が「安全な場所がある」と言うので、付いてゆくと、そこは、英光塾と同じような場所でした。その和美は、本物の和美ではなく、みちるが化けた姿でした。

 耕児と清明とは、何とか逃げ出して、三日前にタイムリープします。そこで、ニセ耕児が、吉田を停学にさせたことを知ります。そのうえ、英光塾が、冬季合宿にかこつけて、生徒たちを大量に洗脳しようとしていることも知ります。
 ここに至って、清明は、耕児に、自分の正体を明かします。彼は、西暦二四九六年から来た未来人でした。彼の時代は、混乱と無秩序の時代でした。それは、過去の人間が、自由と権利を主張しすぎたためだと考えて、正しい歴史にするため、清明のような未来人の一部が、現代に来たのでした。

 けれども、さまざまな経験をしたことで、清明は、自分の考えが間違っていたことに気づきます。このままでは、ファシズムが広まって、また戦争が起こり、西暦二四九六年を待たずに、人類が滅亡するかも知れません。それを防ぐには、レイ子たちを止めなければなりません。
 耕児と清明とは、和美や吉田とも協力して、英光塾に忍び込み、洗脳装置を破壊します。本当は、これもすんなり行かずに、悶着があるのですが、ややこしいので、省略します(^^;
 レイ子は、最後に、溶けるように消えて、いなくなってしまいます。清明は、「自分の時代で、自分なりにがんばる」と言い残して、未来へ帰ります。


 次々にいろいろなことが起こって、サスペンス味あふれる展開なのが、わかっていただけたでしょうか。当時の少年少女たちは、夢中で見たと聞きます。NHK少年ドラマシリーズの中でも、『未来からの挑戦』は、最高傑作だと言う人もいるほどです。

 この作品の中で、ヒロインは誰かと言えば、楠本和美です。けれども、彼女は、魔法少女ではなく、普通の人間です。
 魔法少女と言えるのは、悪役の高見沢みちるですね。もう一人、田中レイ子も、年齢は成人ですが、そうですね。二人とも、超能力者です。

 『未来からの挑戦』は、中盤から後半にかけて、高見沢みちるの存在感が抜群なのですよ。憎々しい悪役として、迫力満点です。悪役「令嬢」ではありませんが、彼女が、事実上のヒロイン―反ヒロイン?―と言えるほどです。
 高見沢みちるの存在ゆえに、『未来からの挑戦』を、魔法少女の系譜シリーズで、取り上げました。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『未来からの挑戦』を取り上げます。



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