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紀行文

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冒険とは新たな思考との出会い。 それをここに書き留めたい。
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土の記憶 其の一

土の記憶 其の一

土の匂い。

それは大地の匂い。

爪は土で黒くなり、身体中から土の匂い。

土の上で寝転がり、土の匂いと共に夢を見る。

土の匂い。

それは冒険の匂い。

コンクリートに生き埋めにされる土。

息ができなくなった土。

土の匂い。

それは遠い昔の記憶。

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土の記憶 其のニ

土の記憶 其のニ

9月初頭、標高1900m級の山々の山頂付近を通る一本の道を歩いていた。すでに、4日間山道を歩いていた私は、コンクリートで固められた道をただひたすらそれに沿って歩けばいいだけの環境に安心感を覚えていた。迷うこともなければ、足元も平らで次はどこに足を置こうかなんて考えなくていい。

心の余裕ができたのだろうか、私はこの山の斜面を削りコンクリートで固められた一本の道について思考を巡らせていた。毎夏のよう

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午前3時

午前3時

私は森の中で眠っていた。

それは突然の出来事だった。

「タタタタッタ」

何かが猛スピードで走りだした。

次の瞬間、それは「ドンッ」という低く鈍い音と共に何かにぶつかった。

そして、その音と共にぶつかられた者が「キーッ」と甲高い声で鳴いた。

「次は私か」

そう思った。

それに喰われると。 (いや、喰うか。)

やはり、その時恐怖が私を埋め尽くしていた。

なす術もなく、ただただ横たわ

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わたしの太陽

わたしの太陽

昨年夏の話だ。

標高3000Ⅿを超える富士山八合五勺で、私は朝日が昇るのを待っていた。

気温は氷点下だ。それに加え、風を遮るものなんて何一つ無い中吹き付ける風は、容赦なく私の体温を奪っていく。

1時間以上待っただろうか。まだかまだかと寒さに凍えながらも、東の空がだんだんと赤く染まっていくのを眺めていた。

私は、一刻も早く太陽の温もりで身体を包み込んで欲しかった。

「早く!」

その赤は次

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ギニア湾のほとりで

ギニア湾のほとりで

あなたにとっての「海」とはなんだろうか。

今日、6月8日はWorld Oceans Day(世界海洋デー)だ。

「世界の海は繋がっているから、国を超えてみんなで海のことを考えよう」と1992年のリオサミットでカナダによって提案された。

海のことを考えるにはもってこいの日だ。ある「海」のエピソードを思い出したのでここに綴っておこう。

2019年春。私は西アフリカのガーナにいた。

現地のNG

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死ぬなら熊に食べられたい

死ぬなら熊に食べられたい

2018年の冬。アフリカへの渡航資金を調達するために、年末年始は実家に帰らず長野のスキー場の旅館でバイトをしていた。

クリスマスの日、私は東京から来た男の子と同じ入職日だった。ロードバイクで日本一周をしたという話を聞き、私はすぐに親しくなれると確信した。

ご飯の時間もNBAの話や、アフリカに行くという話、将来の夢までも語った。

とにかく気が利いて、知識の量も豊富で、人の話を聞くのも上手で素敵

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野生への誘い

野生への誘い

裸足で山を歩くことを夢見てから早2ヶ月。

着々とその夢は実現に向かっている。

先日、家から片道30kmある皿ヶ嶺へ愛車(クロスバイク)と共に向かった。

登山口近くに自転車を止め、山頂に向けて歩き始めた。

初めは農道をひたすら進み、小石が転がる山道を登っていった。途中、車道に出るや否や靴下と靴を脱ぎ捨て裸足になった。

嗚呼、なんという開放感だろうか。

アスファルトの凹凸、

日陰と日向の

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裸足で山を歩きたい

裸足で山を歩きたい

大学4年間腰を据えていた地をもうすぐ去らなければならない私は、近くの低山に全く登っていないことに気がつく。北アルプスそして関東の山ばかりに挑戦し、まさに灯台下暗しというやつだ。

その日は1日で三つの山を縦走する計画だった。朝6時前に家を出て、駅のホームに1分前に余裕を持って着いた。が、なんと早朝で人が少ないのか時間の1分前に電車は去ってしまった。ひと駅で降りて、バスに乗り登山口まで向かう予定だっ

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蝶ヶ岳

蝶ヶ岳

気が付けば秋。

今年の秋は、例年の秋よりも暖かく感じるのは気のせいだろうか。

地球温暖化の影響なのか、それとも、、、

9月の話だが、念願の上高地に行ってきた。テントとシュラフと四日間分の食料を48Lのザックに詰めて。

およそ私の体重の三分の一の重さのザックは、今回の冒険を更に過酷なものにすることとなった。

交通費を節約するために家からヒッチハイクで上高地まで行こうかとも考えたが、このご時

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