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日記とエッセイ

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僕のエッセイです。
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#ショートショート

日記:とても若くて

日記:とても若くて

 まずは想像が大事だ。想像してみよう。僕たちが過ごしているこの夜が一層深くなる様を。夜の肌が黒々とぬれて、ぬらりと艶っぽく光を返している。低く響く声で歌をうたっている。僕たちは深夜には逃げるように歩いた。アスファルトから街路樹に至るまで、そこにある全てが僕たちを襲うかのように感じられていたからだ。
 明日起きられないと、深夜一時すぎに悟ったとき、僕は夜に出て燃えるゴミを片手に走った。アパートを出て

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日記:プロムナード

日記:プロムナード

 こうして眠るまえに文章を書いていると、迷いが私のもとを訪れる。コンコン。ノック。やあ。鍵がかかってなかったからさ、いまは悪いかな?
 あるいは彼は眠気なのかもしれない。どちらにせよ、その人は陽気だ。いま、海上を旅するトビウオのように、活力が全身にみなぎっている。そのふるまいの端々には新しい希望のような、心地よさが感じられる。彼は私の向かいに腰かける。君の話を聞いてあげようというふうに、その両腕を

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日記:ビリーのボサノヴァ

 早春が来て、僕はもう一度ペンを取ることにした。
 ただ、怖くて仕方ない。過去作を彼女と読み返すたびに「本当にこのようなものが書けるのだろうか」という思いがこみ上げる。また、同時に、「これ以上のものが書けるのだろうか」とも不安になる。僕は自分に問いかけるのだ。おまえの才能はすでに使い果たしてしまったのではないか? と。
 「才能」ではないのかもしれない。「熱量」なのかもしれない。
 久しぶりに書い

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妄想と通信#1 「半額の蕎麦」

妄想と通信#1 「半額の蕎麦」

***
眠りても 
我が内に潜む森番の 
少年と古きレコード一枚
――寺山修司

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 僕にはデートの予定があった。12時からのデートの予定だ。グーグルは奇妙な魔法のように電車の到着時刻を教えてみせた。「11時50分」
「11時50分まえには着くみたいだ」
 僕はそうLINEした。
 しかし、11時50分、僕はまだ電車の中にいた。広い庭や畑がちらほらとあり、白い砂の空き地や、文化住宅の並ぶ街並

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