SUZUKI

弟が自死したことをきっかけに「書く」ことを決めました。 言語化して様々な苦しみを昇華さ…

SUZUKI

弟が自死したことをきっかけに「書く」ことを決めました。 言語化して様々な苦しみを昇華させたい。 苦しいことだけでなく、好きなことも書きます。 自死遺族/重度知的障害児の親/会社員→教員(退職済)/韓国ドラマ/BTS/向田邦子/須賀敦子/山月記 等

マガジン

  • 省略した話(自死した弟のこと)

    マガジン「自死した弟のこと」で省略した話を書きます。 読んで頂けたら嬉しいです。

  • 自死した弟のこと

    2022年秋に32歳の若さで自ら彼岸に行った弟のことを書きます。弟の子ども時代からのこと、自死した場所の片づけやローンの返済等の処理、自死遺族としての心境、自死が家族に与えた影響、まだ悩んでいること等について。

最近の記事

  • 固定された記事

英語の辞書と美川憲一

 小学生の頃、私はひとりぼっちだった。家では離婚したばかりの母が常にイライラしている。妹と弟は姉の私よりも出来が良くて、私はいつも劣っていると感じる。学校に行けば、暗くてオドオドしている私の味方は誰もいない。クラスメイトは勿論、先生だって私のことを嫌っているみたい。先生、いつもグループに入れなくて泣きそうな私を嬉しそうに眺めているね。 苦しい。消えたい。  ある日、母が私にこう言った。 「5年生になったことだし、英語の塾に行ってみない?お母さん、子どもの頃、英語ができなくて

    • 大好きな漫画家の訃報

       子どもの頃より「闘う女子」の漫画やアニメが大好きだった。それは『美少女戦士セーラームーン』や『怪盗セイント・テール』、『魔法騎士レイアース』といった1990年代を代表する女子向けファンタジー作品に始まり、現在は社会で闘う女子(女性)が出てくる作品を好んで読んでいる。例えば、『3月のライオン』のあかりやひなた、『ミステリと言う勿れ』の風呂光が大好きなキャラクターだ。そして、『セクシー田中さん』の朱里。  芦原先生の作品は『砂時計』、『Piece』、『Bread & Butt

      • お正月の味、雪苺娘

         お正月になると必ず食べるものがある。それは、山崎製パンの「雪苺娘」である。子どもの頃、お年玉を貰うと私、妹、弟の3人は近くのコンビニへ行き、揃ってこれを買っていた。こたつに入って皆で食べる。母はお正月も仕事だったから、子どもだけの秘密のお楽しみだった。  一気に食べる弟、普通の速度で食べる妹、チビチビと食べる私。3人それぞれのスピードで食べる。私は好きなものは味わってゆっくり食べたいので、よく家族から 「食べ方がいやらしい」 と言われていた。  別にいいじゃないか。好きなも

        • 「書くこと」と「読むこと」に救われた1年でした。 私の文を読んでくださった方、ありがとうございました。 皆様が幸せでありますように。

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        英語の辞書と美川憲一

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        • お正月の味、雪苺娘

        • 「書くこと」と「読むこと」に救われた1年でした。 私の文を読んでくださった方、ありがとうございました。 皆様が幸せでありますように。

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        • 省略した話(自死した弟のこと)
          4本
        • 自死した弟のこと
          30本

        記事

          羨望と後悔のミックスジュース

           『ぼくのミックスジュース』という童謡を聴いたことがおありだろうか。良いことも悪いこともミキサーにぶち込んで、飲み干せばそこに希望が見えてくるという歌である。作詞は『きんぎょが にげた』という絵本の作者・五味太郎さんで、この歌は『きんぎょが にげた』と同様、とことん子どもの味方でいるという優しさに包まれている。  先日、精神疾患を患いながら社会復帰を果たしたAさんという方とお話する機会があった。優しい笑顔で明るく話しかけてくださるAさんは、とても精神疾患を患っているようには

          羨望と後悔のミックスジュース

          公園のベンチで嬉し涙が止まらなくなった

           何度か書いているが、私の息子には重度知的障害がある。就学前の相談では支援学校の判定が出ず、地域の小学校の支援級に在籍している。  我が家から歩いて3分のところに大きな公園がある。遊具はブランコと滑り台のみだが、広場が大きいここで毎日たくさんの子どもがサッカーや野球、鬼ごっこをしたり、その間を縫うように自転車に乗っている。この公園で遊んでいるのは最寄りの小学校・中学校に通う子どもがほとんどだ。  私の息子は、超がつくほど多動なので、家には居られず、ほとんど毎日この公園で遊ん

          公園のベンチで嬉し涙が止まらなくなった

          一周忌と寄付

           11月になってしまった。去年の11月に弟が亡くなったので、今月は一周忌である。この1年、ずいぶんと苦しい思いをした。  ふとした時に、「どうして助けられなかったのか」と自分を責める言葉と「やれることはやった」と自分を守る言葉が対立し、混乱してしまう。ああ、苦しいなぁ。  命日には弟の遺したお金を寄付しようと決めていた。まだ少し早いが、居ても立っても居られなくなり、パレスチナの女性支援、地元の児童養護施設が公開しているアマゾン欲しいものリストから子ども向けの本とお菓子を送る

          一周忌と寄付

          アライグマ、お前だったのか……

           つい最近のことである。  重度知的障害児である息子が、そりゃあもう派手に癇癪を起こしていた。18時過ぎまで公園で遊んでいた彼は、どうやらお腹が空いたようで、怒りながら「セブンイレブン 行く!!!」と騒いでいる。15時から3時間も公園遊びに付き合い、何度も「帰るよ」と声をかけた私からしたら、ふ・ざ・け・ん・な である。意地でもセブンイレブンには行くもんか。大至急ご飯を作りながら、何度も大きな声を出してしまった。  私が怒鳴っていることが気に入らない息子は、ますます怒り、叫びま

