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魔法少女の系譜、その148~『七瀬ふたたび』~


 今回は、前回までとは違う作品を取り上げます。セイカのぬりえシリーズの世界から、テレビの世界へ戻ります。
 取り上げるのは、『七瀬ふたたび』です。NHK少年ドラマシリーズの一作です。昭和五十四年(一九七九年)の八月に、全十三回で放映されました。

 昭和五十四年(一九七九年)と言えば、ぬりえの『チャームペア』第二期の『キャシー&ナンシー』が、売り出されている最中です。テレビの世界では、大場久美子さん版の『コメットさん』を放映中です。アニメの『魔女っ子チックル』は、昭和五十四年(一九七九年)の一月に放映を終えていて、直接、『七瀬ふたたび』とは、放映期間が重なりませんでした。

 魔法少女ものではありませんが、昭和五十四年(一九七九年)は、アニメの『ベルサイユのばら』が放映された年でもありました。そして、『機動戦士ガンダム』、いわゆる「ファーストガンダム」が放映された年でもあります。

 『タイムボカンシリーズ』で、大人気を博した『ヤッターマン』は、昭和五十四年(一九七九年)の一月に、放映が終わりました。『七瀬ふたたび』が放映された八月には、『ヤッターマン』の直系の子孫『ゼンダマン』を放映していました。

 そんな時代に放映された『七瀬ふたたび』は、NHK少年ドラマシリーズの中の、傑作の一つとされます。しかし、異色の作品でもあります。
 『七瀬ふたたび』は、火田七瀬【ひた ななせ】という女性が主人公です。番組が始まった時点で、二十歳という設定です。そう、彼女は、少女ではなくて、成人女性なのですね。「少年」ドラマシリーズなのに、成人が主人公なのは、珍しいです。
 ちなみに、主役の火田七瀬を演じたのは、若かりし頃の多岐川裕美さんです。

 『七瀬ふたたび』という題名からは、ヒロインの七瀬が活躍する番組が、以前にあったことが、うかがわれますね。
 ところが、NHK少年ドラマシリーズでは、『七瀬ふたたび』より前の七瀬が登場する番組は、作られていません。
 NHKではなく、TBSの『東芝日曜劇場』で、『七瀬ふたたび』より前の七瀬が登場するドラマが作られました。『芝生は緑』という題名のドラマです。
 『芝生は緑』には、原作小説があります。筒井康隆さんの小説『家族八景』です。

 『七瀬ふたたび』にも、同名の原作小説があります。その原作小説は、『家族八景』の後日談という形でした。やはり、筒井さんの作品です。
 つまり、TBSの『東芝日曜劇場』のドラマの続編が、なぜか、NHK少年ドラマシリーズで作られることになったのでした。
 ただし、制作されたのは、NHKの『七瀬ふたたび』のほうが、先だったそうです。放映期間が、『芝生は緑』のほうが先になったため、物語中の時系列どおりに、『七瀬ふたたび』が、続編のような形になりました。

 『家族八景』は、超能力(テレパシー)を持つ少女が、主人公です。この少女こそ、火田七瀬です。小説の『七瀬ふたたび』は、少女だった七瀬が、成長した姿を描いた作品です。だから、『七瀬ふたたび』です。

 「少年」ドラマシリーズなら、当然、『家族八景』のほうを、ドラマ化すべきだったと思いますよね。それが、なぜか、超能力少女の七瀬が登場する『家族八景』は、NHK少年ドラマシリーズでは、ドラマ化されませんでした。いきなり、続編の『七瀬ふたたび』が、ドラマ化されました。

 ドラマの『七瀬ふたたび』を語るには、まず、小説の『家族八景』を語らなければなりません。
 『家族八景』・『七瀬ふたたび』の小説は、どちらも、筒井康隆さんの作品です。NHK少年ドラマシリーズで、筒井康隆さんと言えば、何よりも、シリーズ最初の作品『タイム・トラベラー』が思い浮かべられますね。
 『タイム・トラベラー』の原作小説『時をかける少女』は、一九六〇年代に書かれた作品です。にもかかわらず、二〇二〇年の今もなお、ジュブナイル小説の最高峰の一つとされます。「日本最初のライトノベル」ともいわれますね。
 『時をかける少女』は、筒井さんの作品としては珍しく、毒のない、まっすぐな青春小説でした。
 それに比べると『家族八景』は、同じ超能力少女が主人公の作品でも、だいぶ毒があります。筒井さんの作品としては、「通常営業」な感じです。

