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魔法少女の系譜、その140~『魔女っ子チックル』と先行作品~


 今回も、前回に続き、『魔女っ子チックル』を取り上げます。

 『魔女っ子チックル』は、チックルとチーコとのダブルヒロイン制ですね。チックルが、魔法の国から来た魔女っ子で、チーコが、普通の小学生女子です。
 このような組み合わせの「女子二人バディもの」は、伝統的な口承文芸には、ほとんど存在しません。そもそも、伝統的な口承文芸には、男子のバディものは多くても、女子のバディものは、極端に少ないです。

 しかも、『魔女っ子チックル』は、最終回で、口承文芸の強力なお約束を破っていますね。異世界の者であるチックルが、異世界へ帰りません。自らの意志で、「人間界の普通の人間」になることを選び、小森家の一員になります。

 これらのことを見れば、『魔女っ子チックル』は、伝統的な口承文芸からは、完全に抜け出した作品であることが、わかります。最終回で、魔法の国へ帰らない点などは、それまでの「魔女っ子もの」のお約束を破った作品でもありますね。

 伝統的な口承文芸からは脱出しましたが、それまでの「魔女っ子もの」と比べると、引き継いでいる点もあります。
 とりわけ、『ミラクル少女リミットちゃん』との共通点が、目立ちます。『ミラクル少女リミットちゃん』は、昭和四十八年(一九七三年)に放映が始まりました。『魔女っ子チックル』の約五年前です。

 『ミラクル少女リミットちゃん』と、『魔女っ子チックル』とでは、ヒロインの周囲の人物造形が、似ています。
 まず、ヒロインの年齢(設定)が、両作品で同じです。リミットちゃんは、小学五年生です。チックルとチーコも、小学五年生ですね。
 チックルは、魔法の国の人間なので、本当の年齢は、不明です。とはいえ、外見は、チーコと同い年くらいに見えます。行動からして、精神年齢も、小学五年生くらいのようです。

 ヒロインたちは、小学生ですから、毎日、小学校へ通います。必然的に、小学校のクラスメイトと過ごす時間が多くなり、物語に、よく登場します。
 クラスメイトの中で目立つ人物の造形が、『ミラクル少女リミットちゃん』と、『魔女っ子チックル』とで、そっくりです。

 『リミットちゃん』には、石橋 隆太という男子が登場します。彼は、(今では、死語かも知れませんが)ガキ大将です。力が強く、喧嘩に強く、通称ボスと呼ばれ、何人かの子分をいつも従えています。
 隆太は、ただ威張り散らすだけではなく、思いやりもあります。クラスの男子の中のリーダーです。

 いっぽう、女子の中では、竹下 光子という子が目立ちます。どちらかというと、悪目立ちです(^^;
 お金持ちのお嬢さまなのですが、性格が意地悪です。勝手にリミットちゃんをライバル視して、何かと張り合います。彼女には取り巻きの女子たちがいて、その取り巻きたちと一緒に、リミットちゃんを陥れようと画策します。

 ガキ大将という人物造形、最近の子供向け作品では、珍しいのではないでしょうか?
 それに対して、竹下光子のような、ヒロインのライバルお嬢さまは、最近はやりの「悪役令嬢」そのものですね。

 私は、以前、『魔法少女の系譜』シリーズで、「『王家の紋章』のアイシスが、現在の悪役令嬢の原形ではないか?」と書きました。
 ところが、『ミラクル少女リミットちゃん』の竹下光子は、『王家の紋章』のアイシスよりも、先に登場しました。

 『王家の紋章』のアイシスが、現在の悪役令嬢のイメージ作りに、大きな役割を果たしたことは、疑っていません。
 けれども、悪役令嬢の原形としては、『リミットちゃん』の竹下光子のほうが、明らかに、先です。『王家の紋章』の連載が始まったのは、昭和五十一年(一九七六年)で、『リミットちゃん』より、三年後ですから。
 『リミットちゃん』の竹下光子は、「お金持ちで、育ちの良いお嬢さまなのに、性格が悪くて、ヒロインに対して意地悪。周囲に取り巻きの女子がいる」という、二〇二〇年現在の悪役令嬢の性質を、昭和四十八年(一九七三年)の時点で、完全に、備えています。

