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魔法少女の系譜、その84~『赤外音楽』~


 今回も、前回に続き、『赤外音楽』を取り上げます。八つの視点で、『赤外音楽』を分析してみます。

 その前に、少し、触れておきたいことがあります。
 前回までで、『赤外音楽』のあらすじを知った方は、『赤外音楽』を、まぎれもなく、「SFジュヴナイル」だと受け取ったことでしょう。その定義は、間違っていません。
 けれども、実際にドラマを見てみると、かなり怖いのです。「SFジュヴナイル」であるとともに、「ホラー」の要素もあります。

 主人公の法夫の目で見れば、周囲の人々が、次々と失踪したり、記憶喪失になったり、おかしなことを言い始めたりします。何かが起きていることは明らかなのに、その「何か」が、何なのか、最後のほうまで、わかりません。
 これが、とても怖いです。自分も、どこかへさらわれてしまったり、記憶喪失になったり、頭がおかしくなったりするかも知れないのに、それを防ぐ手立てがない状態ですから。

 それに、「ミュータント科学研究所」の不気味さときたら!
 前回に書いたように、ミュータント科学研究所の内部は、真っ赤です。所員たちの服装も、真っ赤です。視覚的に、不気味さを掻き立てます。
 ミュータント科学研究所は、そもそも、どこにあるのか、よくわかりません。中学生の法夫たちは、東京タワーからマイクロバスに乗せられて、拉致されるようにして、研究所へ連れて行かれます。建物に入ってエレベーターに乗ると、建物の高さからして、あり得ない位置まで、エレベーターが昇ってゆきます。そして、扉が開くと、そこが、ミュータント科学研究所です。

 さらに、ミュータント科学研究所の所長の火尻は、演じているのが、天本英世【あまもと ひでよ】さんなんですね。あの、『仮面ライダー』の死神博士です。
 これがもう、はまり役でして(^^) 天本さん御自身は、不本意だったようですが、日本で最高にマッドサイエンティスト役が上手い役者さんは、天本さんだったと思います。
 すごく頭が良さそうだけど、何を考えているかわからない、不気味なマッドサイエンティストぶりが、また、恐怖をあおります。天本さんは、実際にとても頭が良い方でしたから、「マッドであっても優秀なサイエンティスト」を演じられたのでしょう。

 最後のほうになって、火尻たちの正体や目的がわかってからは、別の恐怖が、法夫や妙子を襲います。
 何しろ、「このままでは、地球が滅びる」というのですからね。自分たちは、火尻に助けてもらえるとはいえ、「赤外音」が聞き取れない人間は、家族でも、助けられないと言われてしまいます。法夫と妙子とは、家族を置いて自分たちだけ助かるか、家族と共に自分たちも滅びるか、究極の選択を迫られます。

 法夫と妙子とは、結局、地球に残ることを選びます。それは、簡単なことではありませんでした。決めるまでに、ものすごく葛藤します。
 法夫は、家族と一緒に助かりたくて、何とか、家族に、「赤外音」を聞き取らせようとします。しかし、何回試しても、家族は、「何も聞こえない」と言うばかりです。法夫は、悲しみと恐怖で、「なぜ、なぜ、聞こえないんだ!」と叫びます。
 法夫も妙子も、中学生ですからね。中学生の段階で、家族と一生離れ離れになり、故郷へも一生帰れないといわれたら、こういう反応になるのが、普通でしょう。

 二〇一八年現在に、振り返って見れば、『赤外音楽』は、「SFジュヴナイル」だったなあと思います。
 でも、昭和五十年(一九七五年)当時に、このドラマを見ていた子供たちは、何よりも、「怖さ」が印象に残ったのではないでしょうか。
 妙子が超能力を使う場面も、「すごい」よりは、「怖い」という印象です。法夫にしてみれば、いつも自分のそばにいて、気安く話せる同級生だった妙子が、突然、超能力を使うのですから。

 例えば、同時代の魔法少女ものである『超少女明日香』のヒロイン、明日香と比べて、『赤外音楽』の妙子には、わくわく感がありません。
 明日香は、世のため人のためだけに、超能力を振るいます。すぱっと格好よく、わかりやすい正義の味方です。妙子の超能力は、同じように人を救っても、「わけのわからないもの」です。超能力が使えない他の人間を、蔑視する雰囲気までが漂います。部分的に、火尻に心を乗っ取られて、地球の大部分の人々を見捨てようとするかのようです。

