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【#98】愛と青春の修学旅行④

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

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2001年(平成13年)6月27日【水】


🍬🍬🍬🍬🍬🍬🍬
花蓮
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「えぇっ、花蓮ちゃんって服部ハンゾウのことが好きなの!?」




修学旅行といえば、ホテル内での恋バナである。

順番に『好きな人』を発表していき、ついに私の番が回って来たのだ。


「うん・・・・・・。あんなのを好きになっちゃって、自分でも困ってる」



半蔵は、幼稚すぎる。
今日のジュラシックパークでの出来事は、本当にがっかりした。
それでも――



「何か、きっかけってあったの?」
「保育園のときにね、遠足で野良犬に囲まれたことがあったの」




あの時は本当に怖かった。
むき出しの牙は、脳裏に焼き付いている。


「そのとき、半蔵が真っ先に助けてくれたんだ」



そして、泣き止まない私にマーガレットの花をくれた。


「へぇ、ハンゾウくんっていいとこあるじゃん」
「バスケやってる姿見たことあるけど、なかなかカッコよかったよ」



あのときのマーガレットは、押し花にして大切に取ってある。


「うん。私が東京に引っ越しても、手紙をやりとりしてたんだ」
「え!?と、いうことは・・・・・・8年も!?」




「実は今も・・・・・・」
「今も!?」


岐阜に引っ越しきてからも、文通は続いている。
学校では話す時間が限られるし、私たちはケータイを持っていないからだ。

といっても、今は学校で直接手渡ししているのだが――



「それってゼッタイ両想いじゃん。付き合ってないの?」



付き合っては、いない。
そもそも、半蔵が私のことをどう考えているのかも、わからなくなってきたのだ――




 🍜🍜🍜🍜🍜🍜🍜
半蔵はんぞう
🍜🍜🍜🍜🍜🍜🍜


『デーモンの召喚』魔降雷まこうらい!!」

「くっ、俺の『ドラゴン族・封印の壺』がっ!」


 

修学旅行中にやる、遊戯王はいつも以上に白熱するぜ。

僕たちは、ホテルの個室で堂々と・・・遊戯王のカードゲームをしていた。


 

無論、遊戯王のカードゲームは、表向きは・・・・持って来てはいけないことになっている。

見つかれば即没収だ。

 

だが、裏社会では遊戯王を合法・・にする裏技がある。


 

「おーい、見回りに来たぞー」

 

先生が、ノックもせず、いきなり入ってくる。

だが、僕らは誰一人取り乱すことなく対応する。

 

「先生、修学旅行は楽しいですね」

 

「おぉ、この部屋のメンバーは楽しそうにトランプ・・・・をやってるな」

 

テーブルの上に広がるトランプ・・・・を見て、先生が感心する。

 


裏技とは、『トランプの端に、遊戯王のカード名を書く』ことだった。

 

 

こうすれば、一般人にとっては、ただのトランプにしか見えない。

没収されることなく、『決闘デュエル』ができるのだ。

 

「ほんじゃ、先生は行くからな。ちゃんと就寝時間を守れよ」

「はーい」

 

(くっくっくっく。修学旅行中に、究極完全態グレート・モスを完成させてやるぜ・・・・・・!)

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

知らない土地のゲーセンは、ワクワクする。

どんなゲームが置いてあるか、行ってみなければわからないのが楽しい。

 

遊戯王を堪能した僕は、抜き足差し足で、ホテルのゲームコーナーに向かっていた。

無論、先生に見つかったらアウトだ。

 

しかし、今は部屋長会をやっている時間。

そのわずか20分間は、警備が手薄になっているはずだ。


【※】
 文字通り、各部屋のリーダーが集まる会。
 教師も参加するため、見回りが手薄になる。


(くっ)

それにしても、花蓮のビンタは強烈だった。
まだ頬に感触が残っている。

どうやら、僕は相当マズイことをやってしまったらしい・・・・・・。

 

地下にあるゲームコーナーにたどり着く。

テニスコート2面ほどのフロアに、ゲームが隅々まで並んでいた。

(あれは・・・・・・)

 

誰かがゲームをプレイしている。

見たことのある後ろ姿に近づき、声をかけた。

 

「優菜ちゃん、さすがだね」

「待ってて、今ゲルググを仕留めるから」





出典:youtube(下記リンク)
【時短営業配信】池袋ゲーセンミカド 機動戦士ガンダム連邦VSジオン プレイ配信  20210313
配信者:MIKADO GAME CENTER2さん

 
【※】
 『機動戦士ガンダム 連邦VS.ジオン』が2001年3月14日から稼働した。
 これ以降長く続くことになるガンダムの"VSシリーズ"の始祖の作品。
 通称『連ジ』。

 シンプルな操作性と高い原作再現度(足音まで再現!)で、格ゲー衰退期を迎えたゲーセンを救った作品である。



 

うまい。

圧倒的に不利と言われる連邦軍側のモビルスーツで、ジオン軍を制圧している。

 

『わが軍の勝利です』

 

「ふぅ、半蔵くんなら来ると思っていたわ」

「久しぶりだね、優菜ちゃんとゲーセンで会うの」

「初めてゲーセンで会ったのは、小学校1年生のときだったね。あの頃は同じクラスだったのになぁ」

 

優菜ちゃんとは、あれから一度も同じクラスになっていない。

僕としては、さびしい。

 

「あの頃さ、半蔵くんのことが好きだったんだよ」

 

突然の告白。
僕は何も言うことができない。

 

「もぉ、なんか言ってよ」

「いやぁ、超意外だったから」

 

そんなこと、全然気づかなかった。


 

「半蔵くんてさ、ほんと鈍感だよね」

「え、そうかな」

「花蓮さんのことは、大切にしてあげなくちゃダメだよ」

 

なぜ、ここで花蓮のことが出てくるのだろう?


「私はもう部屋に戻るわ。半蔵くん、先生に見つからないようにね」


まぁいい。
気を取り直して、僕は太鼓の達人に100円を投入した。



【※】
 2001年2月21日から稼働したナムコのゲーム。
 日本の伝統楽器である『和太鼓』を取り上げ、子供でも簡単にプレイできる操作性を実現した。
 大ヒットを記録し、稼動開始から20年以上続く人気長寿シリーズとなった。


(つづく)

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