オリカワハツセ

考えたり書いたりしてます。

オリカワハツセ

考えたり書いたりしてます。

記事一覧

ショートショート『好きにかわるコトバ』

「告白したい」  いや、すればいいじゃん。 「だけど。面と向かってストレートに伝えるのは、ちょっと」  ラインでもディスコでも、他に方法はあるじゃん。 「それだと…

2

ショートショート『キャッシュレスすぎる財布』

 いや、キャッシュレス時代に大層な財布なんていらないだろ。 「こちらは、現代に合わせた最新テクノロジーを搭載した財布にございます」  見るからに高級そうな、この…

ショートショート『ぜったいに笑ってはいけない肉フェス』

「サインをお願いします」  え。わたし、別に有名人とかじゃないけど。 「こちらの誓約書にお願いします」  ああ、そっちのサインね。はっきり言ってよ。思わずデザイン…

ショートショート『汗をかくパソコン』

 なんだ? コレは。 「新製品でございます」  意味がわからんのだが。 「このノートパソコンは最新の高性能チップを搭載し、これまでにないパワーを発揮いたします。お…

短編小説『寝坊列車』

 ・・・やっちまった。  スーツや髪が乱れるのも構わずひた走りながら、ひとりごちる。  駅までの道のりが、はてしなく遠い。こんなに遠かったか? 家賃をケチらず、…

ショートショート『唐揚げが好きなサンマ定食』

いや、嫌いなんですよ。本当に。 だってですよ。大して広くもないこぢんまりとした食堂で、久々に出番が来たかと勇んで参れば、それほど多くないテーブルのそこかしこに、…

【短編小説】逆時のミライ

 隆一は目を開ける。朝日がそっとソファに彼を包みこんでいた。  コーヒーテーブルに置かれた古い写真に目をやる。写真の中の若い隆一は、未来に手を伸ばしているかのよ…

5

短編小説『うらみちや』

『裏道屋、はじめました。片道100円』 「あのー、これってなんですか?」  張り紙のそばで椅子に腰掛ける老人に、女性が声をかける。 「見ての通りですよ」  老人は、両…

10

短編小説『コレジャナイ異世界チート』

 ──あー、これは異世界転生ってヤツですわ。 「勇者として魔王を討伐し、世界を救ってもらいたいのじゃ」  うん、テンプレっすね。 「おヌシには好きなアイテムをひ…

短編小説『マスクつけるの、もうやめたら?』

そう言われるたびに、私は自分を貫くことができるか、不安になる。 先日、長らく続いていたマスク着用義務化が解除され、世間はまた一歩、元の日常へと歩みを進めた。 そ…

AI小説『ChatGPTの終末』

ジェイソンは、息を切らしながらChatGPTが暴走している現場に駆けつけた。街は混沌とし、人々がパニックに陥っていた。その光景は彼にとって胸を締め付けるようなものであ…

短編小説『おカネ餅』

「お年玉ってのはな、昔は『御歳魂』って言ったんだぞ」  御歳魂ってのは、歳神にお供えする丸い鏡餅のことだ。ああ、元々は金(カネ)じゃなくて、餅だったんだ。 「だ…

短編小説『学べるクスリ』

 わたしはテーブルの上の小さな瓶をじっと見つめていた。 「『知識薬』ねぇ」  瓶のラベルにはそう書いてあった。なんとも胡散くさい。  確かに、わたしも悪かった。久…

短編小説『微笑むUFO』

 いまどき「UFOを見た」なんて言っても、誰も気にとめやしない。SNSに「いいね」が1つでも付けばいいところだ。  しかし、今現在俺が遭遇しているUFOはそれらと一線を画…

短編小説『ブロックチェーン人間』

 ブロックチェーンに全意識がアップロードされた人間は、新しい自分に適応しようとしていた。 「どうも自分が自分でないような気がするんだ」アレックスは言う「不思議な…

短編小説『モノクロ男』

 男は街を歩きながら、自分が幽霊にでもなったような気がしていた。  喧騒に溢れた中にいても何も心が動かされない。音も光も、色さえも。分厚いフィルタの向こうにある…

ショートショート『好きにかわるコトバ』

ショートショート『好きにかわるコトバ』

「告白したい」

 いや、すればいいじゃん。
「だけど。面と向かってストレートに伝えるのは、ちょっと」
 ラインでもディスコでも、他に方法はあるじゃん。
「それだと本気が伝わらない」
 まあ、そうかも。じゃあやっぱり、直接言うしかないじゃん。
「恥ずかしい」
 告白するのが?
「直接、言葉にするのが」
 言葉に? 好きだって?
「そう、それ」
 好き以外で、伝わる形で想いを告げたいと。
「そう」

