おたつ

エッセイ、ときどき本と映画のお話。

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マガジン

  • 妄想本棚

    もうそう-ほんだな【妄想本棚】[名] 勝手にある人の本棚を妄想すること。また、その本棚。

最近の記事

私が高校生に伝えたかったこと

先日、高校2年生の進路講演にお呼ばれし、「地元企業に勤める20代の社会人」として、高校生400名にお話ししてきました。 その中で、今私の中で最もアツいことを、特に力説したので、そのお話を紹介します。 こんな感じで話をしました進路講演はパネルディスカッション形式で、私が20代、他に30代、40代の方がいらっしゃいました。皆さん地元に根ざした活動をされている方です。 3人のパネラーの他に、ファシリテーターの方がいらっしゃって、パネラーに話を振ってくださります。(話すことだけに集

    • 月と女優|ショートショート

      「明日からムーンウッドへの移動ですが、準備はできていますか?」 佐々木は、尋ねた。鏡を覗き込んでいたアリサは、顔も上げずに「んー」とあいまいな音で返事をした。佐々木は長いマネージャー経験から、イエスの意味だと理解した。 トム・クルーズが初めて宇宙での映画撮影をしてからもう十年以上が経つ。いわゆる「宇宙ロケ」は、はじめこそハリウッドの独壇場だったが、一般旅行客向けのサービスが拡大するにつれて、より気軽に可能になった。早乙女アリサのような日本の若手女優にも、「ムーンウッド」と

      • とわ子とか、コントとか、人生とか

        2021年の春のドラマは、「伏線回収」が話題だった。 中でも『大豆田とわ子と三人の元夫』と『コントが始まる』のふたつは、私も一週間の糧となるほど楽しみにしていた。ふたつとも、伏線回収が見事な作品、とSNSを賑わせていた。「その通り!」と思うものの、どこか少しだけ違和感がある。 「伏線回収」と言えば、ポッドキャストの『東京ポッド許可局』の2年前の「伏線回収論」を思い出す。 この論の中で、リアルな人生の中での伏線回収について、「回収されないであろう」という前提と、それが回収さ

        • 健康に気を遣う犬

          前に、我が家の犬のことを書いた。 この時書かなかった、彼の最も犬らしくない一面を紹介したい。 彼は健康に気を遣っている。まぁ、本人がそう言ったわけではないので、厳密にはそうでないかもしれない。でも、彼を見ていると、どうすれば健康的な毎日を過ごせるのかがわかる。これは断言できる。 犬の健康法 その1 朝日を浴びる彼の家は、我が家の中でも南東角地に位置していて、よく朝日が入った。彼はそれを毎日欠かさずに浴びていた。熱心に。もしかして、犬なのに光合成ができるのではないか?と疑

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        • 妄想本棚
          2本

        記事

          何かを学びたい人が身につけるべきたったひとつのスキル|独学大全

          今回読んでいる本はこちら▼ 本書『独学大全』の第2部に来て、ようやく何を学べばよいのか?という疑問にぶち当たる。第1部では、せっせと志を立て、動機付けを磨き、継続のための習慣化の方法を知った。さあ、何を学ぼうか。 知りたいこと、学びたいことを発見するには、調査が必要だ。これから学ぶ上で最も必要となるもの、それが【調べもののスキルとノウハウ】だ。 調べものは、あなた個人としてではなく、人類としてどれだけの知識を有しているかを参照する技術であり、社会としての認識を下支えする

          何かを学びたい人が身につけるべきたったひとつのスキル|独学大全

          勉強時間が足りない人のための時間錬金術|独学大全

          今回読んでいる本はこちら▼ 社会人になって、勉強したいという気持ちの最大の敵は、時間だ。 働きながらこの分野の勉強をして、こんなふうにステップアップして、それをきっかけに転職なんかしちゃったりして、その後こうなって……と想像するものの、現実世界で目の前に立ちはだかるのは、勉強よりも楽しそうな娯楽の数々。疲れた体でベッドに横になりつつ思うのだ、明日は頑張る、と。 そうやって1日1日と先延ばしにしていると、1年というのはあっという間だ。 時間を確保する。これが最優先事項だ。処

          勉強時間が足りない人のための時間錬金術|独学大全

          映画が好きなのではなくて、映画館が好き

          映画が好きなのではなくて、映画館が好き、なのではないか、と最近思った。 映画館に一歩足を踏み入れると、ポップコーンの甘い香りが鼻腔を満たす。 開場前にポスターやチラシを眺めながら、公開予定作品の情報を集める。 席に座り、上映前の予告編を見て、次はこれを観ようかなとぼんやり考える。 劇場内がだんだん暗くなっていくのと比例するように、高揚感が高まっていく。 エンドロールが終わると、劇場を出る。少しだけ足元は浮ついていて、余韻が漂う。 もちろん、映画も好きだ。でも、映画を観るこ

          映画が好きなのではなくて、映画館が好き

          妄想本棚|スネイプ編 『スピナーズ・エンドの自宅の本棚』

          『妄想本棚』は、ある人の本棚を勝手に妄想するシリーズです。 本棚を人に見られると恥ずかしい、本棚は人となりを表す、みたいなことの逆をやってみました。 今回は、『ハリーポッター』シリーズのゼブルス・スネイプ編。 暗いスピナーズ・エンドの自宅の本棚にある4冊を勝手に妄想。本棚は隠し扉になっているので、閲覧には注意が必要。※本は架空です。 ①『瓶詰めの名声、醸造した栄光』魔法薬学の第一人者の歴史的名著。著者は純血。ホグワーツの学生時代に、熱心に読んだ。 ハリー・ポッターの最

