お正月の味、雪苺娘

 お正月になると必ず食べるものがある。それは、山崎製パンの「雪苺娘」である。子どもの頃、お年玉を貰うと私、妹、弟の3人は近くのコンビニへ行き、揃ってこれを買っていた。こたつに入って皆で食べる。母はお正月も仕事だったから、子どもだけの秘密のお楽しみだった。
 一気に食べる弟、普通の速度で食べる妹、チビチビと食べる私。3人それぞれのスピードで食べる。私は好きなものは味わってゆっくり食べたいので、よく家族から
「食べ方がいやらしい」
と言われていた。
 別にいいじゃないか。好きなものはゆっくり食べたい。なんなら半分取っておいて、翌日も味わいたいのだ。

 弟が亡くなってからも変わらずお正月は雪苺娘を食べる。喪中のお正月は、母と2人で食べた。母がポツリと
「3人でこんな美味しいの食べてたんだ」
と言った途端、きょうだい3人だけの秘密が親に知られてしまったようで、なんだか泣きたくなってしまった。私は、妹と弟の3人だけでこの甘くて美味しい物を楽しんでいたかった。

 父と離婚して以来、女手一つで子どもを育てる母は、いつも家にいなかった。特に子どもの頃は、精神的な意味で私、妹、弟がお互いにギュッと身を寄せ合って生活していたように思う。家事をする私や妹。無邪気な弟。振り返ると、あの頃は「姉」であることが随分と私を支えていた。
 古くて汚い公営住宅に住んでいた私たちがお年玉を貰い、浮かれた足取りでコンビニへ向かう。そして雪苺娘を買う。余ったお年玉は、1年間の漫画雑誌(『なかよし』、『ジャンプ』、『コロコロコミック』)代に充てるのだ。

 今、とても弟に会いたい。そして、お正月はきょうだい3人だけで雪苺娘を食べたい。雪苺娘を食べ終えたら、子どもの頃のように『スーパーマリオRPG』をやりたい。最近、私のマリオのレベルが30まで上がった。そのことを自慢したい。一緒にジャンプの回し読みもしたい。感想を言い合いたい。

 今年のお正月も雪苺娘を食べた。食べながら私は、つくづく弟のことが好きだったんだなぁと気づく。そのことを伝えればよかったな。家のこたつで雪苺娘を1人食べながら、そんなことを感じた年明けだった。

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