勇者でもなんでもないボクが、一人で危険な旅に出る話(6)

「やだね。」

喋る剣に、即答で同行を断られてしまった。

経験値豊富な喋る剣が、何も知らないボクの、旅のお供になる。
なんて、少しでも希望を持ってしまった自分が恥ずかしい。

二人の話を聞いていたら、ボクはこの世界のことを本当に何も知らなさすぎる。そんな奴についていったらすぐに死んでしまうという主張だって、何となく納得できてしまう。
やっぱり無理だったか…。
すっかり肩を落としてしまったボクに、おじさんが声をかけた。

「それじゃ、しょうがないな…。」
「俺は、こんなガキの相手は御免だ。帰ってママのおまんま食って寝てろ。」
「俺が行くしか、ないか…。」
「そうだ、ガキは大人しく家に帰れ……、あ?」

えっ、いま何と?

「俺がついて行くしかないだろう、ボウズ。」
「えっ、あ…、はい。え?」
「いやいやちょっと待てよ緑のおっさん!何でそうなるんだ!」

喋る剣が興奮している。
無理もない。ボクもちょっとよくわからない。

「ボウズみたいな奴は、街の外に出たらすぐに魔物の標的になるだろう。生まれて初めての実践が魔物相手の戦闘なんて、生き延びる可能性はものすごく低い。たとえ運よく死ななかったとして、食い物や飲み水を確保できなければ一週間と持たないだろう。」

言われてみれば、確かにそうだ。
隣の街がどのくらい離れた場所にあるのか、外がどんなに危険な場所なのか、ボクは知らない。買い物以外の方法で食料を確保するのだって、飲み水を選ぶことだって、必要なことなのに。

「俺はそんな可能性の低い博打みたいな旅に出るボウズみたいな若者を、見殺しにしたくないだけだ。」
「なっ…!」
「いいだろう、ボウズ。」
「……はい。あの、よろしくお願いします。」
「ちょっと待てえぇい!」

剣が叫ぶ。

「お前が行っちまったら、俺はどうなるんだ!このまま置いて行くのか!」
「だから、何年もこの店にいていいかと聞いただろう。」
「聞いたけど!そうじゃないだろう!」
「そういう意味だ。」
「違う!」
「…という訳だ。よろしくな、ボウズ。」
「はい。」

「話を、聞けえぇい!!!」

(7)へつづく。

この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは、作品の書籍化や、何かの形にする為に使わせていただきます。