 こうして見ると、『赤外音楽』には、魔法少女的存在は登場するものの、「魔法少女もの」とは言いがたいです。物語の主題は、そこにはないからです。むしろ、ホラーの要素が強いです。次に、SFジュヴナイルの要素が来ます。
 これを踏まえたうえで、八つの視点で、『赤外音楽』の超能力少女=魔法少女、妙子を分析してみましょう。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。


[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 これが、はっきりしません。妙子の超能力は、生まれつきあったものが、火尻たちによって目覚めさせられたのか、火尻たちに出会ったことによって生じたのか、どちらなのか、わかりません。
 妙子が、「赤外音楽」を聞き取れたのは、生まれつきでしょう。だとすると、「生まれつきの能力が、火尻たちに目覚めさせられた」のほうが、近い気がします。

 どちらにせよ、ある程度は生まれつきの才能がなければ、妙子の超能力は、発現しなかったと思われます。妙子は、「生まれつき型」の魔法少女の一種でしょう。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 物語では、大人になった妙子は、描かれません。妙子の超能力が、大人になってどうなるかも、まったく、情報がありません。したがって、これについては、皆目わかりません。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 妙子は、変身はしません。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 妙子は、魔法の道具は持ちません。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 妙子は、マスコットを連れていません。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 妙子は、呪文を唱えません。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 「赤外音楽」を聞き取れる能力は、同じ能力を持つ相手以外には、決してしゃべらないようにと、火尻に口止めされます。妙子は、それを守って、法夫などの仲間以外には、しゃべりません。

 「赤外音楽」を聞き取れる能力以外の妙子の超能力は、法夫だけが目撃します。法夫は、それを、他の人にはしゃべりません。

 妙子の超能力=魔法は、仲間うち以外には、秘密にされています。したがって、物語は、仲間うち―主に、法夫―の視点で進みます。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 「赤外音楽」を聞き取れる女性は、妙子以外にも、複数人存在します。この意味では、「魔法少女」は、妙子一人ではありません。
 それ以外の超能力については、発揮するのは、妙子だけです。他の女性たちが、妙子と同じような能力を持つのかどうかは、情報がありません。持っていてもおかしくないとは言えます。

 『赤外音楽』には、複数の「魔法少女」が登場すると言えるでしょう。それらの中で、最も目立つのが、妙子です。


 妙子は、わからないことが多い魔法少女ですね。彼女の超能力の由来すら、はっきりしません。成長してどうなるのかも、わかりません。
 変身しないのは、古典的な魔法少女といえますね。
 魔法の道具や、呪文を使わない点、マスコットがいない点は、多くの超能力少女と、共通します。
 妙子の超能力は、普通の人には―家族にさえも―、秘密にされています。けれども、同じ能力を持つ法夫には、秘密になっていません。『赤外音楽』が、ダブル主人公であることが、ここで生きてきます。物語は、主に法夫の視点で進みます。

 「赤外音楽」を聞き取れる女性が、複数いる点が、昭和五十年(一九七五年)当時の魔法少女ものとしては、斬新です。「魔法少女」が、一人だけではないのですからね。
 妙子以外の女性たちが、妙子のような超能力を発揮して活躍していたら、『赤外音楽』は、「複数の魔法少女が活躍する魔法少女もの」として、歴史に残る作品になったでしょう。実際には、そうなっていませんが、その萌芽を秘めた作品でした。

 全体的に、『赤外音楽』の妙子は、古典的な「超能力少女」といえますね。
 ヒロイン以外の魔法少女の可能性を見せた作品として、『赤外音楽』は、記憶されていいと思います。
 『赤外音楽』は、「ホラーとしての魔法少女作品」という面で、新しいものを見せてくれました。同時代の魔法少女もの『エコエコアザラク』と、やや通じるところがあるかも知れません。『エコエコアザラク』のほうが、もっと強烈に怖いですし、ヒロインが、とんでもないダークヒロインですが。

 『赤外音楽』については、ここまでとします。
 次回は、別の作品を取り上げる予定です。



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