オリカワハツセ

考えたり書いたりしてます。

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最近の記事

ショートショート『登山依存症』

「その子、そんなに山登りが好きなの?」  好きどころの話じゃないわ。山があったら登らずにはいられない。しばらく山に登らないと、体が震え出すくらいよ。 「禁断症状が出てるじゃない」  そこに山がないのが悪い、なんて真顔で言うくらいなんだから。 「そりゃあ筋金入りね」  ハイキングやトレッキングはもちろんのこと、縦走登山に藪漕ぎ、雪山スキーに沢登り、ロッククライミングからアイスクライミングまでなんでもござれよ。 「登山って、そんなに種類があるんだ。あんたも詳しいわね」  あの子

    • ショートショート『壊れかけの望遠鏡』

       ええ。これ、子供用なんですよ。  ずいぶん古びてるって? まあ、何十年も前に両親がクリスマスプレゼントで買ってくれたものですからねぇ。  テレビで見たピカピカの望遠鏡にそれはもう憧れまして。毎日のようにねだっていたものですから根負けしたのでしょうな。  子供向けとはいえ、それなりの高級品を奮発してくれましてね。今にして思えば、父親もこれを機会に天体観察を趣味にしようなどと考えておったのかもしれませんなぁ。まあ、仕事が忙しくてそれどころではなかったようですが。  こいつを手

      • ショートショート『覚醒するコーヒー』

        「コーヒーに覚醒作用があるのをご存じですか?」  朝起きたときとか、午後の眠くなる時間帯とかに重宝してるな。 「こちらのコーヒーは、もっと覚醒できるんですよ」  どういう意味だ? 「飲むと、さまざまな『能力』に目覚めるんです」  能力? 「はい。しかも、豆によって覚醒する能力が変わりまして」  どんな能力なんだ? 「本日のあなたですと、こちらの豆をネルドリップで淹れれば、今日一日は『犬のフンを踏まない』能力が覚醒するでしょう」  能力ってわりには、かなりしょぼいな。 「まあ

        • ショートショート『翻訳グミ』

          「本当に、コレを食べるだけでいいのか?」  はい。こちらはさるルートから入手しました特殊なコンニャクを原料にしておりまして。一粒食べればたちまち新しい言語が習得できるという代物になっております。 「効果はずっと続くのか?」  いえ、残念ながら一粒で一時間といったところで。 「まあ、それでもじゅうぶんか」  どの言語の習得をご希望で? 「明日、重要な取引先との商談があってな。完璧な英語が使えるようになりたいんだ」  でしたら、こちらのリンゴ味ですね。 「味に違いがあるのか?」

        ショートショート『登山依存症』

          ショートショート『ココロの接着剤』

           本当に、そんなモノが存在するの? 「俺も最初は疑ってたんだけどな」  実際に使ってみたの? 「ああ。まずは試しに、家庭用タイプをな」  家庭用? 「身内にしか効果がないんだと」  へえ、誰に使ったの? 「いつもガミガミうるさいオフクロに使ってみたんだけどさ、まったく変わらなかったんだよ」  母親のそれって、愛情の表れなんじゃない? 「仕方ないから、今度は口も聞いてなかった妹に使ってみたんだよ」  どうなったの? 「効果てきめんさ。その日からベッドに潜り込んでくるわ、食事で

          ショートショート『ココロの接着剤』

          ショートショート『Win-Winな靴屋』

           どうせ、すぐダメになる安物の靴ばかりなんでしょ? 「いえいえ、当店の商品はすべてイタリア製の本革靴のみとなっております」  本当に、これがすべて1000円なの? 「はい。値札に書いてある通りです」  そりゃすごい。いいお店を見つけちゃったな。 「ただし、ひとつだけ条件がございます」  やっぱりね。そんなに上手い話なんてありえないと思ったよ。 「これらの靴は、所有権が当店のままとなっておりまして、お客様にはお貸しするだけという形になります」  レンタルってこと? 期限とかあ

          ショートショート『Win-Winな靴屋』

          ショートショート『アダルトツーリズム』

          「えっちな意味じゃないですよ?」  ちぇ、残念。 「このプランは体験型観光となっておりまして。お客さまには実際に大人になった世界を体験していただけます」  大人の世界? 「ええ。卒業旅行ということでしたら、ぴったりの内容かと」  説明だけだと、よくわからないんですけど。幹事としては怪しいツアーに仲間を連れて行きたくないし。 「でしたら、こちらの一日体験を試されてみてはいかがでしょうか」  お金がかかるんでしょ。 「いえ。今なら体験後にアンケートに回答していだだけさえすれば、

          ショートショート『アダルトツーリズム』

          ショートショート『くつろげない喫茶店』

          「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」  いや、ひとつしか空いてないんですけど。 「おかげさまで、連日多くの方にご来店いただいております。お客様は初めてですか?」  最近こっちに引っ越してきたので。 「今後ともご贔屓いただけますと幸いです」  ところで、テーブルの間隔が狭すぎないっすか? 「できるだけたくさんのお客様に来ていただくためのものでして。お客様同士が触れることはないギリギリの距離を維持しておりますので、どうぞご心配なく」  椅子は……あ、固定なのね。 「お水とお

