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乗越たかおさんの『アポクリファ』を再読して、今後、この物語を超えるラブストーリーには、きっと出会うことはないと思った。

SNS上でしかお付き合いのないフォロワーさんと、いろいろやりとりしているうちに、いつの間にか恋しちゃってる、なんてことはないですか?

顔も知らない。
声も聞いたことがない。
性格も分からない。
年齢すらも不確かで。

ただただ、SNSで交わされる「言葉」だけをたよりに育まれる恋というのは、確かにあるのだと思います。

終電間際の優しさなんて空っぽだとお互いに知りながら惹かれ合う二人の恋を歌ったのはスーパービーバーですが、間違いなくSNSでも、それと同じようなことが、いろいろなところで起こっているはずです。

バーチャルな世界での恋愛の良し悪しは置いておいて、SNSの場合、バーチャルだけの世界じゃない、リアリティが混在してるからややこしいという話でもあると思います。

そして、今は極端な例として、バーチャルな恋愛を引き合いに出しましたが、基本、SNS上で交わされる全てのやりとりは、「バーチャルなのに、リアリティが混在している」という意味で、間違いなく四半世紀前には存在しなかった、新たな形のコミュニケーションではないのでしょうか。



という前提で、四半世紀ぶりに乗越たかおの『アポクリファ』を再読して、さっきまで僕が書いていたことが、全てこの物語の中ですでに描かれていることに驚愕させられた。

バーチャルな世界での会話。
バーチャルな世界での共感。
バーチャルな世界での居場所。
バーチャルな世界での親しみ。
バーチャルな世界での憎しみ。

そして、
バーチャルな世界での、初恋の行方。

最も好きなラブストーリーは何かと問われたら、今の僕は躊躇なく本書を挙げるだろう。

というより、おそらく。

今後、この物語を超えるラブストーリーには、きっと出会うことはないと思う。

作品の完成度云々の問題以前に、僕にとっては「僕の好きなラブストーリーの原形」と言うべき作品であり、これより優れた恋愛小説や恋愛映画はいくつかあるけど、ラブストーリーの原形と考えれば、やはりこの作品が「僕にとっての最良のラブストーリー」であることは間違いない。



過去にコメント欄で、いくつかのやり取りをさせてもらったフォロワーさんの中には、今はアカウントを削除してしまっている人が何人かいます。

当然、僕の過去のpostのコメント欄からも、その人たちとのやりとりの履歴は消えていて、ひょっとしたら僕が甘美な夢を見ていただけかもしれないと思ったりもしています。

本書を読んで感じた喪失感や切なさは、どこかで感じたことのあるものだと思いましたが、そうか、それと同じか、と納得している自分がいます。

そして。
僕だって。

いつ、この「世界」から消えてしまうかも分かりません。

そもそも、
僕がこのアカウントで書いている通りの人間だという保証だってどこにもありません。

妄想と自己演出に長けた女子高生だったとしても、おかしくはないのです。

だとすれば、この物語は、まったくの他人事とは言えないんじゃないかと、そんなことを、さっきからずっと考えています。



本書はすでに絶版となっており、そのこともあって、今まで紹介することを控えていました。

しかし、最近、著者のホームページから無料でダウンロードできることを知り、それならば一人でも多くの人に読んでいただければと思い、再読してpostすることにしました。

無料ダウンロードは、下記のホームページから。

http://www.bea.hi-ho.ne.jp/norikoshi/profile.html#apo

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