 『家族八景』の火田七瀬は、高校を出てすぐに、働いています。職業は、住み込みのお手伝いさんです。
 『魔法少女の系譜』シリーズを読んで下さっている方なら、はっとするでしょう。日本の魔法少女の職業として、「お手伝いさん」は、王道ですよね。初代『コメットさん』のコメットも、『魔女はホットなお年頃』のこん子も、『超少女明日香』の明日香も、お手伝いさんでした。火田七瀬も、この王道の系譜に連なります。
 『家族八景』は、短編小説集です。その最初の短編が世に出たのは、昭和四十五年(一九七〇年)です。初代『コメットさん』の放映が始まった三年後で、『魔女はホットなお年頃』の放映と同時期でした。

 以前に書きましたとおり、初代『コメットさん』の「ヒロイン=お手伝いさん」設定は、ディズニーの実写映画『メアリー・ポピンズ』に由来します。日本の「魔法少女お手伝いさん」の源流は、『メアリー・ポピンズ』です。

 『家族八景』は、短編ごとに、舞台が違います。ヒロインの七瀬は、それぞれ、違う家庭に住み込んで、お手伝いさんをします。
 七瀬にはテレパシー能力があり、読みたくないのに、他人の心が読めてしまいます。むろん、彼女は、そのことを隠し通します。けれども、どうしても、テレパシー能力ゆえのトラブルに巻き込まれてしまい、次から次へと、住み込む家庭を変えることになります。
 最後の短編で、家庭のトラブルに巻き込まれることに嫌気がさして、七瀬は、お手伝いさんを辞めることを決心します。

 『家族八景』では、恵まれているように見える家庭内の、醜い確執が書かれています。七瀬は、テレパシー能力を持つために、見たくもないそういう確執まで、見てしまいます。
 また、七瀬は、自分がそう望んだわけでもないのに、美少女です。美少女が、突然、縁のない一般家庭に入れば、何かとトラブルが予想されますよね。美少女ゆえのトラブルにも遭って、七瀬は、心底、お手伝いさんをやるのが嫌になります。
 小説の『家族八景』は、シリアスで、重いドラマを含みます。しかし、テレビドラマ化された『芝生は緑』は、コメディ調の明るい作品だったようです。

 小説の『七瀬ふたたび』は、昭和四十七年(一九七二年)から連載され、昭和四十九年(一九七四年)に完結しました。単行本は、昭和五十年(一九七五年)に出ています。その四年後に、NHK少年ドラマシリーズで、ドラマ化されました。
 『七瀬ふたたび』は、小説もドラマも、お手伝いさんを辞めた七瀬が、列車に乗っている場面から始まります。小説では、母の実家がある北海道へ行く途中となっていますが、NHK少年ドラマシリーズの『七瀬ふたたび』では、これと言って、行くあてがないようです。
 以下、NHK少年ドラマシリーズの『七瀬ふたたび』について、あらすじと設定を書きます。

 七瀬は、列車の中で、偶然、予知能力者の岩淵恒夫という青年と、七瀬と同じテレパシー能力者のノリオという少年に出遭います。恒夫は、自分が乗る列車が事故を起こすことを予知していました。七瀬とノリオとは、恒夫の予知をテレパシーでキャッチしました。
 このまま列車に乗っていてはいけないと思った七瀬は、恒夫とノリオと一緒に、強引に下車します。ノリオはまだ小学生の少年なので、無理やり、保護者から引き離すことになってしまいました。ただし、ノリオ自身は、事故の光景をテレパシーで見ているので、下車することに同意します。
 七瀬と恒夫とノリオとは、旅館に到着しますが、そこでトラブルがあり、七瀬とノリオとは、恒夫とはぐれてしまいます。七瀬は、ノリオと親子であるように偽装するため、人の多い東京へ戻って、バーでホステスとして働きます。そのバーで、七瀬は、念動力を持つヘンリーという青年と出遭い、心を通わせます。
 そんなある日、恒夫が七瀬のアパートを訪ねてきます。これをきっかけに、また、七瀬とノリオと恒夫とは、連絡を取り合えるようになります。