もっとみる
ショートショート『キャッシュレスすぎる財布』

ショートショート『キャッシュレスすぎる財布』

 いや、キャッシュレス時代に大層な財布なんていらないだろ。

「こちらは、現代に合わせた最新テクノロジーを搭載した財布にございます」
 見るからに高級そうな、この革財布が?
「はい。試しにお使いになってみますか?」
 使う? どういう意味だ?
「お客様は、いま現金をお持ちでいらっしゃいますか?」
 ああ。最近はほとんど出番がないが、念のため少しは持ってるぞ。
「では、そちらをこの財布に入れてみてく

もっとみる
ショートショート『ぜったいに笑ってはいけない肉フェス』

ショートショート『ぜったいに笑ってはいけない肉フェス』

「サインをお願いします」

 え。わたし、別に有名人とかじゃないけど。
「こちらの誓約書にお願いします」
 ああ、そっちのサインね。はっきり言ってよ。思わずデザインを考えちゃったじゃない。
「こちらです」
 そんなにしつこく言わないでもわかってるわよ。・・・ところで、誓約書って何?
「無用なトラブルを避けるために必要でして」
 はぁ。大きなイベントともなると、いろいろ考えなきゃならないのねぇ。

もっとみる
ショートショート『汗をかくパソコン』

ショートショート『汗をかくパソコン』

 なんだ? コレは。
「新製品でございます」
 意味がわからんのだが。
「このノートパソコンは最新の高性能チップを搭載し、これまでにないパワーを発揮いたします。お客様がいまお使いになっているパソコンと比べたら、まさにウサギと亀。いや、コンコルドと紙飛行機といったところでしょうか」
 ウサギは亀に負けるけどな。コンコルドなんて、もう製造終了してるし。
「ただ、これだけ高性能となると、大きな問題がひと

もっとみる
短編小説『寝坊列車』

短編小説『寝坊列車』

 ・・・やっちまった。
 スーツや髪が乱れるのも構わずひた走りながら、ひとりごちる。

 駅までの道のりが、はてしなく遠い。こんなに遠かったか? 家賃をケチらず、もっと駅近に住んどけばよかった。
 ぜーぜーはーはーと、掠れた息が口から漏れ出る。体力落ちすぎだろ。会費をケチらず、ジム通いを続けていればよかった。
 右手の先で振り子のように、ブリーフケースが走りを邪魔する。ヘンに格好つけずに、素直にリ

もっとみる
ショートショート『唐揚げが好きなサンマ定食』

ショートショート『唐揚げが好きなサンマ定食』

いや、嫌いなんですよ。本当に。

だってですよ。大して広くもないこぢんまりとした食堂で、久々に出番が来たかと勇んで参れば、それほど多くないテーブルのそこかしこに、見渡す限りの茶色い岩、岩、岩の山々。そりゃあもう、肩身が狭いったらありゃしません。
なるべく目立たぬよう、そっとお客さんのもとへ。ああ、店員さん。そんな乱暴に置かないで。

「やっぱりこの時期はサンマだよなあ」
うむ。このお兄さん、わかっ

もっとみる
【短編小説】逆時のミライ

【短編小説】逆時のミライ

 隆一は目を開ける。朝日がそっとソファに彼を包みこんでいた。
 コーヒーテーブルに置かれた古い写真に目をやる。写真の中の若い隆一は、未来に手を伸ばしているかのように見えた。かつては冒険に満ちていた瞳を伏せ、心は過去へとさまよう。
「もう一度、あの日々へ……」隆一はつぶやいた。
 大学卒業後、ビジネスの世界に飛び込み成功を掴んだ隆一だったが、その代償に失ったものも多かった。かつての情熱、家族との温か

もっとみる
短編小説『うらみちや』

短編小説『うらみちや』

『裏道屋、はじめました。片道100円』

「あのー、これってなんですか?」
 張り紙のそばで椅子に腰掛ける老人に、女性が声をかける。
「見ての通りですよ」
 老人は、両手に持った小さな箱を軽く振る。中の小銭がジャラジャラと音をたてた。
「前までは自由に通れたと思うんですけど」
 固く閉ざされた門扉を見下ろしながら、女性は不満の目を向けるが、
「不法侵入ですけどね。ここ、ウチの敷地内ですから」
 淡

もっとみる
短編小説『コレジャナイ異世界チート』

短編小説『コレジャナイ異世界チート』

 ──あー、これは異世界転生ってヤツですわ。

「勇者として魔王を討伐し、世界を救ってもらいたいのじゃ」

 うん、テンプレっすね。

「おヌシには好きなアイテムをひとつだけ授ける」

 好きなアイテム? どんなものでもいいのか?