 古典作品の中では、悪役令嬢の原形は、『源氏物語』の弘徽殿の女御【こきでんのにょうご】まで、さかのぼれます。
 現代作品の中では、『ミラクル少女リミットちゃん』の竹下光子が、最初期の悪役令嬢の一人だと思います。二〇二〇年現在からは、三十七年前ですね。

 話を戻して、『魔女っ子チックル』では。
 やはり、ガキ大将の男子が登場します。山谷ドン太という、チックルたちのクラスメイトです。力が強くて乱暴者であること、にもかかわらず思いやりもある点が、『リミットちゃん』のボスこと石橋隆太と、まったく同じです。子分たちを引き連れる点も、隆太とドン太とで、同じです。

 そして、矢野さとみという「悪役令嬢」も、登場します。大金持ちのお嬢さまなのに、性格が悪く、チックルやチーコと仲が悪いです。何人もの取り巻き女子がいる点も、『リミットちゃん』の竹下光子と、そっくりです。

 『魔女っ子チックル』と、『ミラクル少女リミットちゃん』とでは、他にも、「クラスの女子憧れの格好いい男子」など、共通する要素を持つ人物が登場します。
 なぜ、こんなに似ているのでしょうか?

 『魔女っ子チックル』は、『魔女っ子メグちゃん』以来、約三年ぶりの「魔女っ子テレビアニメ」でした。久しぶりに「魔女っ子アニメ」を製作するにあたり、先行する「魔女っ子アニメ」を、いろいろ研究したでしょう。
 ヒロインを小学五年生に設定したことで、同年齢のヒロインが登場する『リミットちゃん』が、大いに参考にされたのではないでしょうか。

 もちろん、これだけ人物造形が共通していても、『リミットちゃん』と『チックル』とでは、違いもあります。
 例えば、『チックル』のガキ大将であるドン太は、チックルの喧嘩相手でもあります。活発で気の強いチックルは、男子相手に、平気で喧嘩するのですね。それまでの「良い子」の魔女っ子では、考えられません。リミットちゃんは、ボスこと石橋隆太に意見することはあっても、喧嘩相手とまでは言えません。
 もっとも、チックルとドン太とは、喧嘩しながらも、互いを認めています。本気で喧嘩しているというよりは、喧嘩友達です。チーコが、チックルをたしなめつつ、はらはらしつつ、それを見ています。ダブルヒロインの面白さが出ています(^^)

 チックルが、ドン太と喧嘩するほど強いためか、「悪役令嬢」の矢野さとみは、直接、チックルやチーコに手を出すことは、ほとんどありません。チックルやチーコ以外のクラスメイトに、矢野さとみと取り巻きたちが意地悪をして、それに対して、正義感の強いチーコやチックルが抗議する、という形で、険悪になることが多いです。
 「正面切って喧嘩したら、チックルとチーコには敵わない」と、矢野さとみはわかっているのでしょうね。取り巻きたちと、ひそひそ悪だくみをして、チックルとチーコを陥れようとします。

 『リミットちゃん』の竹下光子は、直接的に、リミットちゃんに対して、意地悪をすることが多いです。リミットちゃんがサイボーグ少女であることは秘密なので、光子は、普通に、リミットちゃんに勝てると思っているのでしょう。

 『魔女っ子チックル』の基本は、伝統的な口承文芸にある異類来訪譚です。とはいえ、先行する漫画や魔女っ子アニメや、実際の芸能界などを参考にして、現代ふうに―一九七〇年代ふうに―作られたアニメ作品でした。

 『魔女っ子チックル』について調べる過程で、二〇二〇年現在の「悪役令嬢」の原形に行き当たったことは、思いがけない収穫でした。『チックル』の矢野さとみが、『リミットちゃん』の竹下光子を基にしていることは、間違いないでしょう。

 気になるのは、『リミットちゃん』の時点で、竹下光子の造形が、すでに、「定型っぽい」ことです。竹下光子も、「誰か」をモデルにしている気がします。
 『ミラクル少女リミットちゃん』より前の作品で、竹下光子のようなキャラクターが登場するものがあったら、教えて下さい。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『魔女っ子チックル』を取り上げます。



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