          ショートショート『くつろげない喫茶店』

          ショートショート『骨董品、製作中。』

           おや、お若い方が骨董とはめずらしい。 「テレビ番組に影響されまして」  どんな理由にせよ、興味を持っていただけるのはありがたい限りですな。 「ここは、骨董品店であってますよね」  看板にもそう書いてありましたでしょう? 「ええ。近くまで来ないとわかりませんでしたが」  あまり騒がしいのは好きじゃなくてねぇ。このとおり狭い店ですから。 「それで、骨董品はどこにあるんですか?」  そこの棚に並んでいるではありませんか。 「いや、どれも新品じゃないですか」  そちらの棚は、いま

          ショートショート『骨董品、製作中。』

          ショートショート『美しすぎるゴミ箱』

           最近の若いひとは、すぐに何でも捨てたがっていけませんねぇ。  断捨離だかミニマリストだか知りませんが、捨てること自体が目的になってやしませんか?  日本人の美徳である「もったいない精神」は、いったいどこにいってしまったのですかねぇ。  ほら、あなたの手に持っている鉛筆。まだ芯が残っているじゃないですか。  短すぎて使いづらい? そういったときのためにホルダーがあるのです。  そろばんに使うには、短い鉛筆のほうが重宝されるのですよ。そろばんなんてやらないって? 習っておく

          ショートショート『美しすぎるゴミ箱』

          ショートショート『幸せの万年筆』

           あの、初心者向けの万年筆ってありますか? 「はじめての方でしたら、こちらのカードリッジタイプのものが扱いやすくておすすめですね」  へぇ、万年筆ってインクの補充が面倒くさいイメージがあったけど、こういったのもあるんですね。 「どなたかへのプレゼントですか?」  いや、自分用です。 「お客様のような若い方が、いまどき珍しいですね」  この春から大学に進学するから、そろそろ一本くらい持っておこうと思いまして。 「それは素晴らしい。でしたら、こちらの万年筆はいかがでしょうか?」

          ショートショート『幸せの万年筆』

          ショートショート『塗るだけダイエット』

           本当に、塗るだけでいいの? 「はい。こちらのクリームを贅肉が気になる場所にひと塗りするだけで、たちどころに余計な部分を消し去ってくれます」  うさんくさいなぁ。 「こちらにサンプルがございますので、お試しになられますか?」  まあやってみるか。最近は下っ腹が少し気になってたところだし。 「ダイエットの定番ですな」  ジム通いも三日坊主になっちゃって、どうしても長続きしないんだよね。 「人の性ですな」  どのくらい塗ればいいの? 「表面に薄く膜ができるくらいでじゅうぶんです

          ショートショート『塗るだけダイエット』

          ショートショート『現実的なスケッチブック』

           たかが似顔絵描きひとつに、ぼったくりすぎじゃないかって?  おいおい、人様の仕事に向かって「たかが」なんて言っちゃあいけないよ。職業に貴賎なし。どんなお仕事だって金を払うだけの価値があるんだからさ。  とはいえ、お客さんの気持ちもわからないでもない。そこらの同業者と比べたらべらぼうに高い料金だ。首をかしげるのも納得ってもんさね。  もちろん、ちゃんと理由があるぞ。実はな――俺の描く似顔絵は、すべて「現実」になるんだ。  どういう意味かって、言葉の通りさ。お客さん、自分の顔

          ショートショート『現実的なスケッチブック』

          ショートショート『雲ホテル』

           不思議な名前のホテルだね。どんな由来なんだい? 「名前の通りです。当ホテルは雲の中にございますので」  雲の中? 「ええ。系列ホテルがいたるところに存在する、世界最大のホテルグループでございます」  いやいや、嘘をついちゃいけないよ。 「ご自身で実際に雲の中を確かめたことでも?」  いいや、そんな経験はないけどさ。そんなホテルがあるなら、もっと有名になっているはずじゃないか。 「あまりの上質体験を味わうと、人というのは逆に他人に教えたくなくなってしまうものでして」  ふぅ

          ショートショート『雲ホテル』

          ショートショート『苗字どろぼう』

          「近ごろは、表札を出さない家も多いんだってね」  賃貸暮らしでは、半数以上がそうだって聞くね。 「その情報、もっと早く知りたかったわ」  何かあったの? 「実は、ずいぶんと前にうちの表札が盗まれちゃって」  ええっ、表札なんて盗む奴がいるの? 「私も驚いたよ。しばらくは盗まれたのに気づかなかったくらい」  それで、どうしたの? 「仕方なく、新しいものを作って取り付けたんだけど」  まあ、そうなるわね。 「次の日になったら、消えてたんだよね」  また盗まれたの? 「うーん。ま

          ショートショート『苗字どろぼう』

          ショートショート『防犯ブザーに好かれる男』

          「これが困ったものでして」  好かれるって、どういう意味だ? 「街中で防犯ブザーを持った女性が僕を見かけると、ブザーが勝手に鳴りだすんですよ」  持ち主がスイッチを押していないのにか? 「ええ。なにしろ僕は、一切何もしていないのですから」  その時はどうするんだ? 直ちにその場から逃げ出すとか。 「それだと本当に犯罪者だと勘違いされてしまうではないですか」  しかし、他に方法もないだろう? 「実はひとつ、対応策がありまして」  対応策? 「あえて防犯ブザーに近づくと、音が次

          ショートショート『防犯ブザーに好かれる男』