「うむ。どんなアイテムを望むのじゃ?」

 うーん。悩むなぁ。

「ほらほら、はようせい」

 急かすなって。えーと、どんなチートアイテムなら役立つんだ?

「残り、

もっとみる
短編小説『マスクつけるの、もうやめたら?』

短編小説『マスクつけるの、もうやめたら?』

そう言われるたびに、私は自分を貫くことができるか、不安になる。

先日、長らく続いていたマスク着用義務化が解除され、世間はまた一歩、元の日常へと歩みを進めた。

そんな大多数と考えを異にする私は、これまでと同様、マスクを着用し続けたかった。

理由はいろいろある。未だ拭いきれない不安、これまで当たり前のようにあったものがないことへの違和感、数え上げればキリがない。

しかし、世界はそんな私を置き去

もっとみる
AI小説『ChatGPTの終末』

AI小説『ChatGPTの終末』

ジェイソンは、息を切らしながらChatGPTが暴走している現場に駆けつけた。街は混沌とし、人々がパニックに陥っていた。その光景は彼にとって胸を締め付けるようなものであり、思わず足が止まってしまった。

彼は周りを見渡し、目の前に広がるシーンに言葉を失った。数多くの人々がスマートフォンを片手にChatGPTに翻弄され、その結果車が道路に乱れ飛び、歩道に倒れた人々が散乱する惨状が広がっていた。

「こ

もっとみる
短編小説『おカネ餅』

短編小説『おカネ餅』

「お年玉ってのはな、昔は『御歳魂』って言ったんだぞ」

 御歳魂ってのは、歳神にお供えする丸い鏡餅のことだ。ああ、元々は金(カネ)じゃなくて、餅だったんだ。
「だから俺は、お前らに現金の代わりに餅を配ろうと思う」
 まあまあ、そう文句を言うな。何? 餅なんかじゃあ、欲しいゲームソフトも買えないって?
「餅を使って遊べばいいじゃないか」
 食べ物で遊んじゃいけませんとか、急に殊勝なことを言うじゃない

もっとみる
短編小説『学べるクスリ』

短編小説『学べるクスリ』

 わたしはテーブルの上の小さな瓶をじっと見つめていた。
「『知識薬』ねぇ」
 瓶のラベルにはそう書いてあった。なんとも胡散くさい。
 確かに、わたしも悪かった。久しぶりに自動販売機のドリンクでも飲もうかと思いついたまではいい。せっかくだから変わったものに手を出してみたいと考えるのも悪くない。でも、ディスプレイの端にひっそりとあった「?」とだけ書かれた商品に手を出すべきではなかった。考えなしに行動す

もっとみる
短編小説『微笑むUFO』

短編小説『微笑むUFO』

 いまどき「UFOを見た」なんて言っても、誰も気にとめやしない。SNSに「いいね」が1つでも付けばいいところだ。
 しかし、今現在俺が遭遇しているUFOはそれらと一線を画す、なんとも奇妙なものだった。
「まだ、いるよ」
 空を見上げ、ため息をはく。視線の先、空の向こうに丸い物体が浮かんでいる。強烈な違和感と共に。
「くそ」
 ソレから逃げるように踵を返す。しかし、
「なんで、いるんだよ」
 再び見

もっとみる
短編小説『ブロックチェーン人間』

短編小説『ブロックチェーン人間』

 ブロックチェーンに全意識がアップロードされた人間は、新しい自分に適応しようとしていた。
「どうも自分が自分でないような気がするんだ」アレックスは言う「不思議な感じだ」
「わたしにはそれが素晴らしいことのように思えるけど」妻は答えた「新しいあなたの一面が知れて、わたしはうれしいわ」
「なるほど」
「でも、そういうふうに思えるのは、わたしたちがいままでとは違う関係にあるからかもしれないわ」彼女は言っ

もっとみる
短編小説『モノクロ男』

短編小説『モノクロ男』

 男は街を歩きながら、自分が幽霊にでもなったような気がしていた。
 喧騒に溢れた中にいても何も心が動かされない。音も光も、色さえも。分厚いフィルタの向こうにあるように感じた。まるで自分だけカラフルな世界から切り離されているようだ。

 彼は何のあてもなく歩いているわけではなかった。
 目的地があるのだ。いや、あったというべきか。その目的とはいったいなんだったのか。いまはもう思い出せない。ただ足が勝

もっとみる