          妄想本棚|スネイプ編 『スピナーズ・エンドの自宅の本棚』

          勉強がうまくいったことが2回ある|独学大全

          今回読んでいる本はこちら▼ 私には学ぶことに成功した体験が2回ある。 ひとつは、大学受験。 高校時代はかなり勉強していた。習慣化していて、苦でもなかった。当時、毎日問題集を○ページ解く、のように、ノルマを決めて勉強していた。 もともと、毎日のルーティンをこなしたり、コツコツと何かをやることが得意なのだ。勉強をする中で、自分の特性に気づけたことは、勉強を頑張っていてよかったことの一つだ。 本書にも、小さな目標を立てることは、動機付けを高めるための技法として紹介されている。

          勉強がうまくいったことが2回ある|独学大全

          青い志|独学大全

          今回読んでいる本はこちら▼ 何か学びたい、人生を消費に費やさず何か価値あるものを得たい、とはやる気持ちを抑えつつこの本を手に取った私に、本書が提示するひとつ目の独学の技法は【立志】だ。 まずは自らの学びの動機と向き合え、と説く。 志を立てることは誰もが行う。ぜひそうしろと多くの者が勧める。今がどれだけ受け入れ難い状態でも、目指そうとする未来は理想的で美しい。立志には、いい気分になれる、という効果がある。しかし志すだけでは、得られるのはこの気分だけだ。 (p67) また

          青い志|独学大全

          独学の道も一歩から|独学大全

          今回読んでいる本はこちら▼ 本書は、独学を始めようとする人を支援するための本だ。しかし、同時に独学者に対して手厳しい。 まずその分厚さが、独学者を全力で威嚇してくる。「君が今から登ろうとしている山はこれだ」と。立てれば自立する本書は、ページ数にして索引を除いて752ページ。同じくらいの分厚さを誇るのは、家庭の医学か六法全書か広辞苑くらいという強者だ。 めくると、「無知くんと親父さんの対話」という挿絵付きのコラムからスタートする。なんだ読みやすそうじゃないか、と思うや否や、

          独学の道も一歩から|独学大全

          食卓のスター|問いのデザイン

          今回読んでいる本はこちら▼ 課題を定義するためには、まず目標を整理する。目標は、その性質によって「成果目標」「プロセス目標」「ビジョン」に分けて整理できる、とある。 「成果目標」とは、設定した期間において、最終的に到達したい個人や組織の状態や、最終的に生み出したい成果物の要件や質を規定したものです。(中略) 「プロセス目標」とは、成果目標に辿り着くまでに、問題状況の当事者たちにどのような気づきや学習が生まれると望ましいか、当事者たちの間にどのようなコミュニケーションが生ま

          食卓のスター|問いのデザイン

          ドーナツの穴は色眼鏡|問いのデザイン

          今回読んでいる本はこちら▼ 本書の2章に、私の好きな本が引用されていた。 『ドーナツを穴だけ残して食べる方法:超越する学問ー穴からのぞく大学講義』である。大阪大学のさまざまな専門分野を持つ研究者が、同じ問い「ドーナツを穴だけ残して食べるにはどうすればいいか?」に、その分野の視点から挑むもので、以前新聞の書評欄で見つけて買っていた。 そのお題のばかばかしさからは想像できない、内容の面白さに惹かれ、事あるごとにいろんな人に紹介してきた本だった。特に、数学の研究者の「4次元空間

          ドーナツの穴は色眼鏡|問いのデザイン

          思考の補助線|問いのデザイン

          今回読んでいる本はこちら▼ 本書には、はじめの方にこんな2つの問いが載っている。 A .あなたがこの本を手に取った理由は? B .あなたがこの本を読み終えるころに得ていたいものは? (p22) AとB、2つの問いは何かが違う。 いや、決定的に違う。 本の中の解説では、Aは「過去」に向けた問い、Bは「未来」に向けた問いである、とある。そして2つとも「この本を読む動機」について尋ねている点では共通している。 おー、たしかに! Aでは、この本を手に取るまでの思考回路や、ど

          思考の補助線|問いのデザイン

          積ん読に挑む

          積ん読が溜まってきている。 ちょっと油断すると、さらにパワーアップした「包ん読」まで出現したりする。 嗚呼、情けない。 よし、積ん読に挑もう。 とはいえ、そんな決意はこれまでにもしてきた。 そこで、積ん読の山の中でもとりわけ巨大な岩を手に取った。 『独学大全』である。 【技法13 ゲートキーパー】 人間の意思は弱い。(中略)この事実を承認し、今度は我々が社会的な「オデュッセウスの鎖」をデザインする番だ。 (pp175-176) よし、このnoteを使って、積ん読を楽し

          積ん読に挑む

          こぼれる気持ち、掬う言葉

          私は形容詞が、苦手である。「楽しい」「嬉しい」「悲しい」の解像度の低さが、その「楽しさ」「嬉しさ」「悲しさ」の手触りと体温を奪ってしまう。そんな、気がしている。 出来事それ自体は、いつかの思い出になれそうなくらい、輝いている。それなのに、それを形容詞で表した途端、指の間から水がこぼれていくように、サラサラと大部分が逃げてしまう。こぼしたのは、言葉にしにくい気持ちの揺れ動きや、揺れの大きさなどだ。自分が口にした形容詞で、私自身の思い出が矮小化されてしまう。そんな悔しさを幾度と

          こぼれる気持ち、掬う言葉