 なお、ヘンリーは、黒人男性という設定です。テレビドラマでも、黒人男性の俳優さんが演じました。昭和五十四年(一九七九年)の段階で、日本のテレビドラマに黒人が登場することは、極めてまれでした。二〇二〇年現在でさえ、まれですものね。日本のテレビドラマに黒人が登場した、初期の例です。

 七瀬は、また、バーで、西尾という透視能力者にも出遭います。西尾は、残念ながら、悪人でした。西尾のせいでトラブルに巻き込まれ、七瀬とノリオは、ヘンリーも連れて、北海道へ逃げます。
 なぜ北海道かと言えば、恒夫が、「おれたちは北海道に行く」と予知していたからです。
 北海道へ行く途中のフェリーで、七瀬たち三人は、漁藤子【すなどり ふじこ】という女性に遭います。彼女は、タイムトラベル能力を持つ超能力者でした。藤子も一行に合流して、四人で、北海道へ上陸します。北海道で、恒夫も合流します。

 超能力者であることで、さんざん嫌な目に遭ってきた七瀬たちは、北海道で、人目につかないように、ひっそりと共同生活をしようと考えていました。超能力を持つ自分たちは、同じ先祖を持つのではないかと、七瀬は推理します。藤子は、それを確かめるために、過去へとタイムトラベルします。
 現在に戻ってきた藤子が言うには、やはり、自分たちは、同じ先祖を持っていたと。その人物は、約五百年前に、北海道で暮らしていたと。

 そこへ、山村というルポライターが現われます。山村は、七瀬たちが乗っていた列車が事故に遭った時から、七瀬たちの行動を不審に思い、追い続けてきたのでした。七瀬は、自分たちをそっとしておいて欲しいと、山村に懇願します。山村は、真相を知りながらも、七瀬の懇願をいれて、書くことを断念します。

 七瀬たちは、北海道の土地を買って、そこで共同生活をしようとしますが、それには、お金が足りません。お金を稼ぐために、七瀬は、一人、本州へ戻ります。そして、再び、あんなに嫌だったお手伝いさんの仕事をすることになります。
 けれども、やはり、そこでもトラブルが起こり、七瀬はお手伝いさんを辞めます。

 次に、七瀬は、山村と一緒に、マカオへ向かいます。マカオのカジノで、超能力を使って、儲けようというのです。確かに儲けましたが、カジノの経営者に怪しまれます。しかも、その経営者の背後には、超能力者を抹殺しようとする勢力がいました。七瀬と山村は、危ういところでマカオを脱出し、日本へ戻ります。
 その時、ヘニーデ姫という日本人女性も、彼らと一緒でした。

 日本へ戻っても、超能力者抹殺集団の魔の手が、七瀬たちに迫ります。ヘニーデ姫が射殺され、七瀬は、かろうじて追っ手をかわして、北海道へ渡ります。そこで、恒夫、ノリオ、ヘンリー、藤子と再会します。
 しかし、恒夫は、自分の死を予知していました。予知のとおり、超能力者抹殺集団に襲われて、恒夫は絶命します。
 超能力者抹殺集団は、町の人々に七瀬たちの悪い噂を流して、七瀬たちを追いつめます。

 北海道へ、七瀬を追って、山村もやってきました。彼は、自分が七瀬をマカオに連れて行ったのが悪かったと、自責の念を感じていました。このために、最後まで、七瀬たちと行動を共にしようと決意します。
 藤子もヘンリーも七瀬も、必死に抗いますが、藤子、ヘンリー、ノリオと、次々に死んでしまいます。山村も、襲われて意識を失います。最後に七瀬も射たれ、仲間たちの幻を見ながら、黄泉路をたどります。

 山村が意識を取り戻した時は、彼以外の全員が死んでいました。山村は、一人、北海道の町を去ってゆきます。

 すごく重くて、つらい話なんですよね……。
 今回は、ここまでとします。
 次回も、『七瀬ふたたび』を取り上げます。



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