勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(9)
次の日、ボクはあの武器屋へと向かった。
バラモクさんと約束をしていたし、何より旅立ちのために何を準備した方がいいかを知りたかったからだ。
昼間なのに薄暗い路地を抜け、木でできた重い扉を開けた。
「こんにちは――。」
店内には相変わらず、冷たい鉄の臭いが充満していた。
「いらっしゃい。」
「こんにちは、バラモクさん。約束通りに来ました。」
バラモクさんが店の奥から出て来て、迎え入れられる。
今日は椅子を2つ持ってきて、1つを差し出してくれた。
「ほらよ。」
少し緊張しながら受け取り、その場に座る。
ボクが準備のことを質問しようとしたその瞬間――。
「ボウズ、話があるんだが。」
「……何ですか。」
「旅に出るのは、辞めた方がいい。」
予想外の言葉だった。
バラモクさんは、ボクの旅立ちを応援してくれると思っていたのに……。
バラモクさんが言うには、こうだ――。
旅には危険がつきものだが、興味本位で乗り越えられるほど甘くはない。
中で生まれた人間が街を出るのには、色々と面倒なことがある。
それが予想以上に大変で、そうまでして街を出る理由もない。
ましてやボクは若い。
可能性もあるだろうが、この街で暮らせるメリットの方が明らかに大きい。
そして――。
「戦力不足、ですか――。」
「そうだ。」
ボクが戦闘と全く無縁の世界で生きていたというのが、一番の理由らしい。
そんなことってあるか。
「悪いことは言わねえ。もし昨日話したことが一時の気の迷いっていうやつなら、早いうちに諦めておいた方がいい。」
「――そんなことないです。」
「いや、若気の至りっていうやつだ。誰だって1回や2回、そういったことを考える。」
「そんなことありません!」
思わず声を荒げてしまった。
「ボウズ――。」
「あの、バラモクさんみたいに外の世界を知っている方からすれば、ボクは本当に何も知らないかもしれません。でも、ボクには、外に出たい理由があるんです。」
バラモクさんは、黙ってボクの言葉を聞いてくれた。
「ボク、本当は、外の世界で生まれたみたいなんです。父さんが赤ん坊だったボクを見つけて、育ててくれたんです。どこの街だとか、どうして拾ってくれたとか、父さんは何も話してくれないけれど、たぶんそのせいで、父さんは今も貧乏な暮らしのままなんです。ボクがいるから。」
畳み掛けるように、想いを乗せて次から次へと言葉が出て来る。
「――だから、一回自分の目で確かめたいんです。ボクがどんな場所で生まれたのか。本当の父さんや母さんはどんな人なのか。そして、」
思わず息が詰まりそうになる。
「――ボクは、誰なのか。」
(10)へつづく。
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