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海猫沢めろんさんの『愛についての感じ』を読んで、恋でも愛でも友情でもない「名付けようのない何か」の美しさと切なさに泣きそうになった。


あの日、あのとき、
あの人に触れてしまうのが怖かったのは、僕が臆病なだけではなかったのかな、とそんなことをほんのり酔った頭でぼんやりと考えている。

あの日、あのとき、
伝わらなかった想い、
伝えられなかった想い。

握れなかった手。

あれは、
恋だったのか、
愛だったのか、
何だったのか、
それに名を付けようとすることは、
本書の言葉を借りれば、
そう、つまりは「粋じゃない」。



五篇の恋物語が収録された短編集だが、最後の「新世界」がもたらしてくれる余韻は格別だ。

大阪を舞台に、大正時代から続く古い色町で働く風俗嬢と、刑務所あがりの「極道に向かない」ヤクザが織り成す、淡く切なくちょっぴり可笑しな三日間の物語。

僕はこの物語をずっとずっと、永久に読み続けていたいな、と読むたびにそう思う。

大阪西成ラブストーリー。

ラストで交わされるふたりの指切りは、恋でも愛でも友情でもない「名付けようのない何か」で、だからこそ、こんなにも泣きたくなるほどに切なく美しい。

前の四篇があまりにトリッキーな作品だっただけに、このどストレートな物語には意表を突かれつつ、でもその「ストレートさ」はトリッキーな作品たちから地続きで、この世界に馴染めないふたりのヘンコ(変わり者)の魂が一瞬触れあった瞬間の儚い美しさは、正統派のラブストーリーでは描けないものだと思う。

岡崎体育のメジャーデビューアルバムにおける「エクレア」みたいな作品だと言って伝わる人がいてくれたら、むちゃくちゃ嬉しいけど、伝わらなくても、「粋な小説」とはなんぞやと考える人にはぜひ読んでいただきたい一冊。

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