          アライグマ、お前だったのか……

          道端で死んだフリをした小5の自分

           これはあまり思い出したくない記憶なので、書くかどうか迷いました。しかし、ここ最近、朝の小学校で泣いている子どもを何人も見かけることが増えたため、学校が辛い子に向けて書きます。  学校が嫌いでも大丈夫!大人になれる!自分で稼いで、焼肉を食べられる!BTSのDVDだって買える!希望はあるよ。  小学校5年生の時の担任は最悪な人物だった。何が最悪かというと、丸だしの「依怙贔屓(えこひいき)」である。担任は、勉強が出来る子、運動が出来る子、自分を慕う明るい子の順に好きらしかった。

          道端で死んだフリをした小5の自分

          「あ」

           母からの教えで特に印象に残っているものが三つある。一つ、お世話になった相手に対しては当日、後日ともに必ずお礼を述べること。二つ、仕事で誰かが話している時には、「あいうえお」でも構わないから、メモを取ること。そして三つ、誰であろうとお金は貸さないこと。貸すのであれば、あげたと思うこと。  一つ目と二つ目の教えは社会に出るとその効果を発揮し、仕事上で生じる面倒な人間関係のいざこざを和らげてくれることもあったように思う。三つ目は、母譲りの固い金銭感覚のおかげで、人とお金を貸し借り

          「あ」

          そう遠くない障害の世界

           少し前の出来事だが、障害児の親として60人程度の前で自分の体験を語る機会があった。聞き手は普段、障害児者の支援をしている方々だ。  まずは話し手である自分と聞き手の距離を縮めようとし、開口一番「こんにちは!美人がやってきました」と元気に挨拶をした。こういうのは、ご年配の方には特に受けがいい。  前半は重度知的障害のある息子の成育歴を大変だったことを交えながら話し、後半は支援者に知って欲しいことを話した。その知って欲しいこととは、本記事の題名にある「障害の世界は遠くない」とい

          そう遠くない障害の世界

          自由の回復(自死報道によせて)

           7月12日の夜、つけっぱなしになっていたテレビから有名人が自死したというニュースが流れた。正確に言うと、その番組では「自殺」という言葉を使っていたのだが、自死で弟を失った遺族の一人として、私は「自死」という言葉を選びたい。自殺という単語は、弟と同様、そうせざるを得なかった人がまるで罪を犯したように感じられて、使おうとは思わない。追い込まれて亡くなった方々を死後も追い込みたくはないのだ。  自死の報道後、テレビだけでなくSNSや動画投稿サイトで瞬く間に、自死した有名人を擁護す

          自由の回復(自死報道によせて)

          『幽★遊★白書』における推しの変化

           「『幽★遊★白書』の登場人物で誰が好き?」 と90年代アニメを観ていた世代の女性に尋ねたら、おそらく多くは「蔵馬」か「飛影」と答えるのではないだろうか。  私の推しも長らく蔵馬だった。クールだけど優しい、仲間や特に母親に危害が加えられそうになると激怒する。妖狐になるとめちゃくちゃ残忍。南野秀一と妖狐蔵馬とのギャップがたまらない。  しかし、最近になって、『幽★遊★白書』を読み返したら、「桑原くん」が最高なのでは?ということに気がついた。  桑原くんは、不良だけど万引きやカ

          『幽★遊★白書』における推しの変化

          省略した話④李徴(りちょう)

           亡くなった弟の部屋を片付けていたある日、突然 「〇〇(弟)は李徴だったんだ」 という考えが私の頭に浮かんできた。  李徴とは中島敦の『山月記』に出てくる虎になってしまった人物のことである。1日のうち必ず数時間は還ってくる人間の心が虎となってしまった李徴を苦しめる。その場面と弟自身が重なり、 「ああ、〇〇(弟)は完全な虎になる前に命を絶ったのだな」 という思いが私の心にストンと落ちた。  弟の死後に読み返した『山月記』にはこのような描写がある。  李徴が心身ともに虎である

          省略した話④李徴(りちょう)

          省略した話③ノート

           納骨の前日、妹が生前使われていた弟のノートを見つけた。  そのノートはおそらく、弟が入院中から退院した初め頃まで使っていたものだろう。最初の方には同室の隣の男性がうるさいとか、カウンセリングの記録のようなもの——尊敬する人や自分の過去の経験、それについてどう感じたかが何ページにもわたって書いてある。ちなみに、尊敬する人は「母親」だった。私と妹については一切触れられていない。退院したらやりたいことについても書かれており、「マックを食べる」といった直ぐに実現できそうなことから

          省略した話③ノート

          省略した話②30年会っていない父

           母は私が6歳の頃、父と離婚した。妹は4歳で弟は2歳だった。  父は、母に対して殴ったり電話機を投げつけたりするという酷い暴力、専業主婦で子ども3人いる家庭に月15万円しか渡さないという経済的暴力、言葉の暴力というありとあらゆる暴力を振るった暴力の権化のような人物だ。加えて不倫し、不倫相手を妊娠させたというのだから救えない。でも、まだ父の救えない話は終わらない。  なんと父は養育費を払わない馬鹿野郎だったのだ。しかし、離婚して強くなった母は、家庭裁判所で取り決めた養育費を払

          省略した話②30年会っていない父